●「第2回ソーシャル活用売上ランキングセミナー」報告
第1回 ローソンが進めるソーシャルマーケター育成戦略が明らかに
第2回 好意的なツイートに積極的に話しかけるオルビスのアクティブサポート
第3回 HIS、60もの観光地別Facebookページ開設し、参加型企画で「支援者」育成
第4回 ユーザーローカル、ソリッドインテリジェンスらが明かす、ソーシャル活用の「勝ちパターン」と「未来予測への応用」

 「顧客側にも十分な情報が行きわたってカスタマーパワーが増大している時代には、従来の企業中心のマーケティングは機能しなくなる」

エイチ・アイ・エス 本社事業開発室の山岡隆志室長

 日経デジタルマーケティングが主催したイベント「ソーシャル激戦時代に売る秘訣 第2回ソーシャル活用売上ランキングセミナー」に登壇した、エイチ・アイ・エス本社事業開発室長の山岡隆志氏はこのように述べ、「顧客を中心に考える、ソーシャルメディア時代に合ったマーケティング思考」の重要性を訴えた。

 同社は「ソーシャル活用売上ランキング」において、総合スコアが2012年の51.4ポイント(42位)から2013年は65.5ポイント(13位)へとジャンプアップした。Facebookページのファン数やLINEの友だち数などを基に算出した「リーチスコア」で5位にランクインしたことが飛躍の要因だ。

「新しいメディアはまず試してみる」

 同社が開設するLINEアカウントの友だち数は現在350万人を突破。Facebookページは21万人のファンを持つFacebook公式ページのほかに、ハワイや台湾、パリなど観光地別に約60の「いいね!海外旅行」ページを開設しており、ファン数は計40万人と公式ページの倍の水準に達している。

 今年2月末には、LINEの競合に当たる無料通話・メールアプリ「カカオトーク」でも公式アカウントを開設し、オリジナルスタンプやクーポンを配信するキャンペーンを展開した。山岡氏は、「LINEほどのパワーはなかったが、それでも8万人のファンを獲得できた」と成果を語り、「新しいメディアはまず試してみる」のが基本方針であると言う。

 ただ同社の場合、「ソーシャルがはやっているから」といった安易な理由でアカウントを闇雲に開設しているわけではない。山岡氏は、アカデミックなマーケティング理論の裏付けを基に進むべき方向性を熟慮した結果、ソーシャルメディアの活用に解を見いだしている。

 「欧州の著名なマーケティング学者であるクリス・グロンルース氏(※フィンランドのハンケン・スクール・オブ・ビジネス教授)は、『マーケティングの目標は、企業が顧客の価値創造の機会を作り、支援すること。企業はその価値のファシリテーター役を求められ、顧客の価値創造プロセスに企業側が参加するという謙虚な姿勢が必要になってくる』と語っている」


 「情報の非対称性が崩れて顧客側にも十分な情報量が行き渡る環境下では、ネガティブなことも含めてありのままに情報を提供することが望ましい。目先の利益よりも顧客の利益最大化を優先する『アドボカシー・マーケティング』の概念が、ソーシャルメディア時代にはますます重要になる」

 「コインバトール・クリシュナラオ・プラハラード氏とベンカト・ラマスワミ氏(※ミシガン大学ビジネススクール教授)が2004年に提唱した『価値共創の未来へ』では、『企業と顧客が一緒に価値を“共創”する。市場はその“場”である』という考え方が示されている。企業と顧客がインタラクティブに協同する関係性づくりが成功をもたらす」

 山岡氏の口からは、こうした海外発のマーケティング理論や概念がポンポン飛び出した。そして企業と顧客がインタラクティブに協同する概念にのっとった施策として実行に移したのが、ソーシャルメディアを活用した消費者参加型マーケティングだ。

 その一例として、昨年夏に実施したローソンHMVエンタテイメントと共同で実施した「音旅キャンペーン」を挙げた。両社のTwitterアカウントをフォローして「行きたい場所」と「そこで聴きたい曲」をツイートすると、計2000人に50Pontaポイントが当たる、というもの。

HMVとのキャンペーンは好評で第3弾まで実施

 「まずはやってみる」というスタンスだったため、両社のオウンドメディアとソーシャルメディア以外、告知する予算はゼロだったが、「想像以上の参加者で盛り上がった」(山岡氏)。またアンケートにより海外旅行先でCDを買う人が4割に上ることも判明し、音×旅の親和性の高さも裏付けられたため、第2弾、第3弾と続くキャンペーンになったという。

小さく始めて、顧客の声を聞いてみる

 山岡氏は、「最初から3回分のキャンペーンを企画して告知予算を付けるという議論だったら、当たるか当たらないか不確定要素が大きくて、実施は難しかっただろう。多額の告知予算を投じなくてもソーシャルキャンペーンは実行可能なので、まずは小さく始めてみて、顧客の声を聞いてみる。そして顧客と一緒にキャンペーンをつくっていく。そんな考え方が必要になってくるだろう」と振り返った。

 こうした“協働”できるファンが多ければ多いほど、それは販促効果につながり、また他社とのコラボレーション企画などでも“交渉力”を持つことになる。同社はKPI(重要業績評価指標)として、RTやシェアされれば自社のメッセージが届く、自社のファン・フォロワーの友だち総数を重視しており、その数は約1700万人と年間の海外旅行者数の規模に達している。

 山岡氏は、今後もこのリーチする範囲を広げつつ、“協同キャンペーン”を展開することで、顧客からリピーター、さらにはマーケティング支援者へとロイヤリティが高まっていくファンを増やしていく考えを示し、「マーケターの力量が問われる時代」であることを訴えて講演を締めくくった。

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第4回 ユーザーローカル、ソリッドインテリジェンスらが明かす、ソーシャル活用の「勝ちパターン」と「未来予測への応用」
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