工具や機械部品などを中心とする、BtoB(企業間取引)向けのEC(電子商取引)サイト「MonotaRO」を運営するMonotaROの業績が好調だ。2012年12月期の売上高は前期比28.9%増の286億3900万円、営業利益は同44.5%増の29億1300万円と大幅な増収増益となった。
同社は新規顧客開拓のために、SEM(検索エンジンマーケティング)を強化。さらに、顧客情報を精緻に分析した結果に基づくワン・トゥ・ワンマーケティングを実現することで、CRM(顧客関係管理)を強化して獲得した顧客のLTV(顧客生涯価値)向上に努めた。SEMを軸とした新規顧客開拓とCRMという、2つの歯車がうまく回り始めたことが、成長の大きな原動力となった。「まだまだ改善点は多いが、ようやく成果が出始めた」と橋原正明マーケティング部長は胸を張る。
新規顧客の獲得とCRMという2つの施策の効果を高める上で、MonotaROが昨年から力を入れて取り組んでいるのが、Webサイトの閲覧履歴や行動履歴の活用だ。収集した膨大なデータをそれぞれの施策に生かしている。まず、新規顧客の獲得件数を高めるための活用法について紹介しよう。
サイト内の行動からキーワード選定
同社のECサイトでは約330万という、膨大な量の商品を扱っている。これらの商品を探している企業のニーズと商品を、検索エンジンを介してマッチングさせる精度を高めれば、成約率の向上が見込める。ただ、「ニッチな商品ほど、どういうニーズで探しているかの仮説が立てづらい」(橋原氏)。
そこでキーワード選定に、Webサイトの閲覧履歴や行動履歴を活用する。検索エンジンから対象商品のページに流入する際の検索キーワードは当然のことながら、対象商品を購入した企業が、MonotaRO内でどんな検索キーワードで探して購入したのかといった履歴情報を基に、見込み客のニーズを商品ごとに探る。こうした情報を基に、見込み客のニーズにマッチすると思われる様々なキーワードを検索連動型広告に出稿する。
出稿する検索キーワードの評価方法も変えた。従来は、成約率だけで評価してきた。だが、橋原氏は成約率だけでキーワードを評価した場合、「1回の成約の有無で評価が大きく変わってしまう」と指摘する。
仮に月間で100件のクリックがある2つのキーワードを比較し、片方のキーワードは1件の成約があったとする。ところが、実はその成約は偶然によるもので、もう一方のキーワード検索でサイトを訪れた見込み客の方が、滞在時間も長く、サイトの改善次第では今後の成果をより高められる可能性を秘めていたとしても、成約率だけでキーワードを評価していては、その可能性にすら気付かない恐れがある。そこで、成約率だけで評価するのではなく、様々なKPI(重要業績評価指標)を設けて、多角的な視点で評価する方法を昨年から採っている。
MonotaROは各キーワードからサイトを訪れた後の滞在時間や、直帰率なども加味して評価している。滞在時間が長いキーワードがあれば、その誘導先のページを分析して、商品に対するレビューや商品写真の有無、出荷までにかかる日数などから、どういった情報があれば成約に結びつくかの仮説を立てて、サイトを改善する。
こうした施策を繰り返すことで、SEMの効果を高めた。その結果、MonotaROの3月の月間新規顧客獲得数は、初めて2万件を超えた。昨年同月比で、約5000件増加したことになる。
レコメンドの精度高め成約率1.5倍
続いて、CRM施策への活用方法だ。MonotaROでは顧客ごとに最適な商品を掲載した販促メールを作成するために、Webサイトの閲覧履歴などを活用している。「新規の顧客は目的を持って商品を買いに来る。その顧客をリピーターにすることは、かなりハードルが高いだけに、顧客ごとに的確な商品を提案する必要がある」(橋原氏)。
同社では、従来から過去の購買履歴に基づいたメール配信を実施してきた。例えば、「手袋」というカテゴリーの商品に関するキャンペーンを計画したとする。過去の購買履歴を基に、このカテゴリーの商品を購入する可能性の高い顧客層を割り出して、その顧客層にだけ対象のキャンペーンメールを配信して告知する、といった具合だ。
しかし、これだけではレコメンドの精度としては不十分だと橋原氏は考えた。これまで重視してきた購買履歴という情報は、購入したという事実があるため情報の質は高いものの、量としては少ないという。一方、情報の質では購買履歴に劣るが、量では圧倒的に勝るのが、サイト上での商品閲覧履歴の情報だ。これらの情報を包括的に分析することで、より精度の高いレコメンドを実現する。MonotaROでは、昨年からそんな取り組みを始めている。
例えば、ある顧客XがAとBという2つの商品を過去に買っていたとする。すると、過去にAとBを購入したことのあるほかの顧客の購買履歴から、C、D、Eという商品がレコメンドの候補として算出される。さらにその顧客Xは、以前Cという商品を過去に閲覧していたとする。この情報を加えれば、Cが最も顧客Xに購入される可能性の高い商品だと予測できる。MonotaROが作り上げた仕組みには、このようなロジックが多数組み込まれている。
こうして、顧客ごとに最適なお勧め商品を加えたメールを配信できるワン・トゥ・ワンマーケティングの仕組みを構築した。新しい仕組みを使って配信したメールは、従来の方法で配信したメールより成約率が平均で1.5倍高くなるなど、成果が出始めている。
今年度はこの仕組みにさらなる磨きをかける。購買履歴、閲覧履歴に加えて、例えば顧客企業の規模や業種、地域といったデータを加味してレコメンド商品を選び、その効果を測定することを繰り返す。その結果を基に、システムのロジックに細かな修正を加えていく。
デジタルマーケティングは広告効果やWebサイトのアクセス状況を見ながら、改善を繰り返して効果を高めていくのが一般的な手法だ。ただ、BtoB事業の企業や中小企業はアクセス数や成約率が少なく、改善に必要なデータが十分ではない企業もいるだろう。Webサイトの閲覧履歴などを加味することで情報量を補い効果を高めるMonotaROのデジタルマーケティング戦略は、そうした企業にとって大いに参考になるはずだ。