NHN Japanの執行役員ウェブサービス本部事業戦略室の舛田淳室長

 「2013年末には、『LINE』利用者のうち国外の利用者が7~8割を占めることになりそうだ」

 3月26日、日経デジタルマーケティングが主催したイベント「徹底解説!LINEマーケティング活用セミナー」に登壇した、NHN Japanの執行役員ウェブサービス本部事業戦略室の舛田淳室長は、無料通話・メールアプリLINEの今後の成長を見据え、こんな見解を示した。

 昨年の3月時点で、LINEのダウンロード件数は2000万にとどまっていた。それからわずか1年でグローバルの登録数は1億2000万人超、そのうち国内は4500万人超の規模にまで急拡大した。これに基づく比率では日本の利用者は4割弱だが、舛田氏は、この比率が大きく変わると見る。

 その根拠の1つとして舛田氏が挙げるのが、スペイン語圏で利用者が急拡大していることだ。スペインのみならず、中南米各国で利用者が急速に増えている。さらに利用者拡大を後押しするために、3月からはスペインでテレビCMの放送も始めた。こうした施策をほかの国や地域でも加速させる。

 2月には新興国への浸透を狙い、フィンランドの携帯電話端末メーカーのノキアと業務提携を結んだ。ノキアの低価格モデル「Asha(アシャ)」向けにLINEを提供して、Ashaの注力市場である東南アジア、中南米、アフリカなどでの利用者獲得を狙う。

 こうして、世界においても利用者が急拡大するLINE。そのLINEが持つ価値は、大きく3つに集約できると舛田氏は言う。「パソコンからスマートフォンへの変換」「オープンからクローズド、プライベートへの変換」「インフォメーション(情報)からエモーション(感情)への変換」である。その中でも、クローズドでプライベートなソーシャルメディアのニーズの高まりは、特に重要な価値であると舛田氏は強調する。

プライベートな空間を目指した

 舛田氏は、オープンなSNSの象徴として、Facebookを挙げる。Facebookでは、友人、家族、同僚、取引先が「友達」という大きな括りにまとめられる。ただ、実際の生活においては、それぞれの関係ごとに距離感があり、付き合い方や会話の仕方も異なる。こうして、様々な距離感の“友達”が増えることで、利用者は気を使って、徐々に本音を投稿しづらくなる。

 そうなってきたときに、「本当に仲のいい人とだけつながれるクローズドなソーシャルメディアという、ニーズが新しく生まれた」と舛田氏。こうしたニーズに沿って開発されたLINEの開発コンセプトは、「ネットを介して新しいつながりを作るのではなく、日常生活で仲のいい人とのつながりをより強くしてもらう」(舛田氏)というもの。

 このコンセプトを実現するために、目を付けたのが携帯電話番号だ。電話帳にお互いの電話番号を登録しているということは、日常生活でも密接な関係にあるという仮説の下、電話番号とLINEのIDをひも付けることで、クローズドでプライベートな空間の構築を目指した。

 このようなプライベートな空間だからこそ、他者の目を気にせずに友人と会話ができる。それが、1日に22億件というメッセージのやり取りにつながっているという。舛田氏は「LINEで実現したかったのは、茶飲み話のような雑談を気軽にできるサービス」だと、理想とした状況になりつつあると説明した。

 こうしたLINEの持つ価値を国外でも伝えて、「世界中の人々が円滑にコミュニケーションをとれるサービスを目指す」として、舛田氏は講演を締めくくった。

LINE@は既に数千社が活用

 続いて登壇したNHN Japanの出澤剛取締役は、LINEのマーケティング向けサービスや活用事例について解説した。

NHN Japanの出澤剛取締役

 LINEのマーケティング向けサービスは2つに大別できる。1つが企業や店舗のアカウントに登録した消費者に対して、メッセージを配信できるアカウントサービス。メッセージにクーポンを付与するなどして、来店促進などに利用できる。もう1つが、企業の製品やキャラクターなどを大型の絵文字「スタンプ」として提供できるサービスだ。ブランディングやアカウントサービスの登録者数獲得に利用できる。

 このうち、アカウントサービスは大手企業向けと中小企業向けの2つに分けられる。大手企業向けのサービスは昨年6月に始まりローソン、日本コカ・コーラ、パナソニックといった企業が活用している。アカウント開設と同時に、すべてのLINE利用者に告知されるため、一度に数十万~数百万人を集められる可能性を持つ。ただ最低料金が月額200万からと高額だ。

 一方、昨年12月に始まった「LINE@」は月額5250円で利用できる。このサービスにより、中小企業にもLINEのマーケティング活用の門戸が開かれた。ただし、店舗や企業が主体となって、登録者を集める必要がある。このサービスが開始から出足好調のようだ。「既に数千社が利用している。店舗数では3万以上が参画していることになる」と出澤氏は明かす。

 例えば、若年層向けアパレルブランド「LIP SERVICE」を展開するクレッジ(東京都渋谷区)では、昨年末のセール時期にLINE@の活用を始めた。活用前後の同期間で比較して、売り上げは50%増となったという。

 また、CD・DVD販売チェーンのタワーレコードでは、広島店から活用を開始。600人のファンに対して、10%割引のクーポンを配信したところ、約150人の購買につながった。こうした成果から、活用店舗を増やしている。

 中小店舗も巻き込んで広がるLINEの経済圏。NHN JapanではこれらのLINE@利用店舗をLINE上の仮想商店街として捉え、全店共通ポイント「LINEマイレージ」の提供も視野に入れる。LINE活用企業の顧客を相互誘導する仕組みを取り入れることで、O2O(オンラインtoオフライン)のマーケティングプラットフォームとして、さらに発展させていく計画だ。

反響の大きさが時には課題にも、ケンタッキーのLINE活用

 続いてLINE公式アカウント開設企業として、日本ケンタッキー・フライド・チキン経営企画室の干場香名女マネージャーが登壇した。同社LINEアカウントの友だち数は、講演当日の3月26日に495万人に達し、コカ・コーラを抜いてローソン(約660万人)に次ぐ2位に躍り出た。現状、1日9000人ペースで増加しており、間もなく500万人の大台に乗る人気アカウントである。

日本ケンタッキー・フライド・チキン経営企画室の干場香名女マネージャー

 2010年の創業40周年に合わせてTwitterアカウントを開設した同社は、翌年にFacebookページを開設。「ソーシャルメディア専門の部署を営業やマーケティングではなく経営企画室の直下に置くことで、販促一辺倒ではなく消費者とのつながりを重視して運営してきた」と言う。

 そうした関係構築をした上で、昨年7月4日に実施した「オリジナルチキン食べ放題!」や、同年9月9日のカーネル・サンダース生誕を記念した「オリジナルチキン1年分プレゼント」といったイベントをソーシャルメディア主導で展開。これがバズとなって多数のツイート、ファンやフォロワー数の急増、そして多数の来客、応募につなげる成果を収めた。

 こうしたソーシャル企画をリードした干場氏が、次に注目したのがLINEだった。昨年6月にWeb広告研究会のセミナーに参加してLINEの威力を知り、「特にスタンプはカーネル・サンダースにピッタリだ」と直感。すぐさま社内で提案し、10月に公式アカウントを開設。若い層が多いLINEユーザーにランチセットの割引クーポンを中心に配信し、翌11月にスタンプの配布を始めた。

 「約300万人にダウンロードされ、総利用回数は1人10回に上る計算。クリスマス商戦に向けたスタンプ施策で、友だち数が飛躍的に増えた。LINE投稿日に自社サイトのPVも伸びるサイクルが発生し、例年年間最高PVになるクリスマスイブの日を上回ってしまった。特にマス広告で届きにくくなった10代~20代女性への手応えが大きい」と言う。

 LINEで定期的に割引クーポンを配信してまだ5カ月ではあるが、反響の傾向をつかみつつある。

 「反響が大きいのは、LINEユーザー限定で配信しているもの。割引率の高いもの。またTwitterで実施しているキャンペーンを紹介するとTwitterフォロワーが増えるため、他のソーシャルメディアへの送客効果も大きい。一方、チラシや他のソーシャルメディアにも載せている同じ情報やクーポン。『コーヒー170円が100円に』といった割引額が小さいもの。ファミリーやグループ向けのセット商品の割引などは総じて効果が薄い」

 ただし大きな反響は時として問題になることも。

 「LINEの友だち数350万人突破を記念して、『ポテトS200円が10円』という大胆な割引率のクーポンを配ったときは、コンバージョン率が12%に達し、行列ができる店も出て話題になったものの、若い層はなかなか併売につながらず、一部店舗からは苦情もあった」

 こうした課題を受け干場氏は、「今後、購入者限定でスタンプをダウンロードできるような、LINE利用と購入を結びつけた“マストバイ型O2O施策”を展開していきたい」と抱負を語った。

リピーター獲得にLINE@を活用、新興ピザ店

 4人目に登壇したのは、LINE@を活用するツヅクル(東京都武蔵野市)の續大輔(つづく・だいすけ)社長。窯焼きマルゲリータを350円で販売するなど、激安ぶりが話題になっているピザ店「ナポリス ピッツァ&カフェ」を展開する遠藤商事(東京都武蔵野市)を支援したマーケティングコンサルタントである。

 ナポリスは昨年4月に1号店を東京・渋谷にオープン。現在フランチャイズチェーン(FC)1店を含めた2店舗という規模ながらも、同年12月にLINE@がスタートするのとほぼ同時に利用を始めた。

 わずか2店しかない中小飲食店が、なぜいち早く新サービスの導入を決めたのか。續氏は「お客と店が濃い関係性を築くのに適していたから」と説明した。

 一般に飲食店はファーストオーダー時、皿などを片付ける時、会計時など、顧客接点を持てるタイミングが複数ある。しかしナポリスはピザ1枚を90秒で焼き上げるスピード提供が自慢の店。顧客の滞店時間は短い。業態の目新しさと顧客の回転で売り上げを確保する事業モデルは、リピーターの獲得が経営の安定にとって不可欠となる。

ツヅクルの續大輔社長

 「LINE@なら、送り手の企業と受け手のユーザーとの“距離”を縮められるのではないか」

 それがリピーター作りに寄与するだろうと續氏は考えた。

 利用開始から3カ月が経過した3月時点でナポリスが獲得した友だち数は約1800人。単純計算で1カ月当たり600人。大手企業が開設する公式アカウントとは比ぶべくもないが、「自分が一人で運用していることを考えれば、十分に合格点だ」と續氏は評価する。

 今後も友だち数を増やすべく務めていく一方、LINE@導入の目的である友だち一人ひとりとの関係性を強め、単なるお客でなく、ナポリスのファンになってもらう施策を打っていく。

 柱となるのはLINE@のメールで配信するクーポンだ。ナポリスは商品価格が安く、商品原価率は高く、結果利幅は薄い。大手飲食店チェーンのような高い割引率でお客の目を引く類のキャンペーンは実施できない。要は運用担当者のセンス次第ということになる。續氏が例として挙げたのは今冬に実施した「雪の日クーポン」だ。

 「(クーポンの画面を見せれば)ホットコーヒーを1杯無料とするもの。『こんな雪の日にも元気に営業中っす』といったフレーズを添えることで、『頑張っているなあ。店に行ってみようか』といった共感を呼ぶ狙いがあり、成果は思惑以上だった」

 飲食業界には、誰もが知る3大グルメサイトがある。それが定番の集客手段であることはまぎれもない。では新参のLINE@、そのROI(投下資本利益率)はどうか。「キャンペーンの自由度が高く運用も簡単。決して割高ではない」というのが續氏の結論だ。今後加速するFC展開を見据え「より効果的なLINE@の活用方法を今後も追求する」と言う。

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