焦らず規模を拡大させた後に、売り上げ貢献を本格化させる――。旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)のソーシャルメディア活用が新たな段階に入った。本誌調査の「第2回ソーシャル活用売上ランキング」では、前回の42位から15位へ急伸。各種ソーシャルメディアの公式アカウントのファン数規模を総合した「リーチスコア」が全体で5位となったことが寄与した。LINEや、50以上ものFacebookページを運営してリーチを拡大させることで、キャンペーンを通じた売り上げへの貢献も徐々に見え始めた。

 同社は、約350万人の登録者を抱えるLINE、20万人以上のファンを持つFacebook公式ページなどのほか、Twitter、mixi、YouTubeなど多数の“窓口”をソーシャルメディア上に構える。Facebookページが50以上の数に上るのは、台湾、ハワイ、パリなど地域別に「いいね!海外旅行」ページを運営しているためで、これらのファン数合計は30万人以上。公式ページを超える規模に成長している。「(ソーシャルメディアなど評判を得るための場である)アーンドメディアはその力が(事前には)よく分からないので、まずはいろいろ試す。その上で効果やポテンシャルを確認する」(本社事業開発室の山岡隆志室長)という活用方針が生んだものだ。

「いいね!海外旅行」シリーズのFacebookページは50以上の地域で展開

苦戦だからこそ規模を拡大

 いいね!海外旅行シリーズが始まったのは2011年4月のこと。バンコク、ハワイ、バリなどHISの海外支店の規模が大きい地域で、海外支店が現地の情報を発信する目的で開設した。しかし、始めた当初はファン数は数十人規模で伸びが鈍かった。多忙な海外支店にとって発信のメリットは薄く、「何の意味があるか分からないとも言われた」(山岡氏)と苦戦が続いたという。

 苦戦なら中止を考えるのが常識だが、HISはその逆の戦略をとった。2カ月後の同年6月に30都市へと拡大したのだ。支店規模が大きいという企業側の都合でページ開設地域を決めるのは「ソーシャルっぽい発想ではない」(山岡氏)との判断から、多くのページを受け皿として用意して、参加したいページはユーザーが選ぶという考えだ。

 すると、台湾など同社が予想しなかった地域から盛り上がりを見せ始めた。ファンから写真投稿も寄せられるようになり交流は活性化し、ファン数が1万人を超えるページは現在11地域となっている。

 投稿内容は各地の支店が投稿する現地の観光情報などで、キャンペーンやツアー情報などHISの商品情報はあえて避けて、ファンの拡大を優先してきた。そうしながら、ファン数4万人を超えたハワイでは、その盛り上がりを邪魔しないように配慮しながらも販促への活用を始めている。昨年10月、Facebookアプリを使った「H.I.S.アロハ検定」を実施し、合格者にはHISのツアー割引クーポンを提供した。

 同社全体のソーシャルメディア活用戦略においても、「まずはファンの友達数も含めた最終リーチを広げることを優先してきた」と山岡氏は説明する。その結果、直近ではFacebookページのファンと、そのファンの友達数を合計した人数は1600万人となった。ファンがHIS発の情報をシェアしてくれれば、それだけの人数に情報を届けられることを意味する。約350万人の登録者を抱えるLINEなども含めれば約2000万人に情報を届けられる可能性を秘める。日本人海外旅行者数が約1700万人(2011年、法務省調べ)であることを考えると、それなりにリーチの基盤は築いたことになる。それ故、ソーシャルメディアを活用した販促にも力を入れ始めた。

キャンペーンを機動的に展開

 その“武器”となるのが昨年11月に独自開発した「ソーシャル基盤」だ。宝くじの一種であるロトを模したゲーム、クイズなど6つの機能を持ち、それをカスタマイズすることでソーシャルメディア連動キャンペーンを実施できる。「それぞれのキャンペーンを一から作ったら数十万円かかるところ、改修費の数万円で済む」(山岡氏)ため、機動的にキャンペーンを実施できる。

 昨年12月にはローソンHMVエンタテイメントと、グアム旅行、または両社のクーポンや共通ポイント「Ponta」のポイントが当たるスクラッチくじキャンペーンを実施。約1万1000人が参加し、提供したHISでのクーポンの利用率は、通常のソーシャル連動キャンペーンの7倍にもなったという。

 同社とのコラボは、これで3回目。昨年8月に初めてTwitterを利用した共同投稿キャンペーンを実施したところ、告知広告が無かった割には多くの参加が集まった。また、旅行前には音楽CDを買う人が多いことがアンケートにより分かったため、第2回、第3回と共同キャンペーンを続けてきた。「まずはやってみる」というソーシャルメディア活用方針が販促への効果まで生みつつある。

HISのスマートフォン向けサイト

 昨年11月には、スマートフォン向けサイトを開設して、モバイルを活用した販売も本格的に開始している。従来の携帯電話向けサイトは、ツアー商品などをメールで案内してサイトや電話で申し込みを受け付ける限定的なものだった。新サイトでは販売機能を向上させて、海外航空券も含めてパソコン向けサイトと同様の品ぞろえにした。ハワイや台湾など目的地別、ツアーや航空券など商材別の案内ページも用意したところ、サイトへの訪問者数は前年比3倍と大きく伸びている。

 ソーシャルメディアはスマートフォンで利用されることが多い。米フェイスブックは昨年9月に利用者が全世界で10億人を超えた際、6億人以上がモバイルで利用していると公表している。今後、旅行EC(電子商取引)のスマートフォンへのシフトが進めば、HISのソーシャルメディアを通じたリーチ力は、ECサイトへの集客に貢献する“資産”ともなり得る。

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