3月6日、東京・恵比寿の「ウェスティンホテル東京」で、サッポロビールの新商品「百人のキセキ」を披露する発表会が開催された。会場では、常務の市川誠一郎・生産技術本部長が驚きを隠せない様子だった。

 「通常は商品開発から販売まで少なくとも1年はかかる。ところが、百人のキセキはわずか半年しかかかっていない。ソーシャルメディアとECサイトを活用することで、商品開発のスピードはグッと早まった」

 短期間で発売にこぎ着けた秘訣は、もう1つある。生産から流通、そしてECサイト担当者まで巻き込んだ組織横断のプロジェクトチームを結成し、意思疎通を迅速にしたことだ。

 商品開発段階からFacebookを通じて一般消費者にも参加してもらったため売れ行きにもある程度期待が持てる。3月22日からECサイト限定で販売する3000セットのうち半数売れれば損益分岐点は超える。Facebookページ上に設けた“商品開発会議”には、延べ1万2000万人の消費者が参加したというから、その1割強が1セットずつ買ってくれれば御の字だ。

 驚くのは、ここからだ。こうした取り組みを2013年度からは、常設組織で推進していくという。そのため3月21日に新設したのが「デジタルマーケティング室」である。これまでサッポロでは、Webでのビジネス経験を持つ人材が複数部署に点在していたが、それを集約。12人が所属するデジタルマーケティング室はデジタルを活用した新しいビジネスモデルや、ビールの新しい販促手法などを開発していく。

製造部門まで巻き込むデジタルマーケティング組織

 その1人が鈴木雄一氏。生産技術本部でマネージャーを務め、百人のキセキの商品開発を担当してきた。彼の本業は商品開発だったため、デジタルのプロというわけではない。

 デジタルマーケティング室を統括する営業本部企画推進部の大谷光弘部長は言う。「(デジタルマーケティングを知り尽くした)スーパーマンなんてそうそういない。必ずしもデジタルのプロである必要はない」。

 大谷氏自身、百人のキセキに携わるまではソーシャルメディアを使ったこともなかったそうだ。「意識するのは、既存のビジネスにとらわれないこと。もちろん、ある程度は勉強しなければならないが、詳細な技術的な話は支援会社などに協力してもらえばいい」と割り切る。

 例えばサッポロでは、昨年4月からデジタルマーケティング支援のネットイヤーゼロ(東京都港区)と共同で、北海道の魅力を発信するFacebookページ「北海道Likers」を運営している。22万人を超えるファンも集めた。

 サッポロ側の複数部署がネットイヤーゼロとのやり取りをした結果だが、煩雑さは否めなかったのだろう。今後は窓口をデジタルマーケティング室に一本化する。北海道Likersを足がかりに、北海道の店舗だけを集めたECモール事業も視野に入っているという。

 世にデジタルマーケティング室は数あれど、サッポロほどの規模のメーカーで、企画、生産、流通というほぼ全工程の人材を集約する試みは、恐らく国内初だろう。同社の試みは、経営とデジタルマーケティングを一気に近づける可能性がある。その土壌があればこそ、データサイエンティストといった専門スキルを持った人材の真の力が発揮される。

(前編) これがデータサイエンティストだ
(中編) 生き残りが難しいスキル、脱SEM専門家へ全社で方針転換
(後編) 組織改革との両輪で専門スキルは生きる、サッポロビールの試み
(特別編) 「デジタルマーケティング職に求められる人材像」アンケートに寄せられたコメント紹介(読者の方以外も閲読可能)