無料通話・メールアプリ「LINE」を使い、街を活性化させる。東京の下北沢で、そんな取り組みが密かに産声を上げた。
旗振り役となるのは、下北沢に4つある商店街の1つ「しもきた商店街」をまとめる、しもきた商店街振興組合だ。LINE運営元のNHN Japan(東京都渋谷区)の中小企業向けマーケティングサービス「LINE@」を活用して、下北沢に消費者を呼び込むことを狙う。

しもきた商店街振興組合が運用しているLINE@のアカウント(@shimokitainfo)を、下北沢という街全体の情報を伝えるアカウントとして情報発信をしようと、現在、ほかの3つの商店街にも参加を呼びかけている。承諾が得られれば、下北沢全体のアカウントとして運用を始める計画だ。
「『東京ソラマチ』や『渋谷ヒカリエ』など、新しい商業施設ができて競争が激しくなる中、下北沢には目玉がない」。同振興組合の柏雅康理事長は、こんな問題意識を抱えていた。3月23日からは小田急線下北沢駅の地下化という問題も降り掛かる。「電車の中から下北沢の街を見て、ふらっと立ち寄ってくれる。地下化によって、そんなお客さんも少なくなる恐れもある」と柏氏は危機感を募らせる。
もちろん、集客策を講じてこなかったわけではない。例えばハロウィーンに合わせ、仮装して街を巡ってくれる子供を募集するイベント「しもきたキッズハロウィン」には1000人を超える応募が集まった。ただイベント後に再来訪を促す手段を持っていなかった。
舞い込んだのが、LINE@開始のニュースだった。「チラシを作るにも印刷費などの費用がかかる上、どれほどの集客につながるか分からない。それならLINE@の方が効果も把握しやすいし、顧客の囲い込みにもつながる可能性があった」と、同振興組合の廣田一朗理事は言う。
下北沢を訪れた人たちに、LINEのアカウントを登録してもらえれば、その後にイベント情報などを配信できる。メールマガジンなどと違い、LINE@の利用者は、メールアドレスを登録する必要もないので、心理的なハードルも低いとされる。可能性を感じた廣田氏はすぐ、NHN Japanに利用を申し込んだ。
しもきた商店街に加盟する店舗にも広く利用を呼びかけた。下北沢の街には大きな商業施設こそないが、アンティーク雑貨専門店、古着屋など個性的な店が細い路地に数多く軒を連ねる。そんな小さなお店でも、人気店には行列ができることもあるという。「そうした個人店が集客に成功してくれることが、街全体の活性化につながる」(廣田氏)。
既に20店舗が活用を決めた
振興組合の考えに賛同した店舗運営者からは、続々とLINE@への参加申し込みが寄せられている。既に約20の店舗から申し込みが寄せられた。古着屋、エステサロン、美容室など業種は様々。商店街では、これを50店舗以上に増やしていく計画だ。
女性向け靴店「フタバヤ靴店」もLINE@の活用を決めた店舗のうちの1つ。同店を営むフタバヤ(東京都世田谷区)の山中一亨社長は、振興組合からLINE@の紹介を受けるまで、LINEの存在すら知らなかった。
ところが、LINEについて自身の家族に聞けば、20代を中心とした娘や息子たちはもちろんのこと、妻までLINEを使っていることが分かった。同店の顧客は高校生~20代前半の女性が中心だ。顧客層と重なる、自分の娘からLINEの話を聞くうちに、山中氏は「お客さんとつながり、リピーターになってもらえるツールとして可能性がある」と感じるようになった。
また、「VALON」と「Lanp」という、2店の古着屋を営む無量井大介氏も、「もっとお客さんと親密になれる可能性がある」と感じLINE@の活用を決めた。同店はサイバーエージェントのブログサービス「アメーバブログ」を使い新商品の入荷情報などを告知してきた“デジタル活用積極派”。それが売り上げにも大きく貢献しているという。
ただ、せっかくブログを見て来店してもらっても、その後にアプローチする手段を持たなかった。LINE@では、現時点では登録者との双方向のやり取りはできないが、「今後、案内した入荷商品について値段やサイズを直接やり取りできるようにしてもらいたい」(無量井氏)とNHN Japanへの要望を語った。
もっとも、利用を申し込んだ店舗の中には、LINE@に可能性は感じるが、使い方が分からない店舗もある。こうした店舗には、廣田氏が手取り足取り活用法を指南する。廣田氏は、自身が経営する靴の販売店「下北沢アメリカ屋」の集客策として、FacebookやTwitterを活用して2000人以上のファンを集めた経験を持つ。LINE@も他店舗に先駆けて、いち早く始めた。この知識をほかの店舗にも伝えて、積極的に利用してもらう。
3月中に申し込み店舗のLINE@のアカウントが一斉に情報発信を始める。今後は、自分の店だけではなく、しもきた商店街のアカウントや、仲のいいほかの店のアカウントなども紹介し合いながら、登録者数の増加を目指す。
下北沢の取り組みは始まったばかり。まだ大きな成果はない。今後ほかの商店街を巻き込みながら集客に取り組んでいく。廣田氏は「LINE@を活用して街を活性化した最初の事例になり、ほかの街にも参考にしてもらえる存在になりたい」と語った。