サッポロホールディングス(HD)がポッカコーポレーション買収を発表して約2年。今年1月には、サッポロHD傘下のサッポロ飲料とポッカコーポレーションを統合した「ポッカサッポロフード&ビバレッジ」が事業会社として動き出した。

 ポッカサッポロフード&ビバレッジは昨年3月の設立以降、2社統合を推進する受け皿としての役割を担ってきた。その一環として、昨年12月25日に新たな企業サイトを開設。国内企業では珍しい注目すべき取り組みを始めた。

 新サイトの設計と今後の運営に当たって、商品やサービスに対する顧客のロイヤルティを測る指標「NPS(ネットプロモータースコア)」を採用したのだ。背景には、PV(ページビュー)、UU(ユニークユーザー)至上主義となりがちなWeb担当者に対する、新任マネージャーが感じた問題意識があった。

ポッカサッポロフード&ビバレッジの企業サイト

 新サイト構築プロジェクトが始まったのは2011年12月。責任者となったのが、その2カ月前に商品企画の部署から異動してきた戦略企画本部マーケティング企画推進部コミュニケーショングループ課長代理の阪本欽一氏だ。買収発表の10カ月後のことである。

 阪本氏は着任早々、Webサイト運営の在り方に問題を感じた。

 「半期の目標を担当者に尋ねると、Facebookページを立ち上げるなどのプロジェクトを出してくれるが、目標に置くのはPVやUUとなる。確かに人事考課上も分かりやすい指標ではある。しかし、その目標を達成するために食品とは関係ない人気商品を使って懸賞キャンペーンを実施するというが、果たしてそれが企業サイト運営の目標に沿ったことなのか」

 他社の人気商品でサイトに人を集めても、応募直後にサイトを離れてしまっては元も子もない。こうした話は同社に限ったものではないかもしれない。PVやUUは企業サイトにおける運営目標の達成度合いを測る「中間指標」のはず。最終目標が不明確だと中間指標の達成に振り回されて、施策全体が迷走してしまう恐れがあった。

 もっとも、飲料・食品メーカーでは企業サイト運営の目標を定めるのが難しいのも事実。「缶コーヒーを買う前に今日は何を買おうかと、ネットで調べ回る人はいませんよね」と阪本氏は笑う。

 サイト上での購入や資料請求の獲得が目標の企業サイトと比べると、何を成果として捉えるかは不明確だ。最低限の目標として、顧客窓口によく寄せられる食品アレルギー問題や取り扱い商品情報などに関する回答をサイトに載せて窓口の負担を減らす、来社する取引先向けに営業拠点の地図を載せる…。そうした役割はあるとはいえ、最低限の情報だけ載せたサイトをコストを抑えて作れば、ブランディング上の悪影響が出かねない。

 数千万円規模の投資をするのであれば、ロイヤルカスタマーを増やし、商品の売り上げを高め、企業収益に貢献するのが本来の目標であるはずだ。阪本氏は新サイト構築の承認を取り付ける会議の中で、「収益貢献するWebサイトを目指します」と役員に宣言し、プロジェクトに取り組んだ。

顧客ロイヤルティを測るNPSに着目

 2012年1月に制作会社へ、オリエンテーションを実施して、3月にWeb制作大手のアイ・エム・ジェイ(IMJ)への発注を決定。約3カ月かけて企業サイトの戦略を策定した。その中でIMJから提案があったのがNPS調査だ。

 NPSとは、顧客のロイヤルティを測る指標の1つだ。調査に当たっては、アンケートで「あなたが○○(企業やブランド名)を、友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか?」と尋ね、0点(勧めない)から10点(勧める)の11段階で回答してもらう。

 10~9点の回答者を「推奨者」、8~7点の回答者を「中立者」、6点~0点の回答者を「批判者」と定義。全体に占める推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値をNPSとする。例えば推奨者が25%で、批判者が15%であれば、NPSは10%となる。これをポッカサッポロの商品ごとに測ってロイヤルティを高める要因などを分析し、新サイトの戦略を立てる上での材料にしようというのだ。

NPS(ネットプロモータースコア)の算出方法

「ブランド調査はしたし無駄なお金になるので不要」

 阪本氏は当初、「既に様々なブランド調査をしているし、無駄なお金になるので不要だ」と断った。また、「(飲料などは)コモディティー(汎用品)化した商品カテゴリーであり(有意な)数字は出にくいにのではないか」とも考えた。ただIMJの強い薦めや費用面の問題も解決したことから、実施に踏み切った。

 各商品の購入者を対象に調査した結果、「面白い数字が出た」(阪本氏)。そもそも競合商品との比較調査はするが、自社商品内で比較したことがなかった。結果は以前から持つ感覚値と同様ではあったが、料理に使うレモン果汁の「ポッカレモン」が相対的に高い数値となった。

 ポッカレモンは売り上げ規模では社内の他商品と比べ小さいが、市場シェアは圧倒的に大きい。シェアが高いということは消費者の支持が高いといえよう。それと相関するようにNPSが高くなった。そこで、NPSをKPI(重要業績評価指標)にすれば、顧客ロイヤルティを高めて収益へ貢献するように企業サイトを運用できるのではないか。阪本氏はそう考えて、NPSをKPIに採用することにした。

 そもそも、企業サイトを訪問するのは既にロイヤルカスタマーである可能性が高い。そこで、NPSが高いレモン関連のコンテンツの充実や導線の強化を優先した。サイト上部のグローバルナビゲーションに「商品情報」や「会社概要」などと並んで、「レモン生活」を置いたのもその表れだ。今後、レモン関連コンテンツの一層の強化を進める方針だ。

 ただ、NPSをKPIとするには課題も残る。本来NPSとは商品の顧客ロイヤルティを測るものであり、商品自体がヒットすればサイト担当者の取り組みとは関係なくNPSは高まる。とはいえ、PVやUUも他の広告展開などの影響を受ける点では同じ。NPSを高めるように取り組みを進める方が、本来のサイトの目標達成に沿うものであると判断した。もう1つの課題はシステム面。商品購入者でありサイト利用者でもある人に無作為調査をするためのシステム改修法を検討中だ。

 企業サイトを通じたロイヤルティ向上、収益への貢献という作業は緒に就いたばかり。阪本氏は「ロイヤルティを高めるにはコミュニティの運営しかないと個人的には考えている」と語り、同社の商品に関連したテーマでのコミュニティ運営を検討したいとしている。コミュニティ運営での成功例はほとんどないことも把握しており、困難は承知の上で顧客ロイヤルティや収益の向上に貢献する企業サイト運営への道を探っていく。

■修正履歴
記事掲載当初、阪本欽一氏の名前表記が一部誤っておりました。本文は修正済みです。[2013/3/4 18:00]
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