日産自動車が一風変わったテレビCMを展開中だ。フジテレビ系列のドラマ「カラマーゾフの兄弟」内で、90秒のオリジナルCMドラマ「バカリーズムの兄弟」を放送。CM内で2択の選択肢を提示し、ネット投票の結果から次回のCMの放映内容を変更する。「CMスキップ」との課題に対しテレビ番組やネットとの連携で解決の糸口を探そうというものだ。早くもその成果が出始めた。

 CMスキップは録画機器の普及だけが原因でなく、生視聴中でもCMになるとチャンネルを変える行動は以前からよくある。視聴率は番組中と比べCM中に落ちるのが当然だという。

ネットでの投票を促すCM映像

 同社はフジテレビと協力して、昨年4月から夜11時台のドラマ枠を使ってテレビCMにおける新しい挑戦をしてきた。ネット投票という仕組みは昨年10月のドラマ「高校入試」から取り入れた。今年1月の新ドラマでも継続して音楽や衣装など本編との連動を強めた。CMはこんな具合に展開する。

 日産の小型車「ノート」の助手席に座るのは、お笑い芸人のバカリズムさん演じる大富豪一族の長男。彼は相続の権利がすべて次男に引き継がれたことを嫉妬していた。隣で運転する執事に「(弟を)具体的にどのように憎いですか」と尋ねられると、「もう一周して逆に好き」などとボケる。CMの最後に「ところで今日の予定は?」と執事に尋ねたところで「A.家族会議」「B.事情聴取」と表示される。その後「謎バカリで検索」と特設サイトへ誘導し、投票を受け付ける。次週のCMは投票数が多かったネタで展開する、というものだ。

投票数は3カ月で10倍

次回のお題選択の投票数推移

 開始当初、投票数は400票台だったが、昨年11月には1000票を突破。Twitterで50万人以上のフォロワーを持つバカリズムさんが告知に協力してくれた影響もある。さらに今年1月に入って投票数は4000票超まで急増した。3カ月で10倍になった計算だ。

 番組自体の視聴率に大きな変化はないが、従来はFacebook内で受けつけていた投票を特設サイトに移行させ、誰でも投票できるようにしたためだ。拡散機能は特設サイト内に各種ソーシャルメディアへの共有ボタンを持たせることで維持した。同社のマーケティング本部宣伝部課長の高橋秀之氏は、「規模感はまだまだだが、どこかで急にはねるものだと思う」と長い目で評価する。ただ、CMに触れた人の評価は「若い人の方が特に好意的な調査結果が出ている」(高橋氏)と言う。ノートは幅広い世代に向けた小型車だが、発売直後の予約は50歳以上が過半を占めており、若い世代への訴求が課題だ。その点で価値ある反響といえよう。また、日産のテレビCMの間は視聴率が落ちなくなっているという。

 テレビCMの最後に「○○で検索」と表示してネットへ誘導する手法はここ数年で常識となったが、今回の施策はテレビCM自体の価値も高める点で異なる。高橋氏によれば、「マスでの情報がネットでさらに拡散し、そして(マスに)戻ってくるという流れを意識した」。一方通行でなく双方向、より深い統合こそがテレビCMとネットの連携施策の価値を高める。

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