メーカーが自社EC(電子商取引)サイトを展開して顧客と直接つながることで、従来は難しかった顧客の声をリアルタイムに得ることを可能にする。そうしてつかんだ顧客の生の声を参考に、商品、広告やWebサイトの改善に生かす――。

 リンナイでは、そんなメーカーならではのECの在り方を模索してきた。その結果の1つが、同社が昨年12月に実施した商品のモデルチェンジだ。顧客の声を基に、自社ECサイト限定のテーブルコンロ「HOWARO(ホワロ)」を、発売からわずか1年で改良したものだ。

 同社でも異例なスピードの刷新について、管理本部eビジネス推進室の福本啓史室長は「当社のECの目的は顧客とのつながりを強化すること。そのために顧客の声を聞いて、商品を高速で改善しながら期待に応えなければならないと考えた」と背景を説明する。

 HOWAROを購入してくれた人から、リアルタイムにメールなどのアンケートで意見を聞いて、要望を即座に商品などに反映させていく。リンナイでは、こうして顧客の声に迅速に対応をすることで、顧客満足度を高めて継続的にリンナイの商品を購入してもらうことを目指す。顧客と直接つながりにくいメーカーには難しかった施策だが、リンナイは自社ECを舞台に実践し始めた。そして、HOWARO購入者が知人への贈り物として再購入する「テーブルコンロのリピーター」といった珍らしい現象まで同社は引き起こしている。

販売データを参考に、従来の2倍以上に当たる11色を展開

 今回のモデルチェンジにおいて最も大きな変更点は色に関して。HOWAROは、テーブルコンロとしては珍しい白いボディを採用している。旧型では、一目見ただけではほとんど分からないが、コンロの上部と下部は素材が違うことから、わずかに色が異なっていた。顧客へのアンケートの結果、その点を不満点として挙げる人が多かった。

 わずかな違いが「白いコンロ」を求める消費者の目には大きな差として映ったのだろう。「白いコンロを買ったのに白くない」。そんな風に思う人も少なくなかったという。中には、それを理由に返品する人もいた。そこで、生産部門と交渉の末、新モデルではこの差もなくした。その結果、「色の違いによる返品は一切なくなった」(福本氏)。

 色の違いだけではなく、「もっと白い面積が多い方が良い」との意見も多数寄せられた。そこで、旧型では黒いパーツだった魚を焼くグリル部分を、新型では白いパーツに切り替えた。

 また、白いつまみの一部にカラフルな差し色が入る。新型ではこの色のバリエーションを、従来の2倍以上の11色へと拡充した。これは、販売データという顧客の声なき声を参考に立てた仮説に基づいている。リンナイではHOWAROの発売前に、どの色が人気かを知るため、事前に消費者調査を実施したことがある。最も人気だったのは黄緑と黒、次いでピンク。不人気だったのがグレーだった。

 ところが、実売データでは一番人気は圧倒的にグレーだった。なぜグレーを選ぶのか。それも顧客に直接聞いた。答えは「シンプルだから」。この回答から、管理本部eビジネス推進室の加藤麻里主務は、新たな仮説を思い立つ。「実はこのグレーも、最もシンプルな色を消去法で選んでいるだけで、それほど満足はしていないのでは」。そんな仮説だ。確かに、ほかの色は黄緑やピンクなど比較的派手な色が多かった。

 そこで新型では仮説検証のため、グレーのほか、グレーベースの青、グレーベースのピンク、ベージュなど計11色を展開、従来の2倍以上に増やした。自社で製品を開発するメーカーだからこそできる、思い切った施策だ。

 結果、かつて一番人気だったグレーは上位3位圏外となり、ベージュが一番人気となった。次いでグレーベースの青、グレーベースのピンクだ。こうしたデータも、自社ECだからリアルタイムの把握が可能になる。消費者調査だけでは分からないリアルな顧客像がそこにある。

 若い女性にコンロをインテリア感覚で選んでもらう。HOWAROはそんな新しい需要開拓の試金石として開発された商品だ。ただHOWAROは、若い女性と直接接点を持ち、CRM(顧客関係管理)を実施するための第一歩。今後も、商品だけではなく、取り付けサービスの提供や配送期間の短縮なども実施予定で、これまで以上に顧客満足度を高めていく考えだ。