連載第1回の続きです。

 JINS PCという全く新しい商品カテゴリーを育成する際に効果的だった「売れる空気」は、既存商品の売り上げ増でも有効に作用する。

 昨年11月11日、この日は午前0時の時報とともに終日、「ポッキー」の文字が怒涛の勢いでTwitter上を飛び交った。これは、江崎グリコが企画した、「ポッキー」を含むツイート数でギネス世界記録認定を目指したキャンペーン「TRY WORLD RECORD on Twitter」の一幕だ。それまで24時間で最もツイートされたブランドが、昨年9月発売時の「iPhone 5」で108万ツイートだった。江崎グリコが「ポッキー&プリッツの日」と定めている11月11日にこれを超える111万ツイートを目指そう、と企画したものだった。

ギネス挑戦に消費者をうまく巻き込んだ 江崎グリコ

 iPhoneは世界同時発売で全世界のTwitterユーザーが対象だったのに対し、ポッキーはあくまで国内キャンペーンである。一見すると無謀な企画であるようにも見えた。ところが、ツイートしたところでプレゼント一つ当たるわけでもないこの企画にTwitterユーザーは大挙して参加。目標を大きく上回る184万3733ツイートを得て、「24時間で最もツイートされたブランド」の世界記録に、ポッキーが認定されたのだった。

売り上げも前年比1.5倍増

 「お祭りでしょ?」と侮るなかれ。簡単な作業とはいえ、無報酬でこれだけの人数の協力を得られたのは、巧みな「空気づくり」があったからにほかならない。

 もし、同社がいきなりポッキーの日とうたってツイートをお願いしても、これほどの盛り上がりはなかっただろう。同社がポッキー&プリッツの日を制定したのは平成11年(1999年)、11月11日のこと。企業が一商品ブランドに記念日を設ける先駆けとなる取り組みだった。

 以来13年、この日に同社は毎年イベントを実施してきた。2011年には通天閣、空中庭園展望台、神戸ポートタワー、京都タワーの関西4タワーとコラボレーションしてイベントを実施し、来塔者先着1111名にポッキーまたはプリッツをプレゼントするなど、「11月11日=ポッキーの日」という認識を広く浸透させた。

 一方、Twitterを使ったキャンペーンも実は今回が3回目と恒例化しつつあった。2010年11月11日は、午前11時11分~22分の11分間に「ポッキーを!食べよう! #pocky1111 」のツイートを募集。2011年は、「11月11日にしたいと思うこと」を午前11時11分から1時間の間に、ハッシュタグ付きでツイートする内容で、その時間帯には「ポッキー」が「Google急上昇ワード」でも1位になる実績を積んでいた。

 今年は何をやるのだろう。そんな期待に「ギネスに挑戦」で応え、参加者を誘引していった。

 果たして、キャンペーンの成果としてポッキーは売れたのだろうか。1が並んだ2011年の11月1日~11日はそれまでの過去最高の売り上げを記録し、翌2012年の同期間は、出荷額ベースで前年比1.5倍増に達した。Twitter上では「ポッキーがどこの店も売り切れだ」という嘆きの声や、何店舗目かでやっと購入できた喜びの声とともにポッキーの写真が投稿されて盛り上がる。結果として、それが品薄感をあおりユーザーを買いに走らせることになった。

 「知名度は十分だが、長いこと買っていない・食べていない人が多数」という調査結果に危機感を抱いて始めたこの取り組み。2012年はギネスに挑戦だけでなく、11月1日~11日にかけて、さっぽろテレビ塔から福岡タワーまで全国11タワーを「グリコワゴン」が巡回する企画も進行していた。

 グリコワゴンは、「お菓子とともに笑顔を届けたい」というミッションのもと、東日本大震災後は定期的に被災地を訪れることでも知られる。巨大なポッキーのパッケージをルーフに乗せたユニークな車体はひときわ目を引く。人が集まるリアルの場に出ていくことで格好の被写体となり、ソーシャルメディア上に投稿されやすい。こちらもクチコミしたくなる空気をまとっている。年1回とはいえ、多くの消費者にポッキーを想起させ、売り上げにも直結させている点で、同社の取り組みは成功と言っていいだろう。

他店の期限切れクーポンを“再生”

 既存商品やサービスの売れる空気づくりキャンペーンとして、もう一つ紹介しよう。吉野家グループで讃岐うどん店チェーン「はなまるうどん」を展開する、はなまる(東京都中央区)の取り組みだ。

アナログなキャンペーンがデジタルで話題沸騰したはなまるうどん

 ひときわユニークだったのが、同社が昨年4月2日から5月6日まで実施した「期限切れクーポン大復活祭」キャンペーンである。日本全国あらゆる企業や団体が発行した割引券やクーポン券で期限切れになったものを持参すれば50円引きになる(300円以上注文の場合)という異色の内容だ。

 きっかけは、当時はなまる社長だった河村泰貴氏(現吉野家ホールディングス社長)の素朴な疑問だったという。「特に女性に多くみられる、あの膨れた財布には何が入っているのか」。

 周辺をリサーチすると、色んな店でもらう割引券やクーポン券がたまって、膨れてしまうケースが多いことが分かった。頻繁に整理しないと、期限切れのものまでため込んでしまいがち。それは未使用クーポンがいかに多いかを物語っていた。

 いつか使うつもりで取っておいたクーポンが期限切れで使えないのはもったいない。一時的にでも期限を撤廃すれば、消費を刺激できるのではないか。そこで同社は、世にあふれる期限切れクーポンを、自店舗で再利用できるキャンペーンを組んだ。

 リリース作成に当たっては、ニュースに取り上げられやすいように自社のメール会員を対象に実施したアンケート結果を掲載。財布に割引券やクーポン券が入っている人は7割、うち使用期限切れのものが入っている人は6割に上るという調査結果だ。これがニュース記事の補強材料に使われた。

 リリース日の3月23日に新聞報道され、テレビのワイドショーのピックアップコーナーで放送されるとたちまち話題になり、Webニュース媒体も一斉に記事化に走った。この記事見出しがソーシャル上を飛び交って話題がさらに増幅した結果、「はなまるうどん」は「Google急上昇ワード」で6位にランクイン。通常、1日400件前後で落ち着いている「はなまる」関連ツイート数は、突如1300件を超えた。

 同社の経営企画室販売促進担当の西脇有希子氏は「広告換算値で2億円相当の露出があった」と分析。最終的に期限切れクーポンの回収は12万枚に上り、売り上げは平時の3%増となったという。

 ちょっと考えてみれば、このキャンペーンは一部条件付きの50円割引セールにほかならないのだが、一味加えることでこれほど空気が変わる。これは面白いとツイートし、財布を開けて期限切れクーポンが目に留まったら、思わず店舗検索してしまうだろう。

 「人に伝えたくなる」「自分ゴトとして情報を探したくなる」──。この2要素を意識してプランニングすることで、売れ行きは大きく変わるはずだ。

第1回 パソコン用メガネ「JINS PC」、ヒットの秘訣は売れる“空気”作り
第2回 ポッキーの日制定14年目でギネス記録、はなまるの期限切れクーポンキャンペーン
第3回 自民圧勝を分析し、売れる商品の肝をつかむ