昨年10月から兵庫県西宮市と大阪市北区梅田の2地域で異なるO2O(オンラインtoオフライン)の実証実験を進める阪急阪神グループ。参加店舗は数百にも上る大規模なものである。中核を担うのが阪急阪神カード(大阪市北区)。グループ共通のクレジットカードやポイント事業などを展開しており、グループのCRM(顧客関係管理)を横断的に担う存在だ。実証実験に際しては新たにモバイル会員制度「SMART STACIA」(スマートスタシア)を立ち上げた。その会員、2万人が実証実験の対象者となる。

 スマートフォンのアプリを使うO2Oという点は共通だが、その手法が西宮と梅田では異なる。理由は「周辺施設との競合環境や立地により取り組むべきO2O施策は異なるはずだから」だと阪急阪神カードの富永憲企画部長は説明する。

スマートフォンを端末にかざすとポイントがたまる

 まず商業施設「阪急西宮ガーデンズ」の場合、周辺に競合施設が少ない。そのため来店回数の増加策や多くの店舗を回ってもらう施策が重要になる。例えば、来店時にNFC(近距離無線通信規格)搭載のスマートフォンなどを端末にかざすことで、スマートスタシア独自ポイントを取得できる来店ポイントを設けた。来店ポイントを通常の10倍となる50ポイントにするキャンペーンを展開したところ、アプリ利用者の来店数が約1.2倍に増える成果も見え始めているという。

来店からコンバージョンを分析

 この来店ポイントと自社のクレジットカードを活用して、来店者が購買に至ったかどうかを分析できる取り組みも昨年12月末から始めた。そのため、スマートスタシア会員にクレジットカード情報を追加してもらうことを求めている。会員は登録すればスマートスタシアで得たポイントをクレジットカードのポイントに移行できる。

 サービスの利用者が、アプリで来店ポイントを取得した後、最終的に自社のクレジットカードで決済してくれれば、来店からコンバージョンに至るまでの行動が把握できる。店舗内での行動を分析することで、館内で複数の店舗を回ってもらう施策を考えていく。

 一方、梅田は阪急阪神グループの商業施設だけではなく、百貨店の「大丸」や、ファッションビル「ルクア」など、競合施設がひしめく激戦区。その中で、いかにして阪急阪神の商業施設で買い物をしてもらうかが、マーケティングの重要課題となる。

 阪急阪神カードが梅田地区を対象に提供しているのが、「Pinterest」風のスマートフォンアプリ「ウメダ・スタイルクリップ」だ。「HEP FIVE」「NU茶屋町」「阪急三番街」といった商業施設に入居する店舗に対して、アプリに写真を投稿できる仕組みを提供。アプリ上には、参加する約400店舗が投稿した写真がずらりと並ぶ。新商品やクーポンなどを店舗ごと独自に提供できるプラットフォームとなっている。

 アプリ利用者は、お気に入り店舗を登録しておけば、店舗ごとの情報をリアルタイムに受け取れる。こうして、「消費者と店のエンゲージメントを高めることで、ウチを選んでもらう可能性を高めたい」と富永氏は狙いを語る。阪急阪神グループは5月10日まで実証実験を続ける。その後、データの分析などを通じて、最適なO2Oの施策を模索していく考えだ。

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