動画共有サイト「ニコニコ動画」上で、カラオケを生放送できるカラオケルームが好調だ。手がけるのは、業務用カラオケ機器「JOYSOUND」を製造販売するエクシング(東京都港区)である。

 全国に80店舗ほどあるエクシング直営店の1つである東京の京橋店に、ニコニコ動画の生放送対応カラオケルームを設置したのは昨年8月のこと。当初は、実験的な取り組みだったが、顧客単価がほかの部屋に比べて1.5倍となる成果を上げた。こうした状況を受けて、現在、対応店舗を4店舗まで増やしている。

 エクシングはなぜニコニコ動画に着目したのか。

ニコニコ動画で広がったボカロ

 きっかけは、JOYSOUNDの利用者からのリクエストだった。「ボーカロイド」と呼ばれるジャンルの歌を歌いたい、という内容だ。「ボカロ」と呼ばれるもので、メロディーや歌詞を入力することで、あらかじめ収録された歌声を合成できるソフトウエアを使って作られた楽曲群のことを指す。「初音ミク」は、このボカロ向けソフトウエアの代表作と言える。

ニコニコ動画で人気のジャンルが、2012年にJOYSOUNDで最も歌われた

 初音ミクをフィーチャーした楽曲は、JOYSOUNDで2012年の1年間で歌われた曲の上位にランクインしている。1位の「千本桜」や、4位の「マトリョシカ」などがそれだ。

 こうした傾向をエクシングは、2007年に既に把握していた。

 かねて同社が運営する独自SNSの「うたスキ」を使って、JOYSOUNDで配信する楽曲のリクエストを受けつけるサービスを実施してきた。投票が多い曲目の中から毎月上位の200曲を、レコード会社などから許諾を得た上でJOYSOUNDにおいて配信する仕組みだ。

 ボカロの曲がそこに名を連ねるようになったのが2007年ごろだった。エクシングのエンタテイメントビジネス事業本部うたスキビジネス部うたスキコマースGの伊藤智也グループ長は振り返る。「本当に歌われるのか半信半疑だったが、(実際に配信してみると)結果としてはものすごく歌われた」。

 “カラオケの専門家”も知らぬ間に、静かに広がっていったボカロ人気。この火付け役となったのがニコニコ動画である。

 ニコニコ動画には、ボカロのソフトウエアを使った楽曲が数多く投稿されている。再生回数が1000万回を超える動画もある。

 消費者が作った楽曲が、動画共有サイトで人気を集め、その楽曲を歌いたい人が、エクシングにリクエストを出す。ネットの世界を舞台に、そんな新しい動きが起こっていた。

 こうした経緯から、エクシングはこれまでもニコニコ動画と様々な企画を実施してきた。

 例えば、リアルイベント「ニコニコ超会議」では、「ニコニコのど自慢」のブースに、エクシングが機材を貸し出したこともある。実際にブースを視察に訪れた伊藤氏は、「見た目にはあまり活発そうではない人が、ステージ上では上手に歌って、しかも会場を盛り上げるのがうまい」。こんな光景を目の当たりにする。

 実際ニコニコ動画には、自分の好きな曲を歌ったり踊ったりする様子を生放送して人気を集めている利用者も多い。中には、20万人を超えるファンを抱える利用者もいる。

大声で歌いたいニーズをつかむ

 彼らの多くは、自宅にWebカメラなどを用意して、そこで歌って生放送を配信する。中には隣人や家族に気を使って、あまり大きな声で歌えない利用者もいるだろう。

 カラオケルームなら、そうした気兼ねはいらなくなる。そこでエクシングは、ニコニコ動画への生放送の配信に対応したカラオケルームの設置を考えた。

 生放送を通じて、JOYSOUNDのカラオケルームの認知がニコニコ動画の利用者層にも広がれば、店舗へのさらなる集客につながることも期待できた。こうして生まれたのが、ニコニコ動画の生放送対応カラオケルームだ。

 このカラオケルームの使い方を紹介しておこう。

 Webカメラを取りつけたパソコンが用意されており、これを使って、利用者自身のニコニコ動画アカウントでログインする。アカウントを持っていない人でも、エクシングが用意したアカウントで配信することもできる。

 ニコニコ動画を使って生放送するには、有料プランに加入する必要がある。初心者はそのプランに加入していないだろうが、エクシングのアカウントを使えば、その場で自分のカラオケを生放送できるというわけだ。

 生放送で配信しても著作権上の問題がない曲だけを入れたカラオケ機器も用意した。絞ったといっても約15万曲が収録されているという。これにより、著作権などを気にせず、安心して利用してもらえる環境を整えた。

 こうして始めたニコニコ動画の生放送対応カラオケルームは、様々な副次的な効果まで生み始めている。

専用カラオケルームにはWebカメラやパソコンなどが設置されている

 まず事前予約をしてくれるため、店舗側としては店の運営がやりやすくなること。普段から生放送をするようなニコニコ動画利用者は、前もって自分の「Twitter」アカウントなどで自分の生放送の告知をする。そのため、確実にその時間に放送できるように事前予約をしてくれるという流れだ。

 ニコニコ動画対応カラオケルームは、普段は通常のカラオケルームとして一般の消費者にも貸し出している。事前予約してもらうことで、エクシングとしては、予約に合わせてニコニコ動画に対応した機器を接続するなど、準備のためのスケジュールが立てやすくなる。

入念な放送準備、延びる滞在時間

 次に、利用時間が長くなると同時に飲食代などを多く使ってくれる点だ。生放送の前にリハーサルなどの入念な準備をするため、滞在時間が一般に長くなる。結果、飲食費などは通常の1.5倍ほどになるという。

 ボカロの積極的な配信や、ニコニコ動画対応カラオケルームなどの取り組みはブランディングにもつながりつつあるようだ。

 「ニコニコ動画利用者にとって、カラオケといえばJOYSOUNDという認識が広まっているように感じられる」と伊藤氏はみる。ニコニコ動画というプラットフォームを舞台に、新しい需要を生み出したエクシング。その成果は売り上げという、目に見える形で表れ始めている。

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