消費者とともに製品などを作り上げる「コ・クリエーション」が企業の間で広がりつつある。ソーシャルメディアやコミュニティサイトなら、場所や時間に縛られず日本全国から参加者を募って、意見を集められる。そのため、このコ・クリエーションを進めやすい。

「100万人でつくろう元気のうた」のキャンペーンサイト

 デジタルマーケティングを使った共創に取り組んだ1社がキリンだ。ただし、同社が消費者と作り出したのは、飲料などの商品ではない。楽曲だった。2012年を通して、「100万人でつくろう元気のうた」というキャンペーンを展開。自社サイトで、消費者から歌詞に使うためのコメントや、楽曲と併せて制作するミュージックビデオに使うための写真などを投稿してもらった。

 投稿内容を基に、ミュージシャンのKANさん、一青窈さん、キマグレンなどと協力して楽曲や動画を作成。2012年12月12日には、この楽曲のCDもレコード会社から全国発売された。

 キャンペーンの狙いは、様々な人に広く参加してもらい、「キリン プラス-アイ」というブランドの認知拡大だ。ちなみにこのキリン プラス-アイは、キリングループが展開する、健康に効果的な成分を含む商品を集めて、横断的に訴求するためのブランドである。

消費者への認知が進まない…

 ブランドは作ったが、一般消費者への認知が進まない。同社の調査によれば、この共創キャンペーン実施前のブランド認知率はわずか10%にとどまっていた。「それまでのプロモーションでは個々の商品の説明が中心。だがそれだけでは、なかなか興味を持ってもらいにくかった」とキリンのR&D本部技術統括部プラス-アイ推進室の北林健主務は、低迷の理由を分析する。

 そこで、消費者参加型のプロモーションの展開を思い立つ。「メーカーからの一方的な情報発信ではなく、体験しながら歌を作った100万人のうちの1人としてブランドに関心を持ってもらう」(北林氏)ことを狙った。

 なぜ楽曲だったのか。その理由を北林氏は、「ブランド名は元気をプラスするという意味を持つ。楽曲やそれに合わせたダンスで参加者などに元気を与えたかった」と説明する。

 キャンペーンサイトでは、消費者が投稿した写真や動画を閲覧したときに、元気をもらった人が評価するボタンもつけた。投稿はハードルが高いというような人にも気軽に参加できるようにして、参加のすそ野を広げた。

 楽曲ができ上がっていく様子をリアルタイムに伝えるためのプラットフォームにはFacebookページを活用した。楽曲を作成する現場の写真や、選考状況を投稿して、キャンペーン参加者の関心をつなぎとめる役割を担った。

 こうした活動を通じて集まった2409のコメントを基に、歌詞を作り上げた。コメントのほか、447枚の写真、そして174本の動画も投稿された。楽曲のミュージックビデオは、こうした素材を組み合わせて作られている。 楽曲を作るという“目標”は達成された。キリンでは今後、1年間実施したキャンペーンがブランド認知にどう貢献したかを、消費者へのアンケート調査などで分析していく。その結果が、キャンペーンの本当の成否を示すこととなりそうだ。

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