NECカシオモバイルコミュニケーションズは、スマートフォンの新機種「MEDIAS U N-02E」のプロモーションでテレビCMの放映を取りやめ、昨年12月3日にソーシャルメディア連動イベント「MEDIAS PENTAGON|徳井義実解放作戦」を実施した。新機種の認知向上を約2時間のイベントに託す思い切った戦略をとった背景には、競争が激しいスマートフォン市場における深い悩みがあった。

 「MEDIASと聞いても印象が思い浮かばない。そこを変えていく必要がある」

 徳井義実解放作戦を企画したマーケティング本部ブランド&プロモーション部主任の橋本紘享氏はこう明かす。

 数年、数十年に1回しか購入しない耐久消費財のメーカーにとって、購入検討時に自社ブランドを想起してもらい、購入候補に入れてもらうことがまず重要だ。自動車、住宅、電機製品などが該当し、スマートフォンもその1つとなる。

 そこでこの記事を読むあなたが、一人の消費者としてスマートフォンの購入を検討しようとすると何が思い浮かぶだろうか…。

 まずはシェアトップの「iPhone」、そしてAndroid系なら「Galaxy」や「Xperia」、さらに加えるなら液晶テレビと共通ブランドを使う「AQUOS PHONE」だろうか。

 MEDIASもモデルの長谷川潤さんを起用したテレビCMや交通広告などで、「それなりに認知を得てきた」(橋本氏)。ただ、ハードウエア自体での大きな差異化が難しい今、「MEDIASとは何か」と問われたときに、70%超の株式を持つ親会社であるNECのブランドイメージから思い浮かぶ「安心安全」以外の印象が薄い。今後、スマートフォンを初めて購入するレイトマジョリティ以降の層にとっては、ブランドイメージが商品選択においてより重要になるだろう。

 そうした状況を踏まえ、同社は今後、ブランドの再構築を進めていく方針で、「最初の突破口として、いかに目立つかを大事にしたい」(橋本氏)とプロモーションの変革を目指した。

フォロワー数とその層が起用の決め手

 新たなプロモーション手法の企画に当たり、着目したのがソーシャルメディアの活用だった。中でもリアルタイムイベントとの相性が良く、話題の波及力が強いTwitterとUstreamを使うことに決めた。

 影響力を発揮できるタレントを考えた結果、10代後半から20代の男女というファン層がMEDIASのターゲット層と重なり、Twitterで約80万人のフォロワーを抱える、お笑いコンビのチュートリアルの徳井義実さんとなった。情報発信力があり、個人のメディアとも言えるTwitterに強みを持つ徳井さんをどう生かすか。構成作家も交えて2時間のテレビ番組を作る感覚で企画を練っていった。

 そこから生まれたのが、徳井さんをMEDIAS PENTAGONという箱に閉じ込め、外部との通信手段に、この新機種を活用してもらい、Twitterユーザーの協力を得ながら謎を解いて脱出するというゲームだった。ゲームのルールはあるが、事前に回答を教えるなどの筋書きは一切なく、「クイズが難しくTwitterユーザーからリアクションが無かったらどうしようかと心配し、最後は自分のアカウントでつぶやく覚悟もした」(橋本氏)という“真剣勝負”となった。

謎の男がYouTube上で犯行予告。この暗号(写真は一部分)を解くと「午後8時新宿駅」と会場が分かる

 ゲームの開始は12月3日の午後8時。ゲームに参加するTwitterユーザーを集めるために、事前PRを実施した。社名は明かさず、「12月3日20時、徳井義実をドカーンする…。助けたければこの暗号を解け」という動画を載せた予告サイトを11月26日に開設。「ロケットニュース24」「ガジェット通信」のようなWebニュース媒体には、挑戦状が届いたという形で記事を掲載してもらった。

 ここでも挑戦状の最下部に「これは、プロモーションの告知です」と断りは入れたものの社名は明かさず、話題の喚起を狙った。徳井さんの芸人仲間もイベント関連のツイートをするなどした結果、話題は広まっていった。

 そして12月3日の夕方。

 「予告通り徳井義実の身柄は我々が拘束した」「これより徳井義実のTwitterアカウントは我々の管理下に置く」

 徳井さんのTwitterアカウントからこうした投稿があり、午後8時の「開始しました」からゲームは始まった。

徳井さんが閉じ込められたMEDIAS PENTAGON

 ゲームでは拉致され閉じ込められた徳井さんの様子をUstreamで生中継し、順番に与えられる5つの謎の回答をUstreamを見るTwitterユーザーらから教えてもらいミッションをクリアしていった。途中で徳井さんに突如ボールが飛んでくる、水がかかるといった罰ゲームも用意した。そうした環境下でもMEDIAS Uを利用し続けられることから、MEDIAS Uの持つ耐落下衝撃性能、防水性能、防キズ性能、防塵性能、防指紋と防汚コーティングをアピールした。

 ゲームはTwitterユーザーの積極的な参加もあり、無事脱出に成功。懸念材料の1つだったシステム面のトラブルもなく、箱の扉が開いた。

 しかし、イベントはそこで終わりではない。脱出した徳井さんを待ち受けていたのは、多数のカメラだった。

記者会見が多数のメディアに掲載

脱出後、多数のカメラに驚きながら記者会見に対応する徳井さん

 MEDIAS PENTAGONの箱を置く会場となった東京・新宿の、新宿ステーションスクエアで発売記念の記者会見を設定。呆然と立ち尽くす徳井さんを囲んだ取材の内容は、10のテレビ番組、約40のWebメディアに掲載されるという大きなPR効果をもたらした。また、イベント動画をYouTubeに掲載して、Twitter以外への話題の広がりや話題性の継続も図っている。

 2時間のイベントを核にしたプロモーションの成果をどう測るのか。橋本氏は、「PV(ページビュー)、UU(ユニークユーザー)、サイト滞在時間も基準にしているが、何よりソーシャルメディア上でNECが堅い会社ではなく好感を持てる会社であるという投稿やブログ記事が増えることが狙い」と語る。同社は今回のプロモーションの反響に関する数字を公開していないが、Ustreamの再生回数は累計2300回以上、12月3日のイベント用ハッシュタグがついたTwitterの投稿数は5000件以上(Yahoo!リアルタイム検索より)を記録した。また、同社がTwitterの投稿内容を分析したところ、従来のプロモーションより好意的な声が相当多かったとしている。

 橋本氏は「第1弾のテストケースとしては成功と考えている」と評価し、「継続すればMEDIASが面白いことをしていると知られて、売り上げにもつながるのではないか」と期待をかける。従来型の広告ではなく、テレビ番組に近いフォーマットのイベントを核にソーシャルメディアでの反響やPRで新しいMEDIAS Uをアピールした点は注目できる。回を重ねてMEDIASのブランドイメージが変わってくれば、その効果は本物だろう。ただ、反響は企画次第であり、次も“ヒット番組”を作れるとは限らない。毎回がチャレンジとなりそうだ。