第1回 2013年を読む、「トリプルメディア」その境界に商機あり
第2回 ソーシャルテレビはCM連携が本格化へ
第3回 O2O生まれのヒット商品が誕生、有望市場のモバイル決算では覇権争いが激化
第4回 アクセス解析はリアルにも広がる

 連載第3回まで見てきたように、2013年はトリプルメディア間をつなぐサービスが浸透し、オンラインとオフラインを結ぶマーケティングの商機が高まりそうだ。それに呼応するように、アクセス解析の世界も変わろうとしている。

【オンラインとオフラインを統合、その2】
アクセス解析が顧客関係分析に進化、オフラインデータ持つ企業こそ“勝者”に

 パソコンやスマートフォンなどのデバイスを使い分け、オンラインとオフラインを動き回るユーザーを一つの像として捉えた分析を可能にしようとしているのである。サイトのアクセス解析という概念を超え、「顧客関係分析」へ進化するとも言えるだろう。

グーグルがオフライン分析を提供

 2012年10月末、米グーグル本社近くにあるコンピュータ歴史博物館で「Google Analytics サミット」が開催された。披露されたのがGoogle Analyticsに今後加える数々の新機能だ。参加したアユダンテ(東京都千代田区)の安川洋社長はこう感じた。「オフラインデータを持てる企業が、アマゾンより強くなるかもしれない」。

 アユダンテはグーグルが定める「Google アナリティクス認定パートナー」の1社であり、Google Analyticsを活用して企業のサイト改善やSEO(検索エンジン最適化)対策を支援してきた。店舗などオフラインの購買データなども分析対象とする新機能に新たな可能性を感じたという。

 Google Analyticsの新機能の目玉となるのが「ユニバーサルアナリティクス」だ。クッキーを使った行動追跡の仕組みを変更して、従来のブラウザー単位での追跡から、ユーザー単位の追跡を可能にする。

ユニバーサルアナリティクスは端末を横断してユーザーを追跡

 ユニバーサルアナリティクスで注目すべきもう一つの機能が、冒頭に紹介したオフラインデータとの統合だ。電話での問い合わせ、店舗への訪問や商品の購入なども含めて分析可能にする。POS(販売時点情報管理)などとGoogle Analyticsを連携させて実現する。同じように既存のCRM(顧客関係管理)システムとの連携も可能だ。

 こうした進化で何が可能になるのか。グーグルのGoogle Analytics Premium Japan Leadの今井紀夫氏は、「(デジタルマーケティングのプラットフォームであるDoubleClickと連携することで)通販会社であればロイヤルティが高い顧客限定のセールを広告配信で告知する、携帯電話会社であれば契約が切れる直前の人を狙って広告配信することなどが考えられる」と説明する。アユダンテの安川社長は、「例えばスーツの好みは、よく通う店の店員だけが知っている。それをオンラインとつなげれば広告も大きく変わるはず」とみる。

 アクセス解析は、ページビューなど「ページ」単位の分析から始まった。そしてコンバージョン率などに着目した「セッション」単位への分析へと進化し、今後「ユーザー」単位の分析が主流になろうとしている。

アクセス解析が進化し、2013年はユーザー分析の時代に

 実は国産アクセス解析ツール「ac cruiser」を提供するアクティブコア(東京都港区)は、グーグルに先行して、異なるデバイスでのアクセスを会員IDによってひもづけて分析する仕組みを提供してきたという。その同社も、2013年はオフラインの顧客データの取り込みに着目して製品の開発を進める。山田賢治社長は、「オフラインデータの取り込みについては実際に顧客からの要望もある。基幹システムの顧客データの属性や店舗のカードIDでオンラインとひもづけてデータを分析し、レコメンド、ターゲティング、メールに活用する。2013年には事例も出るだろう。その後は、利用が一気に加速しそうだ」と読む。

 オンラインとオフラインデータの連携について、米国では実際に成功例も出ている。米USバンクはアクセス解析でサイト上の改善を進めると同時に、サイトから得られた訪問者データをセールスフォースのCRMデータベースへ取り込んで、顧客像を正確に把握した上で電話のセールスや顧客対応に利用した。その結果、既存顧客の新サービス加入や既存契約の更改、新規口座開設などを成果とするコンバージョン率は、2011年にその前年と比べて2倍になったという。

 ツール提供でUSバンクのマーケティングを支援した米アドビシステムズは、日本市場においてもデジタルマーケティングを統合管理するソリューションの充実を急ぐ。

 「Adobe Marketing Cloud」の名の下に、サイト利用を分析する「アナリティクス」、A/Bテストなどを実施できる「ターゲティング」、個々のユーザーに最適なコンテンツを出し分けられるサイト運営ツール「エクスペリエンスマネージャー」を日本で提供している。2013年にはソーシャルメディア管理の「ソーシャル」、広告配信の「メディアマネージャー」の提供を日本でも始める予定だ。

 マーケティング本部デジタルマーケティング部の遠藤悟郎ディレクターは、「ユーザーのサイトへのアクセスからミリ秒単位で最適なコンテンツを選び、表示し、売り上げを上げていく時代になる」と、2013年はアクセス解析をベースにしたマーケティングが高度化する年になると読む。

解決すべき3つの課題

 こうした進化は新たな課題も生み出す。1つ目はプライバシー侵害の懸念だ。個別のターゲティングはユーザーへ不安を与えかねない。Google Analyticsを担当する米グーグルのスティーブン・ヤップ新興製品担当ディレクターは、「我々は集計したデータだけを利用企業に提供しており、個人にひもづくデータは提供していない」と説明する。

 その上で、「我々が果たすべき責任と考えているのは、顧客企業にプライバシーガイドラインやポリシーを設けることを促し、それを理解してもらうこと」と言う。企業が実施している取り組みをユーザーへ正しく告知することが重要だ。ヤップ氏は「一度顧客の信頼を失うと、もう二度と取り戻せない」と慎重な活用を勧める。

 2つ目の課題はシステム構築だ。オフラインの店舗などにおける販売管理システムは基幹システムであり、マーケティング系システムとの連携には一定の投資が必要になる。また、オフラインの実店舗での購買履歴を顧客単位で管理するにはポイントカードなどの導入が必要だ。オンラインのように、設定を済ませて、さあ分析スタート…と簡単にはいかない。

 課題の3つ目が、大量に集まるデータを活用する人材だ。アユダンテの安川氏は「マーケターが立てた仮説は、そのすべてを検証できるほどシステムの能力はある。マーケターの最大のチャレンジは、多数の選択肢の中から仮説を考えることになるだろう」とみる。

 例えば「タブレットとスマートフォンを使って夜11時以降に3回以上サイトにアクセスしてきた人に、深夜割引の広告を見せたら売り上げは上がるのではないか」といった仮説だ。ツールの進化で、その検証が可能になりつつある。選択肢が膨大になる中、自由な発想で適切なシナリオを立てて検証できる人材の育成が重要だ。

 「データがあればマーケターは、消費者がどこで何を求めているかを予測できるようになる」。グーグルのヤップ氏は、データに基づいたマーケティングの重要性をこう語る。人間はオンラインだけで暮らすわけではない。オンラインやオフラインに散在するデータを収集、分析してこそ、新たなマーケティングの地平が開ける。実店舗を中心に事業を展開する企業が、勢いを増すネット専業の企業へ対抗するヒントはここにありそうだ。

第1回 2013年を読む、「トリプルメディア」その境界に商機あり
第2回 ソーシャルテレビはCM連携が本格化へ
第3回 O2O生まれのヒット商品が誕生、有望市場のモバイル決算では覇権争いが激化
第4回 アクセス解析はリアルにも広がる
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