第1回 2013年を読む、「トリプルメディア」その境界に商機あり
第2回 ソーシャルテレビはCM連携が本格化へ
第3回 O2O生まれのヒット商品が誕生、有望市場のモバイル決算では覇権争いが激化
第4回 アクセス解析はリアルにも広がる

 連載第2回までは、オウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディアという3つのメディアの融合ポイントに新たな商機が広がる様子を紹介してきた。デジタルマーケティングの施策に、4つ目の“メディア”となる店舗を組み込むことで、インターネットのみの施策より大きな収益を期待でき、投資対効果はより明確になる。連載第3回では、こうしたO2O(オンラインtoオフライン)関連のマーケティングの最前線に触れていく。

トリプルメディアの概念に「店舗」が加わる

【オンラインとオフラインを統合、その1】
キリンとセブン&アイの限定ビール、O2Oで販売倍増

 O2O生まれのヒット商品が誕生した。その名は「グランドキリン」。キリンビールが、セブン&アイ・ホールディングスと共同開発したビールである。2012年の年間販売目標を、当初目標の2倍となる16万ケースへと大幅に上方修正するほどのヒットとなった。

 キリンビールは、グランドキリンの販促策として、Facebook上の友人にグランドキリンを贈れるソーシャルギフトキャンペーンを展開した。抽選でグランドキリンの引換券をFacebook上の友人に贈れるというキャンペーンだ。引換券を受け取った人は、セブンイレブン店頭でグランドキリンと引き換えられる。キリンビールとセブン&アイが共同で取り組んだO2O施策である。

 実はグランドキリンの販促において取り組んだ施策は、発表会などを除けば、このO2Oキャンペーンのみ。6月19日から8月31日までの間に70万人以上が参加し、参加者のFacebookアカウントを通じて情報が広がり、延べ1000万人超に到達したとキリンビールでは分析する。このキャンペーンが、商品の認知や購入意欲の向上に大きく貢献したのは疑いない。

グランドキリンはO2Oで売り上げを伸ばした

 これほど情報が広がった理由としては、1日1回ではあるがキャンペーン期間中は当選するまで毎日挑戦できる仕組みだったことが挙げられる。はずれた人は悔しくて何度も参加する。その情報が広がり、ほかの人も参加する。こんな仕組みで、参加者を増やしていった。

 しかも、「引換券を受け取った人の交換率はかなり高かった」(キリンビールのマーケティング部商品開発研究所新商品開発グループの山口洋平氏)。販売価格が330mlで238円と、通常のビールよりも高額であるというプレミアム感。そして、セブンイレブンでしか購入できないという限定感のある商品だったことが、高い引き換え率につながったようだ。

 ただ、「オンライン上の施策だけでは、これほどの成功はなかったはず」とも山口氏は言う。グランドキリンはセブン&アイとの共同開発ということもあり、「店舗側では、目立つ位置に商品を大きく展開した上で、店頭販促(POP)をつけてアピールしてくれた」(山口氏)。

 またパッケージには、ほかの商品に埋もれないように、500ml缶と同じ高さの瓶を採用した。店舗を訪れた人の目につきやすいようにしたことで、「オフラインで出会える環境をきっちり作ったことが成功へのポイントになった」と山口氏は振り返る。グランドキリンを巡るキャンペーンの成功は、オンラインのキャンペーンとオフラインの店舗が一体となって取り組んだ結果と言えそうだ。

 抽選ではなく購入して贈りたいという参加者の要望に応えて、10月にはオンラインで引換券を購入して贈れるサービスを始めた。購入者はまだそう多くはないが、「1人で30人以上に贈っている人もいる」(山口氏)など、コアなファンが商品を買って自らが“宣伝役”となってくれている。

 このように、2013年はオンラインとオフラインの融合がマーケティングにおいて欠かせざるポイントになる。そこに大きなビジネスチャンスを感じ、様々な企業がO2O関連サービス市場を狙っている。

モバイル決済の覇権争い勃発へ、ヤフーはO2O戦略の空白埋める

 注目プレーヤーの一社がヤフーだろう。オンライン決済サービス「Yahoo!ウォレット」を実店舗でも利用できるようにしたい考えだ。サービス提供に向けて、同サービスのスマートフォン向けアプリの実証実験を2013年3月末までに実施する。実店舗でも使えるようにして、リアルの消費動向を取り込む。

 Yahoo!ウォレットは、あらかじめクレジットカード情報などを「Yahoo! JAPAN ID」に登録しておけば、そのIDだけで決済を完了できるサービスだ。クレジットカード情報などをいちいち入力する必要がない。現在は約2400万人が登録している。

 従来は、Yahoo!ウォレットに対応したEC(電子商取引)サイトなど、オンラインでの利用にとどまっていたが、このサービスを実店舗でも利用できるようにする。このモバイル決済サービスは、ヤフーが進めるO2O戦略で欠けていた空白部を埋める最後の“ピース”となる。

 ヤフーのO2O戦略は、認知、来店、購入という3つの領域に分かれている。ヤフーが持つポータルサイト「Yahoo!JAPAN」や、近年、情報拡充に力を注ぐ地域情報サイト「Yahoo!ロコ」で店舗を認知してもらう。それらのメディアでクーポンを提供するなどして来店につなげる。ここまでは、既存のサービスでも実現できていた。そこに実店舗向けのYahoo!ウォレットが加わることで、購入の把握が可能になるという仕掛けだ。

 Yahoo! JAPAN IDを軸に、ヤフーのサイト上での店舗情報などの閲覧履歴、クーポンの取得履歴から、実店舗での購入金額や来店回数をまとめて把握できるようにする。オンラインとオフラインのデータを融合して分析。その情報を基に、個人を特定しない形で、優良顧客に対し、お得な情報を提供できるようなツールを店舗へ提供する。そして、さらなる来店促進につなげる。このようなO2Oのエコシステムの構築をヤフーは目指す。

 実店舗向けYahoo!ウォレットの実証実験では、現在開発中のスマートフォン向けアプリ版のYahoo!ウォレットを利用する。協力店舗や被験者を募り、アプリの動作やオペレーション上の課題発見が実験の目標となる。

モバイル決済戦争にプレーヤーが殺到

 開発中のアプリでは、Yahoo!ウォレットの利用者がIDとパスワードを登録すると、スマートフォンの画面に決済のためのバーコードが表示される。利用者は、店舗での決済時に、そのバーコードを店員に提示する。店舗側が読み取り機でバーコードを読み取るだけで、Yahoo!ウォレットに登録しているクレジットカードなどで支払いができる。

 「O2Oはヤフーにとって、ネット広告、ECに次ぐ3つ目の事業の柱になる可能性がある。年間で数百億円規模の売り上げに育てたい」とマーケティングソリューションカンパニー新規事業本部の津幡靖久本部長は意気込む。

 一方、ソフトバンクが決済サービスの米ペイパルと組んで、小型のカードリーダーをスマートフォンに取りつけるだけで、クレジットカードリーダーとして利用できるサービス「PayPal Here」の提供を始めた。12月には楽天がこれに追随して、「楽天スマートペイ」という同様のサービスを始めている。

 2013年は、オンラインとオフラインの消費動向を融合したマーケティングツールの提供を目指し、ネット企業と既存の決済サービスとの間で競争が激しさを増しそうだ。

第1回 2013年を読む、「トリプルメディア」その境界に商機あり
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第3回 O2O生まれのヒット商品が誕生、有望市場のモバイル決算では覇権争いが激化
第4回 アクセス解析はリアルにも広がる