第1回 2013年を読む、「トリプルメディア」その境界に商機あり
第2回 ソーシャルテレビはCM連携が本格化へ
第3回 O2O生まれのヒット商品が誕生、有望市場のモバイル決算では覇権争いが激化
第4回 アクセス解析はリアルにも広がる

 連載第2回では、「アーンドメディアがペイドメディアを活性化」、そして「オウンドメディアがペイドメディアの効果を向上」という2つの融合について、具体例を挙げながら紹介していく。

【アーンドメディアがペイドメディアを活性化】
テレビ視聴の“お供”となる標準アプリに期待

 テレビCMなどのペイドメディアとTwitterなどのアーンドメディア、この2つが交わって生まれたのが「ソーシャルテレビ」だ。テレビ番組に視聴者が参加できる仕組みを取り入れたり、クチコミの投稿を促したりすることで、情報を波及させて、テレビを視聴していない人にも番組の情報を伝える。そんな期待がかかる。

 2012年は番組との連携が中心だったが、12月からはいよいよ広告主との取り組みが本格化した。

日テレ初のテレビCM連携企画

 日本テレビ放送網は、ソーシャルメディアとテレビの融合に積極的な存在として知られる。同社は、2012年12月6日に始まったサッカーの世界選手権大会「FIFAクラブワールドカップ」の番組で、初めてソーシャルテレビサービス「JoinTV」とテレビCMの連携企画を実施した。ちなみに、JoinTVはFacebookと連携することで、対応番組に対して、「いいね!」をつけられる機能などを持つ。

 その企画とはこんな内容だ。放送中にJoinTVの番組連動企画のサイトに、スマートフォンでアクセスする。サイトはFacebookの個人のアカウントと連携して利用できる。サイトには大きなボタンが表示されるので、そのボタンを試合中に指でタップする。タップ数によってポイントがたまる。画面には企画に参加しているFacebook上の友人が表示されて、ポイントを競える。

トヨタ自動車のCMと連携したスマホサイト

 さらに、番組スポンサーのトヨタ自動車の「プリウス」のテレビCM放送中には、より高得点につながるボーナスイベントを展開。ソーシャルメディアの情報を使い、友人との競争心をあおることで、ポイント獲得を狙う視聴者をテレビCMへと引きつける試みだ。

 JoinTVを担当する日本テレビの編成局メディアデザインセンターの安藤聖泰氏は、「番組の間のテレビCMでも楽しめるように、企画に落とし込んでいく」ことが、テレビCMとソーシャルメディアの連携では重要になるとみる。

 ソーシャルテレビ先進国の米国では、番組表と連携して、視聴している番組にチェックインするスマートフォン向けアプリに対応したテレビCMが増えている。ただ、「国内では、まだテレビを見ながら使う標準アプリは無い」と安藤氏。

 そのため、テレビCMにチェックインさせようとしても、「アプリを立ち上げている間にテレビCMが終わってしまう」(安藤氏)。日本テレビは、JoinTVのほか、Twitterの投稿からテレビ番組に関する盛り上がりがグラフで分かるスマートフォン向けアプリ「wiz tv」も提供している。これらを使ってソーシャルテレビの標準アプリの座を狙いながら、まずはトヨタが実施した企画のような、番組企画との連携を進めていく方針だ。

 一方、アプリ開発会社のジェネシックス(東京都渋谷区)は、グリーと組んでソーシャルテレビの標準アプリの座をうかがう。2012年11月にグリーと共同開発したアプリ「emocon」の提供を開始した。ソーシャルメディア上での番組の盛り上がりや友達が見ている番組が分かるアプリだ。

 アプリを開発するジェネシックス戦略本部の中山理香プロデューサーは、「『GREE』という巨大なプラットフォームと組むことで、利用者獲得が期待できる」と提携の狙いを語る。

 テレビ局か、あるいはネット企業か。2013年はソーシャルテレビの標準アプリの座を狙い、火花を散らすことになりそうだ。

【オウンドメディアがペイドメディアの効果を向上】
急成長が続くレコメンド広告、新機能の開発で活用企業が広がる年に

 オウンドメディアである自社サイトの充実が、ペイドメディアであるネット広告の効果を高める。その観点で、引き続き成長が期待されるのが、ヤフーが今夏に提携した仏クリテオの「Criteo」のようなリターゲティング型のレコメンド広告だ。

 例えばEC(電子商取引)サイトが広告主となった場合は、同サイトの訪問経験者がYahoo!JAPANのようなCriteo採用サイトにアクセスした際、訪問者が過去に閲覧した商品情報などに基づいて、関心を持ちそうな商品写真を載せた広告を自動的に作成して配信する広告だ。ユーザーの興味や関心に沿った提案ができることから高い効果を上げている。

オウンドメディアの強化が広告の効果向上につながる

 日本では、EC、旅行、情報サイトなどの企業が利用しているという。「基本的にユニークユーザー、商品数が多く、データフィード(商品情報などを一定形式に整えたデータ)がよく整理されているサイト」(同社)が効果を上げやすいとする。2013年は金融、自動車、通信など、幅広い業種で効果を上げられる商品を提供していく予定で、スマートフォンやタブレットへの広告配信にも対応する方針だ。

 同様の広告は、国内企業も多く手がける。TAGGY(東京都港区)は「おもてなしバナー」を現在55社に提供する。「ネットスーパーでの『今のお買い得品』や、オークションサイトでの『今の入札価格』など、リアルタイムなお薦めへの要望が高まり、利用が増えている」(石上裕社長)と言う。2013年には、ユーザー数の少ないサイト、取扱商品の少ないサイトでも活用できるよう、自社サイト訪問者と似たユーザーへレコメンド広告を表示するようなサービスなども開発して、2013年末までに300社への提供を目指す。

 インドのビズリー・インタラクティブ・ソリューションズの「カスタム・リターゲティング」を国内で販売するのがマイクロアドプラス(東京都渋谷区)だ。「旅行業界であればユーザーが検索している商品の都市、日付などを基にレコメンドする。商品が購入されやすい時間帯には広告配信量を増やすなどして、効率的なコンバージョン増加を図る」(同社)のが特長だと言う。現在は約40社が利用し、2013年中にはマルチデバイス対応などを進め、150社以上への導入を目指す。

 クリテオが指摘するように、現在のレコメンド広告ではユーザー数、商品数が一定数以上の企業に向く広告となっている。そのためサービス提供各社はEC以外の業種や中小企業でも利用しやすい新たなサービス開発に取り組む。2013年は幅広い企業規模や業種で注目される広告商品になりそうだ。

自社サイトの記事が広告原稿に

 一方、企業サイトの独自コンテンツの見出しを広告原稿にして、関連性の高いメディアサイトに掲載する手法も登場している。記事推薦のシステムを開発するログリー(東京都中央区)が「logly lift」という名称で展開する。広告のために原稿やランディングページを別途用意する必要がない。

 このサービスは現在試験提供中。IT分野の人材派遣のパソナテック(東京都千代田区)などが、仕事術・生活術をテーマにしたブログメディア「ライフハッカー」などに広告を試験配信している。企業サイトで“記事”として掲載しているコンテンツを広告として配信するためメディアとの相性がいい。「CTR(クリック率)は0.08~0.1%。同じような場所にあるディスプレイ広告の2倍程度」(吉永浩和社長)と言う。

第1回 2013年を読む、「トリプルメディア」その境界に商機あり
第2回 ソーシャルテレビはCM連携が本格化へ
第3回 O2O生まれのヒット商品が誕生、有望市場のモバイル決算では覇権争いが激化
第4回 アクセス解析はリアルにも広がる
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