メルセデス・ベンツ日本(東京都港区)が、新世代コンパクトカー「新型Aクラス」の事前告知のためインターネットで公開したアニメーション「NEXT A-Class」の視聴回数が、11月17日の公開から19日間で200万回に到達した。同社の目標を大幅に超える勢いだという。アニメを配信する特設サイトを中核に据えながら、テレビCM、イベント、ネット広告などから集客するモデルが機能した結果と言えそうだ。

 成功のポイントは何より、強力なコンテンツにあった。顧客の平均年齢が50代の同社において、新型Aクラスは20代後半から30代の顧客を開拓して、シェアを拡大するための戦略小型車だ。欧州での発表は9月だが、日本での発売前告知のスタートは11月となった。車の存在自体は既に知られる中で、どうやって注目を集めるのか――。

 「コンテンツの中心となるビッグアイデアにサプライズがほしい」

 商品企画・マーケティング部メディア・コミュニケーション課マネージャーの禰宜田謙一(ねぎた・けんいち)氏はこう考え、キャンペーン開始の1年半前から広告会社などと議論を詰めた。出てきたアイデアがアニメーションの制作というわけだ。

「アニメ=オタク」ではブランド毀損

 多くの外資系企業と同様、これまでメルセデス・ベンツ日本は、本社が用意する素材をアレンジしながら、国内の広告宣伝活動を展開してきた。ただし、高級小型車という市場においては、独フォルクスワーゲンが一歩先ゆく状況と言えよう。「この市場では挑む立場なので、挑戦するマーケティング活動をしないといけない」(禰宜田氏)ことから、メルセデスブランドのキャンペーンに、日本独自の手法としてアニメの採用を決めた。

 ただ、一歩間違えば「アニメ=オタク」とみなされがちで、それではメルセデスベンツのブランド価値を毀損しかねない。既存顧客の反発を招く恐れもあった。そんな懸念が払拭されない状態では、親会社である独ダイムラーの経営陣も了承するはずもない。

 新たなチャレンジとなるアニメの制作であり、品質の担保には最大限の力を注いだ。そこで、日本を代表するアニメ制作会社の一社として知られるProduction I.G(東京都武蔵野市)に制作を依頼し、キャラクターデザインには「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズを手がけた貞本義行氏を起用。近未来の東京を舞台に、3人の主人公が新型Aクラスで、あるトラックを追いかけて疾走するという約6分間のショートムービーを制作した。

メルセデス・ベンツはアニメ配信を核に新型A-Classを訴求する

 アニメ作品自体の品質はクリエーターに任せつつ、新型Aクラスのデザインを近未来というアニメの舞台に合わせてアレンジすべきか実車に合わせるべきか、アニメの爽快感と実際の交通法規のバランスをどう取るかなどについては、同社も関与して制作を進めた。こうした配慮の結果、既存顧客から作品への反響は総じて良好だという。

 11月17日に特設サイトを開設して、アニメの配信を始めた。もちろん、ただサイトにアニメを置くだけでは視聴は伸びない。テレビCMの放映、同日公開となった映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」に合わせて全国99の映画館でのテレビCM放映、東京・大阪・名古屋の3都市での新聞号外風の広告配布、カーレース会場での新型Aクラスのラッピングカー走行、Facebookページの開設、Yahoo!JAPANなどでのネット広告展開…。あらゆる手法を通じて集客した。

テレビCMからの誘導が成功

 同社も「テレビからWebというのはこれまでもトライしてきたが、なかなかうまくいかなかった」(禰宜田氏)と明かすように、テレビCMからネットへの誘導は容易ではない。

 ところが今回は、バナー広告の掲載が始まる11月19日の前の段階でも多数の視聴者を集めていた。「17~18日の視聴は、発表の記事かテレビスポットのどちらかの影響で、テレビからWebへの誘引がうまくできたのではないか」と、禰宜田氏はみている。

 勝因の一つは、テレビCMを映画の予告編風にしてアニメの続きを見たいと思わせるような映像にしたことだ。テレビCMでは商品告知はせず、「テレビスポットやイベントは(アニメを)補完するもの」(禰宜田氏)に徹するという決断が成功に結びついた。

 そして、アニメの視聴者が多かったことに終わらず、新型Aクラスの認知や興味関心の向上にも貢献しているようだ。アニメ再生後の画面では、新型Aクラスの紹介映像へのリンク、先行販売の案内、プレゼント応募による「My Mercedes」への会員登録への誘導をしている。先行販売では1週間で販売台数の上限である200台以上の応募があったという成果を導いている。カタログの請求数や、My Mercedes会員へのアンケートによる車への興味や乗車意向などの指標も同社の想定を上回るペースで伸びているという。その勢いが2013年1月17日の日本発売以降のも、どれだけ続くかに同社は関心を寄せる。

 メルセデス・ベンツは、コンテンツの力をうまく活用して特設サイトへ集客した。通常のキャンペーンより制作費用の比率が高くなっているという。ネットを通じた情報波及力が高まっている今、ターゲット層次第では参考にできる一つのモデルになるのではなかろうか。