8186人、7002人、1684人、1037人、135人…。これはオフィス情報機器の製造・販売大手各社のFacebookページのファン数だ(12月6日時点)。BtoB(企業間取引)企業のソーシャルメディア活用は難しい。あえて企業名は出さないが、誰もが知るブランドを持つ企業でもファン数はこの程度の規模なのだ。
しかし、2012年7月にFacebookページを開設したコニカミノルタホールディングスのファン数は2万9062人と、競合を頭一つ上回る。その理由は、CSR・広報・ブランド推進部ブランドマネジメントグループの中村俊之氏が語るところの「我々の製品はBtoB(企業間)関連ですが、ブランドマネジメントはBtoSなんです」という方針の徹底にありそうだ。
BtoSは「Business to Society」の略だと言う。同社は現在、オフィスの情報機器、デジタル印刷システム、液晶ディスプレイに使われるTACフィルムなどの機能材料、光学系部品、計測機器などを扱い、企業向けビジネスを展開する。コニカ、ミノルタの両社を育てたカメラ事業は既に無く、BtoB企業として事業規模の拡大、グローバル化に加えて、ブランド認知の向上が課題となっている。
そのブランディングにおいて、顧客企業(Business)だけでなく社会(Society)に向けた情報発信を重視する。松崎正年社長は「社会から必要とされ支持される会社であれ。世界最高には意味がない、社会、お客様へ提供できる価値は何かを考えよ」と機会があるごとに、国内外の社員に説くという。2012年4月にはCSR部門を社長直轄の組織にした。
2011年9月には、そうした企業姿勢を社会に伝えるコミュニケーションメッセージ「Giving Shape to Ideas」を策定した。このメッセージが持つ「人々が持つ思いを形にする」という趣旨に沿って、Facebookページでコンテンツを提供する。長期的なブランディングを目的とするため、「製品情報のリリースは一切流さない」(中村氏)と徹底する。一人のFacebookユーザーとして友人とのコミュニケーションをする中で、いいね!をしたくなるコンテンツとは何か、どの程度の投稿頻度が最適か、そうしたユーザー視点を大事にしている。
8000いいね!の和紙アート

具体的には、同社が扱う有機ELを使った未来の照明に関するアイデアを、専門家や一般消費者から募って制作する「未来のあかりプロジェクト」関連の投稿が人気を集める。和紙デザイナーの堀木エリ子さんが和紙と有機ELを使った作品を制作するメイキングムービーの投稿には、8000件を超えるいいね!や50を超えるコメントが寄せられた。こうしたコンテンツの力によるクチコミの拡散や、Facebook内の広告の活用によってファンを順調に増やしている。
さらに、1つのFacebookページで日本語と英語両方の情報を発信することで、国内外のファンを集めているのもファン数が多い一因だ。両言語の投稿をページ上に併載するのではなく、Facebookの機能を使ってファンの利用言語が日本語なら日本語の投稿、英語なら英語の投稿を表示する。2万8000人超の約半数は英語ユーザーだという。
短期的にはファン数が重要な目標だが、中長期的には、投稿に対する反応やそれによって広がる投稿のリーチ拡大を目標にする。ブランディング活動にはマス広告やイベント協賛も利用するが、それらでは持ち得ないファンとの「継続的な接点」という役割をFacebookに期待する。
より多くの反応を引き出すために、今後は人々が持つ思いを形にするというメッセージを“自分ごと化”してもらえるコンテンツを強化する考えだ。一例が12月4日に募集を始めた「プラネタリウム独り占め」企画だ。東京・池袋のサンシャインシティにある「コニカミノルタ プラネタリウム ”満天”」を1時間貸し切る権利を、ファンの1人に提供する。応募の際にどんな使い方をしたいかのアイデアを募る。単なるプレゼントキャンペーンではなく、自分と同じ立場にあるFacebookページのファンの1人が思いを形にする過程を目にすることで、同社のメッセージを身近に感じてもらうのが狙いだ。
コニカミノルタのFacebook活用は始まって半年弱。出足は順調だが、ファン数のさらなる拡大、日本語・英語圏以外への対応、マス広告やイベントとの連携強化、売り上げ貢献を期待するような事業部でのソーシャルメディア活用への助言など、課題は山積している。何より、Facebookでの活動がコニカミノルタのブランド価値向上に本当に結びつくのか、実証するのはこれからだ。