「CS(カスタマーサポート)の派生として始めた『Twitter』を活用した顧客サポートでしたが、最近は企業姿勢を広めるマーケティング施策に変わってきていると感じます」

 KDDIコンシューマ事業統括本部の米田健二カスタマーサービス推進部長は、Twitterを活用したアクティブサポートに取り組む中、こんな風向きの変化を実感している。

 アクティブサポートは、ソーシャルメディア上にいる顧客や見込み客に積極的に話しかけて、疑問や不満を解決する取り組みだ。同社は1年ほど前から、Twitterアカウント「@au_support」でアクティブサポートに取り組み始めた。顧客との関係性の強化をソーシャルメディアでも展開する、ソーシャルCRM(顧客関係管理)とも呼べる施策だ。

Twitterでのアクティブサポートを実施

 担当するのは、カスタマーサービス推進部、いわゆる、お客様相談室だ。始めたきっかけは、Twitter上に書かれた顧客の疑問や不満をカスタマーサポート部門として対応せずに放っておくのは、ブランド毀損につながる恐れがあると判断したことだった。

 ただ、Twitterを活用していくうちに、従来の電話での対応と大きな違いがあることに米田氏は気付き始めた。従来の電話での応対とは違い、Twitter上での会話のやり取りはほかの利用者も読めるという点だ。中には、自身のたわいのない投稿に、KDDIが対応してくれたことを喜び、リツイートなどで周囲に知らせてくれる人もいるという。

 また、米アップルのスマートフォン「iPhone 5」が発売された時には、発売元であるKDDIとソフトバンクモバイルのどちらと契約すべきかで悩む投稿がTwitterにも広がった。このような投稿に対して、KDDIでは、自社のサービスの優位点や実施中のキャンペーンを伝えていった。

 その際、売り込みと思われて、反発されることを回避するために、あくまで情報を届けることに専念。「ぜひKDDI(au)と契約してください」といった押し付けがましい投稿は控えた。投稿内容は例えば、「こんにちは!auサポートの中野です。ツイート拝見しました。iPhoneの毎月のご利用金額ですが、お支払イメージが掲載されているものがありますのでご参照下さいませ→ http://bit.ly/vQL9CP  また分からない事などあればお気軽に返信して下さい」といった具合だ。その結果、「お礼の声を返信いただくことも多かった」(米田氏)。CSの対応が購入の後押しにつながった可能性もありそうだ。

 Twitter上でのこれらのやり取りの中で、疑問や不満を解決する企業姿勢がほかの消費者にも伝わる。そうして、結果的にブランディングにつながる可能性がある。そんな手応えを米田氏は感じつつある。

影響力の高い人を通じて疑問を解決

 では、KDDIが取り組む、具体的な手法について紹介していこう。同社では端末やサービス名などをキーワードとして登録して、そのキーワードに関するTwitter上の投稿をすべて収集してくる。その中から不満や疑問など対応すべき投稿を絞り込んでいく。その投稿を8人のアクティブサポート選任者と、3人の管理者でさばいていく。Twitter上の投稿を収集・管理するツールとしては、ネットイヤーグループのソーシャルCRMツール「Social Voice for Support」を採用している。

 毎日数百件の投稿が引っかかってきて、うち3割程度に対応しているという。特に多い通話や通信のエリアに関する投稿については、担当部署とやり取りをする連絡網を構築して、すぐさま状況を把握できる体制を整えている。ここ最近では、アクティブサポートが評価され、つながりにくいエリアの情報などはすぐに情報が集まるようになっている。

 対応すべきかを判断する基準として、最重視するのは当然、投稿内容だ。緊急度の高い投稿に対して、優先的に解決策を提示していく。

 一方、それほど緊急度の高くない投稿に対しては、Twitter上の影響度を示す「Kloutスコア」を対応する優先順位を決める上で一つの参考にする。Kloutスコアは米クラウトが開発した指標で、アカウントの友人数、発言状況、引用状況などから周りに与える影響度を算出している。つまり、Kloutスコアが高い人の疑問を解決して、その人がリツイートしてくれれば、それによって情報が波及して、共通の悩みを抱えるほかの人の問題解決にもつながる可能性があるのだ。

積極的な対話のためのガイドライン

 対応上での、ガイドラインにも特徴がある。一般的に、ソーシャルメディアの社内利用ガイドラインというと、社員の不適切な投稿によるトラブルを未然に防ぐ意味合いの内容を思い浮かべるのではなかろうか。一方、KDDIのCS部門で定めたガイドラインは、「なるべく消費者とコミュニケーションをとる」(カスタマーサービス推進部Webシステムグループの林秀樹課長補佐)ことを目指し、積極的に話しかけるためのガイドラインだ。

 「タイムラインを見て、頻繁に顔文字を使っていれば、その範囲で使うようにする」「KDDIのサービスに直接関係しなくてもサポートしていこう」

 ガイドラインには、こんな項目があるという。当初は、「担当者からすると、(どこまで話しかけていいのか)びくびくしているところもあった」(林氏)。この不安を取り除かなければ、消費者との対話は生まれないと考えて、先のガイドラインを策定した。

 例えば、ソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォン「Xperia」は、NTTドコモからも発売されている機種だ。そのXperiaの利用方法で困っている人がいれば、どの携帯電話事業者と契約しているか分からなくても、解決方法が記載されているページを探し出してきて紹介する。

 対応する前には、投稿者のタイムラインを見て、過去の投稿内容から、ペットや趣味の話などのオペレーター自身との共通項があればその話題についても対応する際に触れたり、絵文字を多用している消費者には絵文字を使って話しかけたりして、親近感を抱いてもらうことを心がけている。そうすることで、「話しかけたときに、反応してもらえる可能性を高めている」(林氏)。

対応した情報は自社サイトにも生かす

 Twitter上の活動は自社サイトにも反映させる。消費者の疑問や不満へ対応した後に、その質問と回答をよくある質問をまとめたFAQページに載せるのだ。

Twitter上での対話は自社サイトの改善にも生かす

 その結果、特定の機種の発売月には、その機種に関するFAQの項目が2~3倍にまで増えるという。顧客の力を借りることで、自社だけではカバーしきれていない疑問や不具合への対応方法を拡充している。

 一方で、毎日のように増えるFAQページの情報を見やすく、探しやすく整理するという新しい課題も生まれている。FAQページでは質問項目ごとに、利用者が役に立ったかどうかを評価するボタンを用意している。KDDIでは、この質問ごとにPV(ページビュー)は多いが、役に立ったという件数が少ない項目は、情報を拡充したり、文言を修正したりするなどして改善を続けている。また、「質問をカテゴリーで分けて、見つけやすくするという作業は急ピッチで進めている」(米田氏)。

 KDDIが、お客様相談室の延長で始めたTwitter上でのサポートは、CSの枠を超え、新たな顧客を生み出すためのマーケティング施策に変わりつつある。顧客志向を叫ぶ企業の中から、ソーシャルメディアを中心としたサポート部隊をマーケティング、ひいては経営の中枢に据える企業が現れることは、そう遠くないのかもしれない。

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