導入費用が2億~3億円かかる企業の業務システムのマーケティングには、1~2年の選定期間を見通した対策が欠かせない。そのお手本となるような取り組みを進めているのが、統合基幹業務システム(ERP)の開発・販売などを手がける東洋ビジネスエンジニアリングだ。

 「リードの適切な管理、コンテンツの強化によるサイトへの誘導、そして営業とマーケティングの連携、これを三位一体で進めなければいけません」

 これが、製造業向けERP「MCFrame」のマーケティングを担当する、プロダクト事業本部マーケティングアライアンス部プロモーションチームマネージャーの矢吹恭太氏が出した結論だ。

東洋ビジネスエンジニアリングのリードナーチャリングの流れ

 矢吹氏は2010年以降、MCFrameのマーケティングの改善を進めて、サイトのPV(ページビュー)、導入意向の高い資料請求を増やしてきた。見込み客に様々な施策でアプローチして、製品への関心度を高めて受注に結びつける、いわゆるリードナーチャリング(見込み客育成)の実施だ。矢吹氏の取り組みを3つのポイントで説明していこう。

展示会で集めた名刺は見込み客リスト?

 同社は多くのBtoB(企業間)企業と同様に、専門展示会へ出展して製品に興味を持つ人の名刺を集め、最終的には営業のアタックリストとする。製造業向けITソリューションの展示会などで一度に2000~3000枚の名刺は集まる。矢吹氏がマーケティング担当になる2009年以前は、単純にそれを見込み客リストとしていた。しかし、一般的な情報収集を目的に来場した人の名刺まで含めていては、成約を狙うアタックリストとして精度が低い。

 そこで2010年2月、見込み客管理の基盤としてシャノン(東京都港区)のマーケティング管理ツール「マーケティングプラットフォーム」(導入当時の名称はスマートセミナー)の利用を始めた。展示会で集めた見込み客に対して、同社が主催する製品啓蒙のためのセミナーへの参加をメールで促す。

 反応率を高めるため、地域や業種などの見込み客の属性に合わせてリストを絞り込み、告知メールを配信する。見込み客の管理基盤を整備したことで、「過去の経験から反応度合が分かるため、安心してセミナーを開催できるようになった」と矢吹氏は語る。

 とはいえ、セミナーだけでは見込み客との接点が限られる。MCFrameへの関心を高めるために大切なのは、サイト上のコンテンツだ。2010年9月に製品サイトをリニューアルし、その前後から社内スタッフやパートナー企業に執筆を依頼して「原価管理」「需要予測」などをテーマにした連載コラムや導入事例の記事を充実させていった。社内に専属のコンテンツマネージャーを置き、月1回以上は記事を掲載。そして見込み客に、メールマガジンで告知をしている。

 コンテンツの充実や、サイト刷新でサイト構造を見直した結果、「生産管理パッケージ」「原価管理」などのキーワードで検索結果の1ページ目に表示されるSEO(検索エンジン最適化)効果も得られている。ちなみに現在は、製造業の海外進出の流れを受けて、海外拠点での導入事例などを強化する方針だ。

属性と行動でスコア化を実施

 MCFrameのマーケティングは、さらにもう一段進化している。見込み客の行動分析だ。業種など見込み客の属性や、事例記事の閲覧といったサイト上などの行動に応じてスコア加算をしていく。たくさんの記事を見るようになればスコアも加算されていき、その数値から関心度の高まりを判断できる。

 ただ、矢吹氏は「スコア100だから商談へ、と単純に判断するつもりはない。営業と話し合う時間が必要だ」と言う。

 最終的に営業に引き渡す前にはテレマーケティングをかけるが、その過程で本当に成約に結びつきそうな案件かどうかを、矢吹氏が自ら営業に相談することもあるという。「営業さんにいいネタを渡したいという姿勢で臨むと、デジタルの情報だけでは分からない、いろいろな話を聞ける」と語る。これが3つの目のポイントである「営業とマーケティングの連携」だ。

 一般には、「営業に資する見込み客リストをマーケティング部門が提供しない」「マーケティング部門が作成したリストを営業が有効活用していない」と連携が不十分になることもよくあることだ。システムだけでは解決できない課題を矢吹氏はコミュニケーションの強化で乗り越えようとしている。

 こうしたマーケティングの改善で、サイト刷新前と比べてPVは2.5倍以上になり、資料請求数は1.7倍以上になったという。問い合わせの内容も「製品のこの機能を聞きたいという突っ込んだ内容が増えている」(矢吹氏)のも効果。見込み客にテレマーケティングを実施して、抱える課題やシステム投資への予算、決裁権の有無、導入時期などを確認して、確度が高いと判断できれ営業へつなげるようにしている。

 これら一連の業務を矢吹氏は一人でカバーする。「一気通貫で見られるのでどこに問題があるかが分かる」のが利点だが、サイト上の行動分析は「これまで培った経験や感覚を生かすため」(矢吹氏)、生の大量のログをExcelに取り込んで自ら集計している。そのため、レポート作りなどに時間がかかるのが課題となっている。今後、膨大な情報を管理して適切な判断を導き出すBI(ビジネスインテリジェンス)ツールとの連携も検討して、リードナーチャリングの精度を磨きたい考えだ。