第1回 ジーユーが10月のチラシ廃止、位置連動クーポン配信に成功
第2回 ヨドバシ店頭の全商品にバーコード表示、スマホアプリから情報提供
第3回 店舗内誘導、事前決済…、日米で広がる新型O2O

 「O2Oは、米国発のバズワード(はやり言葉)。モバイル先進国の日本では、かねてクーポン配信は盛んでしたから…」

 こんな言葉を、デジタルマーケティング業界関係者からよく耳にする。ある意味で正しく、ある意味ではO2Oの一面しか捉えていない言葉である。

 日本のO2Oの代表格ともいえる日本マクドナルドが、モバイル活用を始めたのは2002年。今から10年前のことだ。その翌年からクーポン配信を始めた。

 それがたとえ、登録した人への一律配信だとしても、モバイルクーポンといえば日本マクドナルドというブランドを既に築き上げてしまった。他社が今さら同じことをやっても、そこには二番煎じ以外の言葉は見つからない。

 差異化のカギは、位置情報機能の搭載が当たり前となったスマートフォンの急速な普及と、FacebookやLINEといった巨大プラットフォームの出現にある。それらを使った新しいO2O活用のマーケティングのキーワードは、個別対応とおもてなしだ。

 まずは、一律配信クーポンの次の世代のO2Oを模索する企業事例を通じて、その本質に迫りたい。個別対応、つまり企業が狙った相手に狙った情報を届けるスマートフォンアプリの利用拡大に背中を押され、店舗集客の定番となってきた折り込みチラシをやめたアパレル製造販売のジーユー(東京都港区)の例である。

様々なマーケティング手法がデジタル化で進化する
様々なマーケティング手法がデジタル化で進化する

【事例編:販促・CRM】ジーユー、10月のチラシ廃止位置連動クーポン配信に成功

 「試験的ではあるが、この10月、初めて折り込みチラシをやめてみたのです。それでも売り上げは計画通りに推移しています」

 ジーユーのダイレクト事業部に所属する萩原将人氏はこう明かす。ファーストリテイリング子会社のジーユーは、10~20代の若い女性をターゲットにしたアパレルブランド「g.u.」を手がけ、全国に約200店舗を展開している。

 ターゲットとする世代は、新聞や雑誌などより、ネットから情報を取る方が得意ともいわれる。「折り込みチラシとは違うアプローチで、商品に関心を持ってもらい来店につなげる」(萩原氏)手法を探していた。情報提供の新たなプラットフォームとして着目したのがスマートフォンのアプリだ。

 今年3月にアプリ「ジーユー」の提供を始め、ダウンロード件数は100万超の規模に達している。しかもアプリ利用者の8割が、情報の着信をホーム画面で知らせる「プッシュ通知」を許可する設定だという。前提条件は整った。

クーポンの利用率は「95%」

 チラシ廃止の決定打となったのが、7月に実施したアプリ活用キャンペーンだ。店舗への集客を強く意識し、キャンペーン告知、クーポン付与に新たな方法を取り入れた。

様々なマーケティング手法がデジタル化で進化する
様々なマーケティング手法がデジタル化で進化する

 始めた当初はアプリ利用者へ一斉告知をした。期間中にそれを、店舗から2km以内にいるアプリ利用者に限定して、1日に2回、プッシュ通知で告知するよう切り替えた。範囲の限定は、GPS(全地球測位システム)などの機能を使えばさほど難しくはない。キャンペーンは東京と大阪の3店舗だったことから、全国のアプリ利用者に一斉に配信するより個別対応の方が高い来店率が見込めた。

 来店客には、店内でアプリを起動してスマートフォン本体を振ってもらう。すると、5人に1人の割合で1000円割引のクーポンが当たるという企画だ。今いる店内でクーポンをすぐ使え、その上、割引額も高額なため、クーポン取得者の実に95%が使用するという数値をたたき出した。

 「ユニクロ生まれの我々はチラシが消費者とのコミュニケーションの中心。当社は若い女性がターゲットなのに、マーケティング手法は従来と同様で本当にいいのだろうか」。ジーユー広報部の長谷太介氏は、かねてそんな疑問を抱くようになっていた。

 ただ、毎週のチラシをやめたら売り上げへのダメージも心配だ。そこでこの1年間は、チラシをやめることのマイナス面と、モバイル会員やスマートフォンアプリの利用者、そしてソーシャルメディアのファンを集客に結びつけるプラス面を比較してきた。

 このプラス面が「チラシ分をまかなえる規模まで育った」(長谷氏)と判断し、実験的に折り込みチラシをやめた。読みは的中し、10月の売り上げも計画通りに推移しているという。

 チラシ全廃とまでは当面いかないが、それでもスポット的な役回りになる可能性はある。浮いた費用を、新たなデジタルマーケティングに投資しながら一層の効率化を図っていく。

スマホの会員証でCRM

 同じスマートフォンアプリでも、それを使ってCRM(顧客関係管理)を実施して、来店頻度を増やしながら1人当たりの年間購入額を増やす。そんな戦略を取るのが、アパレルのユナイテッドアローズだ。利用者ごとに個別対応した情報を提供し、自社商品やブランドに関心を持ってもらう。

 CRMのプラットフォームとなるのが、今年8月に提供を始めたスマ-トフォンアプリ「ユナイテッドアローズ ハウスカード」だ。顧客に配っていた紙の会員証をアプリにしたものである。商品購入でためたポイントや過去の購入履歴の確認、商品や店舗の情報閲覧といった機能を持つ。

 紙の会員証には2つの問題があった。まず登録の手間。紙の会員証では、顧客が受け取った後に、専用サイトで会員情報を登録する必要がある。しかし、「登録者数は残念ながら半分以下だった」(事業支援本部販売支援部CRMチームの野田邦弘氏)。スマートフォンアプリなら、その場での登録も容易だし、登録方法さえ分かれば帰りの電車の中で試してもらうことも期待できる。

 もう1つの問題が、紙の会員証を携帯してくれないこと。財布に入るカード枚数には限度がある。来店頻度がそれほど高くない人に同社の会員証を常に持ち歩いてもらうのは難しい。アプリなら、スマートフォンを持ち歩くことが、すなわち会員証を持ち歩くことにもなる。

 スマートフォンで2つの問題を解決することで、これまでより多くの顧客の購買履歴などの顧客情報を把握できるようになる。

 会員情報は、自社EC(電子商取引)サイトとも連携できる。顧客情報をより精緻に分析できる下地を整えた上で、個別対応した情報提供のプラットフォームへと育てる考えだ。

 集客という面でO2Oに取り組むこの2社に対し、ネットと実店舗を融合した“おもてなし”をし、来店後の購買確率を高めるO2Oに取り組むのが家電量販のヨドバシカメラだ。

第1回 ジーユーが10月のチラシ廃止、位置連動クーポン配信に成功
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