「マス広告の効果は今も高い。しかしいずれデジタルの中でも、ブランド認知を獲得するための施策は必要になると思っている」

 スカパーJSATの有料多チャンネル事業部門マーケティング本部営業2部ダイレクトマーケティングチームの樽井勝氏はこう語る。自社で有料多チャンネル放送事業を手がけ、著名スポーツ選手や俳優を起用した話題のテレビCMを放映する同社でさえ持つマス広告頼りへの危機意識。それが、アトリビューション分析という実験的な施策へと踏み切らせた。コストや分析スピードに課題があり継続的な活用には踏み切っていないが、得られた知見を通常の広告運用でも生かし始めている。

 ディスプレイ広告に接触したことによるブランド認知効果などを探るのがアトリビューション分析。それを同社が実施したのは、スポーツシーズン開幕で多くの新規加入者が見込める今年3月から4月のことだった。

 この時期には、もう1つの意味合いがある。樽井氏が所属する部署は従来、検索連動型広告など“獲得系”のネット広告を中心に運用していた。しかしウェブは顧客の行動を一連の流れで見た方がいいとの考えから、別部署で運用するディスプレイ広告など“認知系”も担当することになったのだ。

 そこで、「(ディスプレイ広告運用の経験則は持っていたが)施策の善しあしを数字で測る羅針盤が必要」(樽井氏)ということで、アトリビューション分析を実施した。従来は加入意欲が高そうなキーワードで検索するユーザーをサイトへ誘導し、申し込みにつなげることを重視してきた。その検索を誘発した要因を探るため、ディスプレイ広告を交えた分析に取り組んだ。

アトリビューションマネジメントなど新たな広告手法の開発が求められる背景
アトリビューションマネジメントなど新たな広告手法の開発が求められる背景
※朝日広告社の資料を基に作成。費用や件数は仮定のものであり、スカパーJSATの施策の数値ではない

 同社は、この分野に独自の知見を持ち、かねて取引があった朝日広告社(東京都中央区)と共同で、広告の第三者配信サービス「メディアマインド」を利用しながら、同ツールでは分析できない自然検索の動向を広告効果測定ツール「AD EBiS」を併用して把握し、分析を実施した。

態度変容を探りKPIに設定する

 今回の分析の目的について樽井氏は「メディア間の予算配分を最適化するより、お客様は何を考えてうちのサービスを好きになって、買いたいと思ってくれるのかを明らかにしたかった」と語る。その態度変容のポイントが分かれば、そこがKPI(重要業績評価指標)となり、広告効果の改善を進める羅針盤となる。

 分析は4ステップに分けた。まず「データ環境の整備」。ディスプレイ広告の接触状況、ディスプレイや検索連動型広告、自然検索などのクリック状況、広告のリンク先となるランディングページの利用状況や申し込み状況のデータを収集できるようにした。スカパーにおけるコンバージョンは、無料体験申し込みと本申し込みの2種類がある。一般的なツールでは分析が困難なため、元データから利用動向を集計し分析していった。

 第2のステップが、コンバージョンまでの典型的な行動パターンをまとめる「パスの類型化」。基本的なアクセス解析であれば、申し込み時のサイト訪問直前にクリックされた広告を効果のある広告とみなす。ただ広告をクリックしてすぐ申し込むのは例外的なケース。申し込みに結びついたパターンを分析すると、広告接触後に別途検索をしてサイトを訪れて申し込みをするパスが「予想を大幅に上回るほど多い」(樽井氏)ことが判明した。

スカパーのアトリビューション分析で明らかになったこと


 第3のステップが、「態度変容ポイントの定義」だ。スカパーに興味を持った、あるいは申し込みたいと態度が変わったときに検索をする。事前にそんな仮説を立てたところ、パス分析は想定通りの結果となった。従来なら、直接申し込みに結びつかない広告は効果がないとしてきたが、ユーザーの記憶に残る広告なら後の検索を誘発しサイト訪問につながる。そこで、「検索数を増やすためのディスプレイ広告を目指そう」(樽井氏)となった。

 では、どういう広告クリエーティブならユーザーの行動を誘発できるのか。それが最後のステップ「シナリオの把握と施策化」だ。複数配信した広告クリエーティブの分析から、検索を促すのに効果的なメッセージは、新しいBSチャンネルが始まったことを伝える「認知型」だった。一方で、広告を見てすぐクリックして申し込みに結びつくのは、料金と多チャンネルであることを訴求する「オファー型」の広告であることも判明した。

費用とスピードには課題あり

 「今回分かったことで一番大事なこと」と樽井氏が明かすのは、コンバージョンにつながったユーザーには広告をどの期間に何回配信したかということだ。サイト訪問者へリターゲティング広告を配信する際、その回数以上に配信を続けると「うっとうしく思われてしまうし投資も無駄」(樽井氏)。現在は第三者配信サービスを利用していないが、そのデータを活用して媒体別のリターゲティング広告の配信期間、頻度をコントロールしているという。

 ではなぜ、アトリビューション分析を継続実施しないのだろう。1つには第三者配信サービスにかかるコストの問題。同社の場合、無料体験と本申し込みという2段階のコンバージョンがあり、どうしても特別な運用が必要になるためコストがかさむ。 また、「データが膨大で分析に時間をかけていると、次週に改善といったPDCAの高速化が難しい」(ダイレクトマーケティングチームの安永風太氏)のも課題となる。

 アトリビューション分析関連ツールを提供する朝日広告社のiコミュニケーション局局長補佐兼デジタルマーケティング部部長の菅恭一氏も「提供者サイドの努力も必要。スピード、コストを下げてクオリティを高める必要がある」と認める。10月末にはヤフーが広告の第三者配信の一部受け入れを表明しており、これによる利用拡大でコストも下がり利用環境が整備されていくことも期待されよう。

■修正履歴
1ページ目の図で社名表記が誤っていました。正しくはスカパーJSATです。本文は修正済みです。[2012/11/14 20:25]