ソーシャルメディアガイドラインについて「策定した」「策定中」という企業が増えている。だが、ガイドラインは策定がゴールではない。社員が順守して何事も起こらないこと、仮にトラブルが起きても危機発生時の緊急対応がしっかり機能してダメージを最小限に食い止めることができてこそ目的達成となる。欠かせないのがガイドラインで定めたルールの社内での理解や浸透だ。
お手本となりそうな取り組みをしているのが、住宅情報サイト「SUUMO」を運営するリクルート住まいカンパニーだ。同社は今年、管理職約150人を対象にソーシャルリスク研修を実施し、理解と定着に余念がない。
攻めるための守り
研修を主導した同社企画統括室事業推進部・事業開発部ブランドマネジメントグループのチームリーダー田島由美子氏は、次のように語る。
「SUUMOの利用を最大化するためのブランド戦略として、潜在ユーザー層とコミュニケーションを図れるソーシャルメディアは有効で、積極活用している。ただし利用にはリスクを伴うため、攻めと同時に守りも必要。社員のリテラシーが低いうちは、利用規定を作って浸透させなければブランド毀損が起こりうる」。
同社社員のソーシャルメディアリテラシーが低いとは謙遜が多分に含まれるだろうが、危機意識の表れと言えよう。実際、グループ全体を見渡せば、危うい利用も散見された。
同社でも以前、SUUMOのキャラクターをアイコンに使った個人アカウントを社員が立ち上げていたり、SUUMOの着ぐるみから顔を出して撮った写真を投稿したり、といったケースがあったという。“炎上”するような案件ではないが、キャラクターの乱用はなりすましを誘発しかねず、またキャラクターの着ぐるみの“中の人”が安易に露出することも、ブランドイメージを形成する上で好ましくはない。
グループ他社では、提携交渉の担当者が相手先企業に到着時に、位置情報サービスのチェックイン機能で行き先を開示していたケースや、未進出先の海外都市に出張していることをほのめかすような投稿などもあったようだ。こちらは場合によっては、経営戦略上の機密事項の漏洩に発展しかねない。
田島氏はこうしたリスクの存在と対策の必要性をまず役員クラスに訴えて理解を得た上で、管理職向けの研修を企画した。通り一遍の理解にとどまらないよう、議論参加型のワークショップスタイルで実施した。
前述した、社内で実際に起きたリスクの芽を研修ではテーマに据え、何が問題か、どんなトラブルに発展する恐れがあるか、どう伝えれば理解が得られるか、など約3時間かけてディスカッションした。
研修は効果てきめん。外部のフリーライターとソーシャルメディアの投稿内容について契約を交わした方がよいといった意見まで、一般社員から寄せられたという。SUUMOのマンションレポートを書いたライターが、取材で知りえた販売状況などを勝手に暴露すれば、その内容によっては顧客企業であるマンション販売業者のブランドを傷つけ、引いてはSUUMOブランドの毀損にもつながりかねないだけに、この気づきは大きな研修成果といえそうだ。
管理職が研修を通じてリスクを“自分ごと”としてとらえ、自身の言葉で部下に説明できるレベルに達したことで、一般社員、さらに取引先など関係者にまで浸透が進もうとしている。田島氏は、「研修の副次的効果として、ブランドを守る意識が高まった」と手ごたえを感じる。今後は、異動や昇格による人員の入れ替わりや、新たなソーシャルリスクの傾向をにらみつつ、研修を適宜開催する方針だ。