母親も応援する――。新たなブランディング戦略を進めるため、ユニ・チャームは紙おむつブランド「ムーニー」でFacebookを活用している。ムーニーのFacebookページでは、投稿に対するいいね!の数が、時にファン数の約2割に達するなど、高いエンゲージメントを誇る。売り上げへの貢献も見え始めた。とはいえ同社のFacebookページ運営は、必ずしも順風満帆で進んできたわけではない。Facebookでの炎上寸前の危機も乗り越えながら、ファンとのきずなを深めている。

 日本の少子高齢化に歯止めがかからない。厚生労働省の人口動態調査によれば、2011年の出生数は前年比2万498人減の105万806人で、これは過去最低の数字である。ユニ・チャームは、少子化という逆風のまっただ中にいる1社だ。「紙おむつ市場全体も縮小している」と、同社グローバルマーケティング本部ベビーケアSBUの長井千香子アシスタントブランドマネージャーは危機感を抱いている。

減少傾向にあるベビーケア市場(ユニ・チャーム調べ)

 同社の調べでは、国内ベビーケア市場は年2%減という縮小傾向にあり、2012年は前年比で2.1%減となる1388億円と予測する。加えて、紙おむつにもコモディティ(汎用品)化の波が押し寄せる。どれを買っても、機能的にさほど大差ないとなれば、消費者は安さで商品を選ぶようになる。紙おむつ市場においてユニ・チャームは、ムーニーと廉価版の「マミーポコ」を合わせて37.9%(2011年時点)を占め、トップシェアを誇ると同社は説明するが、安泰というわけではなさそうだ。

 そこでムーニーでは、母親にフォーカスをあてる新たなブランディング戦略を打ち立てた。新しい戦略のコンセプトは「ゼロ歳のママたちへ」。
 
 もちろん母親は、最初から子育てのイロハを知っているわけではない。子供を育てていく中で、他の人の方法を参考にしたり、自分なりのやり方を見つけたりして成長していく。初めての出産で、不安な気持ちを抱えている母親も少なくないはずだ。

 母親が抱える不安に寄り添い、応援する。ムーニーは子供のことだけを考えているのではなく、苦労している母親の味方。そんなことを訴求して、ブランドに愛着を持ってもらう。新しいコンセプトには、こうした狙いを込めた。その新たなブランディング戦略を実行する舞台として選んだのがFacebookだ。

コメント歓迎とファンに呼びかける

 Facebookの活用を決めるにあたって同社は社内で様々な議論を交わした。ユニ・チャームは、カタログ通販の千趣会などと協同で、出産や育児に関する情報サイト「ベビータウン」というサイトを運営している。そのサイトの中には、利用者同士が育児に関する悩みを話し合う「ママひろば」がある。わざわざ、新たにFacebookページを作る必要もないのでは。そんな意見も出た。

 ただこのサイトの主役は子供。子供が泣いた時にどうすればいいか、食事はどうすればいいか、といった子育てに関するノウハウが会話の中心だ。母親の不安にムーニーブランドとして寄り添い共感を得るような場にはなっていない。

 そこで、目を付けたのがFacebookだった。新しいコミュニティサイトをいちから立ち上げるのには、大きな費用や時間がかかる。Facebookページなら、開設にかかる費用はサイトの制作よりは少なくて済むし、時間も短い利点がある。

 さらにFacebookの「いいね!」やシェアは、共感そのものを表しているとも言える。投稿した内容が、きちんと母親の共感を得られているかを測定する指標にもなる。

 このところの晩婚化で、20代後半から30代で結婚する女性も増えている。Facebookをよく利用する層とも重なるとも考えられた。また今後、同社がグローバルでもデジタルマーケティング戦略を進めていく上で、Facebookは重要なマーケティングプラットフォームとなるため、運用の知見をためておく必要もあった。これらを考慮した結果Facebookの活用を決め、今年3月21日にムーニーのFacebookページを開設した。

 Facebookページを運営する上では、子供の写真を掲載しながら、「赤ちゃんは、ママの成長を見守ってる」「今、おなかに赤ちゃんがいるママへ」など、大半が母親に語りかける内容にこだわった。それが、高いエンゲージメントにつながっている。

 また、「コメント歓迎」と呼びかけるなどして、ファンが自発的にコメントを投稿してくれるような下地作りにも取り組んでいる。コメントには、すべて返信することを心がけている。「コメント欄を通じて、ファン同士が交流することも増えている」と長井氏は言う。

 9月に実施した写真投稿コンテストでは、優秀作品をムーニーのFacebookページのトップ画面に1週間掲載する特典を付けた。自身の子供の写真が、ムーニーの“顔”になれば、母親の鼻もさぞ高くなろう。投稿の目標は500件だったが、約800件の応募が集まった。

 高いエンゲージメントを維持しながら、Facebookの広告も活用する。特に、Facebookがスマートフォン向けの広告を国内でも始めてから、ファン数がグッと増えるようになったったという。「当社がターゲットとするような母親は、スマホでFacebookを利用していることを実感した」(グローバルマーケティング本部eUC推進部の和田悟史氏)。

 ファンとのきずなを深めることで、ムーニーブランドを選んでもらう可能性を高める。そんな目標も徐々に達成されつつあるようだ。ユニ・チャームは、自社が持つ約50万人の会員組織に向けて、ムーニーのブランドに対する好意度や購入意向に関するアンケートを実施した。

 その結果を、Facebookページのファンになっている会員と、そうでない会員を比較したところ、ブランドへの好意度はファンの方が1.4倍高かった。他社の製品よりも価格が高くてもムーニーを選ぶかどうかを測る指標についても、実に2.2倍という高い結果が出たという。

 ただ、「ソーシャルメディアは売り上げ目的にした途端、一気に引かれてしまう」(長井氏)恐れもある。そのため、今後もファンの共感を得ることに注力していく考えだ。

突然訪れた炎上の危機

 順調に進んできたかに見えるユニ・チャームのFacebookページ運営。しかし、10月1日には大きな“事件”を経験している。

 「産道を通って赤ちゃんが元気に生まれたら、それは『いいお産』」という旨の投稿をしたところ、帝王切開など産道を通らないのは「悪いお産」なのか、出産には様々な形がありそのどれもが立派な出産方法であることを知ってほしい、といった意見が同社に多数寄せられた。

ファンの意見を受け止め炎上を防いだ

 ユニ・チャームはすぐに、コメントに対する返答をした。こうした意見を参考に、先の投稿の2日後には、出産は母親と赤ちゃんの共同作業であり、それがどんな形であっても2人にとっては生まれたことがベストな形ということを伝えたかった、と投稿した。この投稿に付いた、いいね!数は過去最高の4727にまで達した。

 デリケートな話題だけに、たとえわずかな表現の違いであったとしても、過敏な反応が起こるのも当然だろう。ソーシャルメディアを活用したマーケティングでは、消費者と正面から向き合うことになるだけに、厳しい意見を寄せられたときにこそ、意見をきちんと受け止め、ないがしろにせず対応する。そんな企業の姿勢が求められることを改めて教えてくれる。

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