ソーシャルメディアは企業と顧客の距離を縮めるのはもちろんのこと、活用する企業同士のコラボレーションを円滑にする側面がある。これまでも異業種間でさまざまなコラボ企画が展開されてきた。とはいえ、闇雲にコラボをしていては、思ったような成果は得られない。どんな相手となら相性がいいのか、組む際のポイントは何か――。こうした疑問にコラボを企画した当事者が答えるパネルディスカッション「“ソーシャルコラボ”で企業価値向上~失敗しない組み方の極意がいま明かされる」が10月10日、日経BP社主催「モバイル&ソーシャルEXPO 2012」の一環として東京ビッグサイトで開催した本誌読者無料セミナーで行われた。

左から資生堂 国内化粧品事業部セルフスキンケア・メーキャップブランドユニットの清水英孝氏、ハーゲンダッツ ジャパン マーケティング本部の黒岩俊介氏、全日本空輸 プロモーション室マーケットコミュニケーション部アシスタントマネジャーの秋山拓也氏、日本写真印刷 情報コミュニケーション事業部新規ソリューショングループチーフディレクターの岡部謙介氏

 パネリストとして登壇したのは、資生堂 国内化粧品事業部セルフスキンケア・メーキャップブランドユニットの清水英孝氏、ハーゲンダッツ ジャパン マーケティング本部の黒岩俊介氏、全日本空輸 プロモーション室マーケットコミュニケーション部アシスタントマネジャーの秋山拓也氏、日本写真印刷 情報コミュニケーション事業部新規ソリューショングループチーフディレクターの岡部謙介氏の4人。本誌編集長の杉山俊幸がモデレータを務めた。

 登場パネリストが関わったコラボ案件は次の2つ。

 1つは、2010年の10~12月にかけて、資生堂の化粧品ブランド「マジョリカ マジョルカ(マジョマジョ)」の香水「マジョロマンティカ」と、ハーゲンダッツ「ドルチェ」シリーズの「フォンダンショコラ」が、それぞれ新発売を機に共同で実施したコラボ企画。マジョマジョブランドを担当する資生堂の清水氏と、ハーゲンダッツの黒岩氏が主導した。

 もう1つは今年3~5月、資生堂のセルフスキンケアブランド「アクアレーベル」が、全日空の客室乗務員(CA)が編集する女性向け旅行クチコミ情報サイト「ANA Latte」上で展開したコラボ企画だ。こちらは全日空の秋山氏が担当した。日本写真印刷の岡部氏は、こうした数々のコラボ案件を企画し仲介役を担ってきた。

 マジョマジョの香水とハーゲンダッツのドルチェのコラボでは、「とろ~り甘い」をキャンペーンキーワードにコラボサイトを立ち上げ、それぞれの店頭やメルマガ、パソコン・モバイルサイト、トレインチャンネルなどで告知し、誘導を図った。そして共同イベントとして両商品の発表パーティーをUstreamで生中継したほか、メールアドレス登録者には特典付きの「とろ~りレター」を配信した。

 このプロジェクトは、単価が比較的高めゆえに顧客層の年齢が高めに推移していたハーゲンダッツ側が、F1層(20~34歳の女性)に人気のマジョマジョ側に持ちかけた案件ということもあり、クリエーティブは資生堂が主導する形で進んだ。

トリプルメディア+αに期待

 資生堂の清水氏はコラボ相手に求める条件として、「マジョマジョの世界観をお貸しすることが相手先にプラスになること。かつ我々も組むことによってミニマムコストで未開拓の領域、すなわちトリプルメディアだけでは届かないプラスアルファの部分にアプローチできること」を挙げ、「コラボは『結婚』みたいなもの」と例えた。

 ハーゲンダッツの黒岩氏は、「それぞれが得意なもの、反対に持ち合わせていないものを認識することが重要になる。自社にとっては何気ないことが、相手にとっては魅力的だったりする。その価値に気づくことが成功をもたらす」と指摘した。

 コラボサイトへの誘導に当たっては、ドルチェの蓋に貼ったQRコード付きシールが威力を発揮した。小売りサイドも話題性のあるコラボ企画には好意的で、「商品棚の確保の面で良い影響があった」(黒岩氏)という。

 2つ目の全日空と資生堂の「アクアレーベル」のコラボでは、「ANA Latte」上で「アクアレーベル」ブランド担当者と客室乗務員が、機内でのお手軽美容テクや、旅先での紫外線対策などをテーマに6回の対談連載を掲載。客室乗務員が美容アドバイザーからメイクテクニックの指導を受ける動画も公開した。

 また、FacebookやTwitterのアカウントと連動した全日空運営のマイレージ会員向けクチコミサイト「ANAソーシャルスカイパーク」で、「あなたのオススメ美白テクニック」や「今年の美白への意気込み」をお題にコメントを募り、投稿すると航空券購入に利用できる電子クーポンがもらえるキャンペーンを展開した。そのほか羽田-沖縄便の乗客にサンプルを提供するなど、共同コラボはネット上だけでなくリアルにも及んだ。

 全日空の秋山氏は、「ANA Latteは客室乗務員が編集員を務めるユニークなサイトだが、誘因力がやや弱い課題があった。その点、資生堂との美白をテーマにしたコラボは魅力的なテーマで、投稿も盛り上がった」と振り返った。キャンペーン中は、当時既にファン数60万人を超えていた全日空のFacebokページでも告知したため、資生堂側も従来の訴求ラインとは異なるルートにいる潜在顧客にリーチできたと言えるだろう。

 日本写真印刷の岡部氏は、コラボ成功のポイントとして、「組むことに必然性があって違和感がないこと、そしてユーザーに有益な情報や価値を提供できること」を挙げた。また実現に向けては、「メリット・デメリットと実現可能性を見極めた意思決定が重要になる」と説いてディスカッションを締めくくった。

この記事をいいね!する