「ソーシャルメディアですか? 活用の検討はずっとしていますが、なかなか効果的な活用が見えなくて。難しいですね」。結婚情報サービス大手のツヴァイでWebマーケティングを担当する営業企画部の豊島早哉香氏はこう語る。

 決してデジタルマーケティングに消極的だったり、上層部の理解が乏しかったりするわけではない。バナー広告の出稿からSEO(検索エンジン最適化)、検索連動型広告、アフィリエイト、リターゲティングなどあらかたのネット集客手段は既に講じている。デジタルマーケティングに積極的な企業の1社と言える。それでもソーシャルメディア活用にいま一歩踏み込めないのは、業界特有の事情がある。

人に知られたくないこともある

 顧客および潜在顧客にとって、いわゆる結婚相談所のファンとして「いいね!」を押す、あるいはフォローしていることが自分の「友達」「フォロワー」にあからさまになるのははばかられる――。「婚活」が時代の流行語になったとはいえ、相談所を利用すること、利用者であると公言することへの心理的な抵抗感は払拭されたとは言い難い。世の中、「自分がそのブランドのファンで友人にもお勧めしたい」と声高に意思表明できる商品やサービスばかりではないのだ。

 ちなみに同業大手のオーネットは楽天グループということもあってソーシャルメディアを活用している。ただ、2010年4月に開設したFacebookページのファン数は346人にとどまっている(10月10日時点)。

 一方、検索エンジン対策やバナー広告など従来型の集客手法にもやや手詰まり感があった。検索連動型広告において「婚活」はビッグワード、つまり検索される頻度が高いゆえに出稿単価が高い。競合は同業他社にとどまらず、お見合いパーティー業者から結婚式場、ジュエリーなどブライダル関連産業にとって共通の重点キーワードだ。そのため単価はジリジリ上がり、費用対効果は低減していく。

 打開策として同社が取り組んだのが、オウンドメディア強化だった。2011年春、「ウーマンツヴァイ」を開設。恋愛や結婚にまつわる読み物コラムをそろえた、女性誌スタイルの自社メディアである。

 恋愛やビジネスシーンにおける心理術について多数の著作がある伊東明氏の「ライブ婚活講座」、恋愛コラムや著作が多いヨダエリ氏の「“出会い上手”のヒミツ」といった、恋愛指南で定評ある専門家のコラムを掲載している。また、等身大の一般女性がハッピーをつかむ転機となったエピソードを語る「私のターニングポイント」、同社所属のアドバイザーによる「出会いと恋のHappy相談室」といったラインナップをそろえ、それぞれ月に数本ペースで更新する。日常の運営はネットPR支援のパンセ(東京都千代田区)に依頼している。

 特徴は2つ。1つは、いずれのコラムもツヴァイの宣伝色は一切排除していること。「読者が記事に共感して再訪する過程で、運営元である『ツヴァイ』の名が目に留まって、いざというときに想起してもらえるように」と豊島氏は狙いを語る。

 2つ目は、辛口コラムにはしないこと。Webコラムでは、ともすると「こんな人は結婚できない」のような見出しで、あおり気味の記事を載せた方が一般にクリック数は稼ぎやすい傾向がある。だが、結婚にネガティブな印象を持たせかねない記事は、自社のブランドにも入会の誘因としてもプラスになりにくいと考えている。

 「会報誌では苦言を呈するケースもあります。これは既にお相手を紹介している会員様の成婚を願っての情報です」(豊島氏)。このように潜在顧客向けと会員向けで適切な情報を明確に出し分けている。

 ウーマンツヴァイのサイト開設後、会員数は順調に増加している。2012年2月期の入会者数は、前期比で26.8%増と好調だ。

 もっともこれは震災後に「家族の絆・つながり」を求める風潮が強まったことに加え、グループ会社であるイオンモールへの出店による露出効果や法人契約の強化、シニア層向けサービスの立ち上げなど様々な要因がある。

 それでもこのサイトにコンテンツが蓄積されていくにつれ、これまでの検索エンジン対策ではカバーできなかった流入が増加している。例えば「無口な男性」「好きな人から好かれない」といった恋愛の悩みをそのまま綴ったような検索フレーズから、その話題を取り扱ったコラムに流入してくるケースが多くみられるという。「『アパレル キャリア』といった検索ワードから『私のターニングポイント』コラムに飛んできたりもする。それでも直帰してしまわず全ページ読んでいただいている」(豊島氏)。

 ウーマンツヴァイへの検索エンジン経由の流入数は今年9月、前年比で7倍に増えた。来訪1回当たりの平均PV(ページビュー)は5PVから7PVへ、滞在時間も3分台から4分台へと着実に伸びてきている。こうしてウーマンツヴァイは、直接的に入会に誘導していないにもかかわらず、資料請求・無料コンサルティング申し込みページの参照元トップとなった。良質のコンテンツは、ニーズが顕在化していないユーザーにもリーチし、顧客予備軍へ、さらに顧客へと引き上げる力を持っていると言えそうだ。

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