「ソーシャルメディアは片手間ではなく、本気でしかも徹底的にやるべき」

 日清食品ホールディングス広報部の松尾知直課長は、こう訴えかけた。日経BP社が10月10日~12日の3日間、東京都江東区の東京ビッグサイトで開催中のイベント「モバイル&ソーシャルEXPO 2012」のオープニング講演での一幕である。

日清食品ホールディングス広報部の松尾知直課長

 日清食品のインスタントラーメン「チキンラーメン」は2013年8月25日に商品誕生から55周年を迎える。この記念日に、チキンラーメンの話題を最大化することを目指して、今年からソーシャルメディアの活用を本格化させた。主に活用するのは、Facebookページと「LINE」だ。

 来年の8月25日に向けた、展開スケジュールは松尾氏によれば「やや短期的ではある」。ただ、2010年にはTwitterがソーシャルメディアの話題の中心だったが、2011年にはFacebookへと移り変わり、今年はLINEが急速に注目を集めた。このように、ソーシャルメディアの業界地図は1~2年で激変してきた。このことを踏まえ、「ソーシャルメディアではあえて、中長期的な目標を立てることを避けた」(松尾氏)。

エンゲージメント率を最重視

 同社がソーシャルメディアを活用する上で、気をつけているポイントは4つある。まず、冒頭で紹介した、片手間ではなく徹底的に取り組むという点。同社は外部のライターやカメラマンを専任でつけるなど、コンテンツの質に徹底的にこだわる。

 次のポイントが、各メディアの特性に合わせた施策を展開すること。例えば、LINEではチキンラーメンのキャラクター「ひよこちゃん」との親和性を考慮して、「スタンプ(大型の絵文字)」を活用した。

 3つ目のポイントは、綿密な展開スケジュールの設計だ。同社は、Facebookページの開設に当たって、3ステップで活用を進めた。最初の2週間は投稿の蓄積に取り組んだ。開設直後にファンの数を増やそうと告知を強化したとしても、消費者がページに訪れた時に、関心を引く投稿がなければ、ファンになってくれないと考えたからだ。

 次に、どの投稿がウケるか、いいね!がつきやすいかといった、投稿に対する反応の分析に1カ月間を費やした。また、ネット広告も一部展開して、その効果を分析した。そして、今年8月末からこの分析を踏まえた投稿と、キャンペーンなどの集客策を展開している。

 最後のポイントは、ソーシャルメディアでは生活者同士のコミュニケーションの場に企業やブランドが入り込むことから、生活者目線で考えることだ。投稿がワンパターンにならないように、キャラクターグッズやチキンラーメンを使ったレシピの紹介、各種イベントの報告などを織り交ぜて見る人に飽きさせないように配慮しているという。

 これらのポイントを押さえた結果、直近25件の投稿に対するエンゲージメント率の平均が実に12.2%という高い数値を維持しながら、15万人にまでファンの規模を拡大できているという。

 同社は、Facebookを活用する上で、このエンゲージメント率を効果指標として最重視する。Facebookでは、利用者と関係が薄いとされるページの投稿は、徐々に表示されづらくなる。そのため「何十万人のファンがいても、エンゲージメント率が低いと、相応の情報発信力にはつながらない」(松尾氏)ことになる。

 チキンラーメンのFacebookページでは15万人のファンに向けて投稿すると、ファンを通じてその情報が広がり、結果100万人以上に情報が届いていると同社は分析する。「これは高いエンゲージメント率を確保できたから達成できている数値だ」と松尾氏。

LINEでもやるからには徹底的に

 一方のLINEでは、スタンプが一般的によく利用されるというメディア特性を生かして、ひよこちゃんのスタンプを作成して配信した。同社では、Facebookの活用がほかの企業に比べて遅れたという意識があったという。そこで、LINEでこだわったのは一番乗り。マーケティングとして最初の活用企業となることだった。

 スタンプ提供の狙いは、これまで接点を持ちづらかった若年層に、チキンラーメンブランドを訴求すること。チキンラーメンの誕生日である8月25日に向けて話題を作るために7月から提供を始めた。

 LINEにおいても、「やるからには徹底的にやる」(松尾氏)という姿勢は変わらない。LINEでは喜怒哀楽をはっきり表現できるスタンプなどの人気が高い。ただ、活用を検討し始めた時点では、ひよこちゃんのポーズなどに厳しい規定があり、「かわいいけど、優等生的で面白みにかける、というのが正直なところだった」と松尾氏は振り返る。

 そこで固定観念を捨て、LINEスタンプ専用のキャラクターを作ることを決断する。本来ならチキンラーメンの“顔”となるキャラクターにもかかわらず、血管が浮き出て激怒しているようなイラスト、ラーメンのどんぶりを頭からかぶっているイラストなど、従来なら考えられないような思い切ったデザインを採用した。

 その結果、スタンプ配信開始から4週間で約580万回ダウンロードされた。また、利用回数は3カ月で1億回にまで達した。

 この1億回に対する評価を松尾氏は、「利用者が(ひよこちゃんのスタンプを)送るという意思が積み重なった結果であることに意味がある」と説明する。受動的ではなく、能動的にブランドのキャラクターを友人に送ってくれる点が、これまでの広告とは大きく異なる点だという。また、送り手がいれば、受け手がいるため、「リーチ数は利用回数の2~3倍になるはず」(松尾氏)とした。

 1人1日当たりの平均利用回数が3回という数値も配信開始から3カ月間ほとんど低下していない。「広告効果が持続する」(松尾氏)ことも、LINEのスタンプならではの特徴だという。

 同社は、今年からソーシャルメディア上での種まきを始め、この種を来年の8月25日に開花させるため、今後もソーシャルメディア領域で様々な施策に取り組んでいく考えだ。

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