角が生えた頭、大きく広げた手のひら。そこに記されたWebサイトにアクセスすると、怪物のようなシルエットが浮かび上がる。その名も「FASHION MONSTER」。この“モンスター”はいったい誰――。

 その正体は、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさん。ファーストリテイリング子会社のジーユー(東京都港区)が手がけるアパレルブランド「g.u.」の新しいイメージキャラクターだ。

ジーユーは9月からきゃりーぱみゅぱみゅさんをイメージキャラクターに据えた

 同社は8月25日から、g.u.の新しいイメージキャラクターを当てるクイズキャンペーンを実施した。これに合わせて、「LINE」に公式アカウントを開設して情報発信を始め、キャンペーンへの参加を募った。

 g.u.というブランドは、「UNIQLO」の廉価版という位置付けで誕生した。2006年のことだ。ところが思うように売り上げが伸びない。990円という思い切った価格設定のジーンズを発売して注目を集めた時期もあったが、「元々安価なUNIQLOの廉価版など、誰も欲しがらなかった」(ジーユー広報部の長谷太介氏)。

 そこで2011年にブランドの立て直しを図った。本来ブランドの持つコンセプトでありブランド名の由来でもある「ファッションを、もっと自由に」という原点に立ち返ることを決める。若い女性をターゲットに、よりトレンド性を打ち出した商品展開へと大きく方向転換した。こうして、比較的ベーシックな商品が多いUNIQLOとの差異化を図っている。この戦略が奏功して、2012年8月期の売り上げは580億円、前年同期比で8割増という成長を見せている。

より多くの若年層に情報を届けたい

 若年層の女性を対象にするなら、ソーシャルメディアやモバイルなどを活用したデジタルマーケティングは馴染みがいい。例えば、モバイル会員への特別価格商品の提供は、ユニクロよりも早く取り組んできた。「メールマガジン読者限定の特別価格商品をきっかけに店舗へと集客する手法が、g.u.ブランドでは既に確立できている」(ダイレクト事業部の萩原将人氏)。これにならい、ユニクロでも5月からモバイル会員限定の特別価格の提供を始めている

 もっとも、モバイル会員は顧客あるいは顧客に限りなく近い層となる。再来店を促すには効率のいい手法だが、新規顧客の獲得には向いていない。そこで、ジーユーでは顧客の裾野を広げるために、ソーシャルメディアを活用している。ブランド名は知っているが具体的な商品群まではよく知らない。そんな顧客の一歩手前の層への情報発信を目指す。

 LINEも、こうした狙いの下で活用を始めた。期待するのは、これまで活用してきたソーシャルメディア以上に、より多くの若年層にブランド認知を拡大することだ。

 「Facebook」や「mixi」などを活用した情報発信にも取り組んできたが、ファン数はいずれも3万4000人程度にとどまっている。一方、LINEでは利用開始から1カ月間で57万人を獲得した。開始後3カ月で登録者数100万人を目指す。

 ジーユーがLINEの活用を検討し始めたのは6月のこと。LINEのマーケティング向けサービスには「LINE公式アカウント」と、大型の絵文字「スタンプ」を作成して配信する「スポンサードスタンプ」がある。ジーユーが公式アカウントを活用した情報発信を選んだのは、効果測定が可能だからだ。

 LINEは、ほかのソーシャルメディアと異なり利用料金がかかるため、効果測定をして、投資に見合う成果が得られるメディアかどうかを判断する必要があった。スタンプは新しい広告サービスのため、効果測定の比較対象となるサービスがない。その上、ダウンロード数と、利用回数しか指標がない。これでは、投資に見合った成果を得られているか判断しづらい。また、ジーユーにはスタンプに向くようなキャラクターもなかった。

 公式アカウントなら、自社サイトへの誘導数などで、ほかの広告と効果の比較がしやすい。こうした理由から、まずは公式アカウントでの情報発信に乗り出した。

LINE登録者だけという限定感

 配慮しているのは、配信する情報の絞り込みだ。Facebookなどは、投稿した内容から関心のある情報をファン自身が判断して選り分ける。LINEはメルマガと同様、公式アカウントの登録者が持つスマートフォンに一律で情報が届く。そのため「Facebookなどに投稿する情報の中から楽しんでもらえるものに絞り、LINE向けにアレンジして配信している」と萩原氏。

 例えば、9月5日にFASHION MONSTERの“正体”を明かした後に、LINEの公式アカウントの登録者に新しいテレビCMの動画を配信した。その際のメール本文では、「LINEのお友だちには特別に配信しちゃうよ」といった文言で、限定感を打ち出して興味を引くことを狙った。また毎週末にはセールの告知をして、お得な情報を提供することを心がけている。

週末にはお買い得商品の情報をLINEで配信する

 効果測定の指標とするのは、自社サイトへの誘導数だ。ジーユーでは1回のメール配信で約5万人が自社サイトを訪れる。が、これで十分な成果かと問われれば、「正直まだまだ課題は多い」(萩原氏)。

 こうした課題を解決しながら、次に目指すのは自社のEC(電子商取引)サイトへ誘導して、購買へのLINEの影響力を測定することだ。そして、いよいよ実店舗への誘導力の測定である。

 実店鋪を持つ企業のLINE利用としては、ローソンやゲオが先行する。O2O(オンライン to オフライン)型の店舗集客を狙ったクーポン配信を実施している。ジーユーの場合に悩ましいのは、モバイル会員限定の割引きサービスを展開していることから、このセールとのバランスを図る必要があることだ。慎重な見極めをしながら、LINEでのクーポン配信を検討している途上である。

 ちなみにLINEの利用料金体系は、メールの配信先の数と配信頻度によって変わる。ジーユーにとっても「安くはないメディア」(萩原氏)。それでも投資を続けるのは、若年層にブランドを浸透できる可能性を持つツールとして期待しているからだ。自社サイトへの誘導数やECサイトでの購入者数などの効果測定から、LINEのマーケティングプラットフォームとしての真贋を見極めていく考えだ。