LINE特集の第1回で紹介した通り、公式アカウントは、流通系の企業による店舗送客を目的とした活用が多い。ただ、もちろんメーカーで活用する企業もある。日本コカ・コーラがそれで、6月18日に公式アカウントを開始。9月10日時点で約230万人が登録している。
コカ・コーラ パークと相互誘導
活用の狙いは自社の会員サイト「コカ・コーラ パーク」の活性化だ。この会員サイトには1200万人以上が登録しており、消費者との接点拡大や懸賞応募の窓口になっている。
同社はLINEの公式アカウントで、主にパークのキャンペーンの告知をしてサイトに誘導。キャンペーン応募数の向上やパークの活性化につなげつつ、パークのメルマガから会員をLINEにも誘導して、共存共栄を図る戦略だ。
「LINEはソーシャルメディアといわれるが、オウンドメディアに近い」
マーケティング&ニュービジネス iマーケティング&システムイノベーションの足立浩俊シニアマネージャーは分析する。このことから、パークの運営で培ったノウハウが、LINEの公式アカウントの運用にも活用できるとみている。
外部サービスと連携して活性化を目指す背景には、消費者が情報を取得する経路の多様化がある。LINEは既存のメールアプリの代わりとして利用する人が増えているといわれる。
従って、従来のメルマガよりも、普段よく利用しているLINEに届く情報の方が見てもらえる可能性は高い。パークの会員の中でも、そうした人が増えていると足立氏はみる。

パークで配信しているメルマガのクリック率は実のところ、「1%に届かないこともある」(足立氏)。一方、LINEの公式アカウントで告知したキャンペーンURLのクリック率は3~4%にも達する。こうしたことから、モバイルのメールにおいても、情報取得の経路が多様化していると言える。
「LINEはほかのメディアと比べて利用者のアクティブ率が高く、反応も速い」とは、足立氏の実感だ。
LINEで情報発信することで、メルマガではなくLINEで情報を取得しているようなパーク会員の利用活性化につなげることを狙う。パーク会員にもサイトなどで、LINEの利用を呼びかけているのはそのためだ。
同社はLINEのROIを、配信したメールに記載したURLのクリック数やパークの新規会員獲得数で判断している。その結果として、現状のROIは十分に高いとみている。
LINEで配信したメールは、多い時には1つのURLが16万回以上クリックされることもある。「仮に1クリック100円の広告を出稿したとすれば、1600万円分の広告(費削減)効果になる」(足立氏)。
ただし、こうした効果が得られているのは、まだまだ企業の公式アカウントが10程度と少なく、物珍しさから登録されていることも要因だろう。今後、公式アカウント数が増え続ければ、利用者が自分にとって必要のない企業アカウントを解除する可能性も高い。
さらに、LINEが現在の急成長を維持できず利用者数の伸びが鈍化したり、アクティブ利用率が下がったりすれば、相対的にROIが低下する恐れもある。公式アカウントの利用費は10月から、初めて開設する際は4週間で800万円(最大5メッセージ)以上へと値上げになる。投資に見合った効果を測る指標を明確に設定して、活用していくことが肝要だ。
1カ月間に4400万回─。
この数値は、日清食品が7月にLINEで提供をスタートした「チキンラーメン ひよこちゃん」のキャラクターをモチーフにしたスタンプの利用回数だ。
会話に入り込む新たなブランディング施策
消費者同士の会話の中で、1カ月間に最高で何回くらい、自社の製品やブランドが話題に上るものなのだろうか。例えば本誌が今年2月に発表した「ソーシャル活用売上ランキング」のクチコミ指数で1位となった日本マクドナルドの例でみてみる。
昨年1年間にブログやTwitterなどに書かれた同社関連のキーワードを、クチコミ分析のデータセクション(東京都渋谷区)の協力を得て集計したところ、その数は約180万件に上った。1カ月に換算すると約15万件。単純比較はできないが、消費者が1カ月間に、LINE上でチキンラーメンのキャラクターをメールで送った数は、マクドナルド関連のクチコミ件数の約300倍になる計算だ。
スタンプはLINEが生み出した新しいコミュニケーションの形といえる。LINE利用者は、テキストを打たずに、喜怒哀楽を表現した多彩なスタンプを巧みに使って会話することも珍しくない。無料、有料のスタンプが多数提供されており、8月のスタンプ売り上げは3億円に達した。
スポンサードスタンプは、LINE上で交わされる利用者同士の日常的な会話の中に、企業のブランドや製品が自然と入り込める可能性を持つ。「自社ブランドのスタンプで会話してもらえるとなれば、やらない手はない。こうした日常会話への入り込み方は、今までにないと感じた」と日清食品マーケティング部第3グループの三宅隆介主任は活用を決めた背景を語る。
ただ、本当に企業のスタンプを使って会話をしてくれるのか。「正直、懐疑的でもあった」と三宅氏。前例がない中、100万ダウンロードという目標を立てた。
ふたを開けてみれば、その数、580万ダウンロード。そして、1カ月の利用回数は4400万回である。「デジタルマーケティングについては、マーケティング部で2年、宣伝部で6年携わっているが、今まで見たことがない数字」と、三宅氏は驚きを隠さない。
上図に掲載した、ひよこちゃんのスタンプをご覧いただきたい。配信したスタンプの中には、血管が浮き出て激怒しているイラストや、ラーメンを頭からかぶってしまったイラストなど、様々な表情のものが用意されている。

こうしたイラストの作成について「最初は躊躇した」(三宅氏)が、LINEでは感情を表現できるものが人気であることから思い切って作成した。その決断が奏功した。
また、LINEのスタンプをきっかけに、「ひよこちゃんのスタンプがかわいい」といったクチコミが、LINEではなくTwitterを通じて拡散する意外な効果も得られた。
スポンサードスタンプは、1カ月間の配布と制作費で1000万円かかる。日清食品では、ROIの測定指標としたダウンロード数とリーチ数の目標を大きく超えており、「費用対効果は、ほかのものより十分に優れている」(三宅氏)と評価する。
ローソンが提供したあきこちゃんのスタンプや日本コカ・コーラのそれは、いずれも1000万回以上利用されたという。消費者同士の対話の中に入り込めるスポンサードスタンプは今までにないブランディング施策といえる。
ただ、すべての企業に向くサービスではない。そもそも、感情を表現できるキャラクターや製品がない企業は活用が難しい。また、スタンプからは自社サイトに誘導することはできないため、ダウンロード数や利用された回数程度しか測定はできない。直接的な売り上げやサイト誘導数を求めるEC事業者などには使いづらいだろう。
※特集「LINE」活用の損得勘定の第3回は「LINEの成長はどこまで続く?」と題してお送りします。