「LINE」の利用者がグローバルで6000万人を突破─。
この特集を執筆中に、こんなニュースが飛び込んできた。
7月に都内で実施した記者発表会でNHN Japanの森川亮社長は、「年内にグローバルで1億人の利用者を目指し、Facebookを追随する」と宣言して会場を驚かせた。6000万人到達で、その野心的な目標に一歩近づいた。
LINEはスマートフォン用無料通話・メールアプリだ。携帯電話のアドレス帳と連携しており、その中にLINE利用者がいれば友達リストに表示するため、導入してすぐ楽しめる。絵文字を大型化したような「スタンプ」も交えながら、ケータイメールのような短いメッセージや写真などをやりとりできる。若年層を中心に国内利用者は2800万人を超えており、半年間で約3倍になった。新たなマーケティングプラットフォームとして、マーケティング担当者の目には魅力的に映る。

そうした企業向けにNHN Japanは2つのマーケティングサービスを提供している。「LINE公式アカウント」は、友達登録した利用者に向けて、企業から情報を一斉配信するための企業アカウントを開設できるサービスだ。
LINEはスマートフォンでの利用にほぼ特化していることもあり、モバイル端末向けのメールマガジンに近い性格を持つサービスだ。そのまま持ち歩いて、店舗で使えるクーポンを配信するようなO2O(オンライン to オフライン)マーケティングに向く。
メルマガの代替ツールとも考えられるLINE公式アカウントに対して、LINEならではのサービスと言えるのが、「スポンサードスタンプ」だ。企業のキャラクターや商品をイラスト化したスタンプを制作して、配信できる。利用者同士がLINEで交わす会話の中で、企業のキャラクターや商品を使ってもらう。全く新しい広告サービスだ。
さて、この特集締め切りの直前にも、再びニュースが飛び込んできた。NHN Japanはマーケティングサービスの大幅値上げに踏み切るというものだ。企業公式アカウントの利用料金が10月、月額350万円から4週間で800万円へとはね上がる(初回契約時)。投資対効果の見極めは、さらに慎重を要する。本特集では活用企業の利用実態を基に効果を検証していく。また識者の意見や各種調査からLINEの“賞味期限”も探った。
ローソン、配信1回で10万人来店
「LINEで『Lチキ(フライドチキン)』半額のクーポンを配信したところ、ある店舗では1日に約200枚も使われて、品切れになったこともあるんです」
こう語るのはローソンの広告販促企画部兼CRM推進部の白井明子アシスタントマネジャーだ。「LINEで人が動くことを実感した」と白井氏。
もちろん、これほどの来店者数を集めることができるのは、同社公式アカウントの登録者数が330万人以上に達するからだ。LINEでは新しい公式アカウントが追加されると、LINEの「お知らせ」欄を通じて、全利用者に一斉に告知されるため目に留まりやすい。この点が、公式アカウントを開設しても、企業自ら顧客や利用者に告知をして登録を促さなければならないFacebookなどとは大きく異なる。
ローソン自身もクーポンの配信に特化してお得感を打ち出し、登録者限定でローソンのキャラクター「あきこちゃん」のスタンプを配布するなどして登録者数を増やした。
同社がLINE活用の効果指標として設定しているのが、クーポンの利用率、すなわち来店客数と、自社で提供するスマホ向けアプリ「LAWSON」のダウンロード数、そして自社EC(電子商取引)サイトへの誘導数だ。
1つずつ説明していこう。まず、最も重視するのが来店客数だ。LINEは「売り上げが伸びないときに配信すると、底上げにつながる」と白井氏は断言する。
前出のLチキのクーポンは先着150万人に配信し、そのうち約10万人が実際に店舗を訪れて商品と引き換えた。もっとも、店頭でクーポンの対象商品だけを購入するのは気が引ける。そこで対象以外の商品も購入してくれれば売り上げ拡大につながるというわけだ。
ここで、来店への動員力をFacebookと比較しておこう。同社のFacebookページのファン数は36万人。ファン数に対するFacebookクーポンの利用率は15%ほどだという。全ファンを対象にしたとしても、動員できるのは5万人強。だからLINEには及ばない。ちなみにLINEは、クーポン配信数に対する利用率はローソンの場合で7~8%だ。
次の指標はLAWSONアプリのダウンロード数。ローソンはCRM(顧客関係管理)強化のため、スマホアプリの利用者拡大を狙っている。その利用者獲得の場としても、スマホに特化したLINEはうってつけ。
ただ、NHN Japanは、LINEのメッセージから直接アプリのダウンロードページに誘導することを禁止している。そのため、両者の間にキャンペーン用ページをはさむ工夫をしている。さらなる特典を求める利用者にアプリのダウンロードを勧める。これなら、LINEの利用規約にも抵触しない。
インタースペースのiPhoneアプリ情報サイト「AppGraphy」によれば、9月3日時点でLAWSONアプリは総合ランキングで165位だった。それが、9月4日にLINEのメッセージが配信されると、9月5日には26位にまで急浮上した。
取材したのは、このメッセージを配信した直後のこと。白井氏によれば、「LINE経由で自社サイトにアクセスが集中したため、サーバーに負荷がかかりすぎて、表示できない状況だった」というほど、LINE利用者の反応は短時間に集中する。
仮にこの効果でLAWSONアプリのダウンロード数が1万増えたとすれば、「(スマホ向け広告では)1ダウンロード200円ぐらいの単価になることもある」(白井氏)ため、広告費に換算すると200万円相当となる。さらにクーポンを利用するために来店してくれれば、売り上げ貢献にもつながる。
9月4日のメッセージにはECサイトへの誘導リンクも加えた。これによって、オンラインでの購買も喚起できれば、さらに費用対効果は高まる。これらの効果を総合的に見ながらLINEに対するROI(投下資本利益率)を測定している。投資に見合う効果が得られているうちは当面利用を続ける方針だ。
ただ効果が高いからといって、「メッセージを乱発するのは危険」だと白井氏は指摘する。「本当の友達から届くのと同じ感覚で届くため、それが企業だった時に反射的に登録解除されることはある」(白井氏)。なるべく利用者の邪魔にならないように、月に1~2回の配信にとどめている。
企業と利用者の距離の近さはLINEの良さであるが故、近づき過ぎない自主規制も必要になる。

ゲオは既存会員の活性化に効果
CDやDVDレンタルのゲオも、LINE公式アカウントを活用した来店促進策に取り組む。
同社の運営本部販促店舗企画部の冨永潤一推進役によれば、「当社は折り込みチラシやテレビCMなどのマスマーケティングが中心で、デジタルを活用した来店促進策にほとんど取り組んでいなかった」。ところが、折り込みチラシの効果は年々下がっているという。また、とりわけ若年層はテレビを見なくなっているといわれる。
こうした中、デジタルマーケティングに取り組もうという機運が社内で高まっていた。「ちょうどいいタイミングで、O2Oに活用できるLINEが登場してきた」(ゲオホールディングス管理本部情報管理課の石川貴士課長)ことから、活用を決めた。
ゲオのようなレンタル事業の場合、棚に陳列されているままなら、少しくらい値引きをしてでも1枚でも多く貸し出すことが収益につながる。そこで、LINEではよりメリットを打ち出すために、1枚借りるごとに旧作が1枚無料になるクーポンを配信した。
同社でのクーポンの利用率は公式アカウントへの登録者数の6%程度だという。現在の登録者数は約95万人のため、5万人以上の来店につながっていることになる。クーポンの配信によって来店した顧客を分析したところ、既存顧客の来店頻度の向上という効果が見え始めている。「来店客を分析すると新規はそれほどいない。既存会員の比率が高い」(冨永氏)。
そこで、同社では1人当たりの月間平均レンタル枚数をROIの指標として見ている。例えば、月間平均3枚しか借りない人が、クーポンをきっかけに5枚借りてくれれば、売り上げ増加につながったことになる。こうして見ても、期待している成果は十分出ているという。またLINE活用後は、女性客の利用率が高まる副次的な効果もみられた。
ゲオでは、近いうちに公式アカウントとは別の方法でもクーポンを配信する予定だ。LINEはメールアプリから、LINE上で様々なサービスを展開できるプラットフォームへと進化している。そのサービスの1つとして、クーポン配信サービス「LINEクーポン」を始めた。ゲオはこのLINEクーポンでもクーポンを配信する計画だ。
このように、LINEはO2Oマーケティングのプラットフォームとしての力をつけつつある。ただ、現時点では地域など属性を絞ったメッセージ配信ができない点は注意すべきだ。
クーポンを配信する場合、全国の登録者に一斉に配信されるため、店舗のない地域の人はメリットを得られない。そのため、全国に店舗網を持つ企業やECサイト運営企業でないと、かえって利用者から反発を招く恐れもありそうだ。
※特集「LINE」活用の損得勘定の第2回は「日清食品『チキンラーメン『のLINE活用、公式スタンプは1カ月で4400万回利用」としてお送りします。