ここ数年の、ややもするとソーシャルメディア偏重気味のムードの中においては、企業アカウントの担当者としてはファン数やエンゲージメント率といった数字が気になるところ。だが現状、ソーシャルメディアとEC(電子商取引)が一体化して販促するソーシャルコマースはまだ本格化には至っておらず、それに適する商材も限られる。最終目標である売り上げやリピートにつなげるには、やはり自社サイトに幾度となくアクセスしてもらって、資料請求やキャンペーン参加などのページにたどり着いてもらう必要がある。ここにきて改めて自社メディア=オウンドメディアの重要性が指摘されるようになってきた。
デジタルマーケティング関連のセミナーなどでは、オウンドメディアの事例として日本コカ・コーラの「コカ・コーラ パーク」を挙げ解説するケースが多い。1000万人を超える登録会員を擁し、多様なコンテンツを武器に懸賞応募のプラットフォームにもなっている。確かに、このサイトは紛れもない成功事例だ。
しかしながら、もともとの企業・商品知名度や予算規模などから考えても、参考にできる企業はそう多くない。では知名度の低い企業やBtoB(企業間)系商材を扱う企業にとって、オウンドメディアの強化は難しいのだろうか。
中堅BtoB企業が月5~10本のリリース発信
テレビ会議システムの提供やサポートを手がける東和エンジニアリング(東京都台東区)。年商約70億円、従業員数270人ほどのこの中堅企業は、ニュースリリースサービスを活用して自社サイトを強化しつつ誘導を図っている。遠隔授業を行う大学など教育機関のほか、支店をネットワーク化してテレビ会議を開く企業、国際会議を開く公共施設などが顧客先だ。
自社サイトでは、「会議・同時通訳システム」「映像・音響システム」「学校教育支援システム」といった項目を立ててシステムの概要を紹介し、導入事例も数多く掲載している。だが、それで問い合わせが次々と舞い込むかといえばそう簡単ではない。校内放送システムの導入から長年の付き合いがある教育関係者間のリアルのクチコミが、認知および成約の決め手となっているケースが多かったという。
そこで同社は2007年夏から自社サイトの補強策としてニューズ・ツー・ユー(東京都千代田区)のニュースリリース配信サービス「News2uリリース」の利用を始めた。投稿したリリースが自社サイトとニューズ・ツー・ユーのニュースリリースポータルサイト「News2u.net」に同時掲載され、さらに「朝日新聞デジタル」や「マイナビニュース」など30以上の契約サイトに転載されるサービスだ。
新製品が続々リリースされるような大企業と異なって、リリースそのものを書き慣れれていないため、2008年暮れまでは月1~2本の掲載にとどまっていた。2009年以降は徐々に本数を増やし、現在は週1~2本ペースでリリースを発信している。
決して新製品が増えたわけではない。想定顧客層とありがちな悩みをかけ合わせてそれに応えるシステムを紹介するリリースを作って、紹介ページに誘導するようにしたことで、リリース発信頻度が上がった。
提案型リリースで顧客つかむ

リリースタイトルを少し挙げてみよう。「『先生!画面の資料が見えません!』 学生からそんな声があがっていませんか? そんな時、東和エンジニアリングの無償診断をお勧めします」「どのテレビ会議が空いているかすぐにわかります! テレビ会議コントロールシステム~」「ハウリングで困っていませんか? BOSCH会議システムなら~」といった具合だ。
株主総会の支援システムについても、「想定問答支援」「議事シナリオ支援」「回答役員立候補支援」など細かく各機能に特化したリリースを出して、ピンポイントの悩みを持つ企業顧客の関心を引くように工夫している。
同社営業企画グループの岩崎昭博マネージャーは、「教育・法人・公共のそれぞれの営業部門に聞くと、お客様の悩み事や課題が見えてくるので、それに応える提案型のリリースを作成している。その意味で、『ネタは社内に転がっている』と言えます」と語る。
これらは新製品情報ではないため、「プレスリリース」としてマスコミ各社に送付しても、それが翌日そのまま記事になることは期待しにくい。だがWebに載せた「ニュースリリース」の読み手は一般消費者から取引先、株主、地域住民まで幅広い。当然その中には潜在顧客も含まれる。岩崎氏は、「News2u.netやその提携サイトからのアクセスが増加している。リリース作成が自社メディアの強化につながっている」と手応えを語る。
昨年の震災後は災害対策ソリューションの紹介や導入事例を中心に配信本数を増やした。システム一式は高額で問い合わせから導入に至るまで年単位になるため、その成果が明らかになるのはこれからだが、反響は大きいようだ。
Webコンテンツの増強が予算や人員的に厳しい企業でも、テキストベースで比較的手軽に発信できるリリースの作成なら、敷居は一気に低くなる。オウンドメディア強化は決してBtoC(消費者向け)系大企業のものではなく、BtoBの中堅・中小企業でも十分やりようがある。東和エンジニアリングの取り組みはその好例と言えるだろう。