※前編から続く

 一方、総合EC(電子商取引)モールや百貨店は、自社の資産を生かして、ファッション分野の売り上げ拡大を目指す。

 楽天は4月、ファッションに特化したECサイト「楽天ブランドアベニュー」を開設した。翌5月にはファッション専業ECサイトのスタイライフ(東京都港区)の大株主となった。出資比率は32.5%である。

 ファッション分野は既に、「『楽天市場』全体の売り上げをけん引する、トップ3に入るカテゴリー」(楽天市場事業企画部ファッション戦略グループの和島昭裕プロデューサー)だという。この分野に注力するのもうなずける。

 楽天は、消費者と楽天市場を結ぶ強力な資産として、「楽天スーパーポイント」を持つ。9月にはポイント会員組織の最上位ランクに「ダイヤモンド」を新設して、優良顧客の囲い込みにいっそう拍車をかける。

 「プラチナ以上の会員向けに展開するプライベートセールでは、楽天ブランドアベニューで取り扱うブランド商品も好調」(和島氏)と、手応えも感じている。

 楽天市場では取り扱いのなかったブランドなどまで取りそろえて、既存会員にファッション関連商品の購入を促進するだけでも「十分な売り上げを確保できる」と和島氏は自信を見せる。楽天グループ全体で約7800万人という会員組織をベースに、売り上げ拡大を目指す。

 楽天市場の特長は、出店企業を募って、それら企業の商品を楽天市場という大きな器の中で販売するモデル。サイト運営や在庫管理は出店企業がするのが基本である。

 ところが楽天ブランドアベニューでは、楽天がメーカーから商品を預かって、商品の撮影から、ページの作成、決済、配送まですべて請け負う。代わりに売り上げの30%を手数料としてもらうモデルとなっている。 

 「アパレルメーカー業界に一般的になっている“ZOZOTOWN方式”をとった」と和島氏は言う。これにより、自社でECを展開するほど人的リソースのないブランドでも出店できるようにした。

 スタイライフへの出資は、「高級ブランドと低価格ブランドの中間に位置するブランドをカバーする」(和島氏)のが狙いだ。若い人には人気でも、楽天市場には出店していないブランドとも、スタイライフは数多く契約している。それが楽天にとっての魅力だった。

 もっとも現状では、楽天ブランドアベニューとスタイライフのサイトは全く別もので、楽天市場として中価格帯ブランドをカバーできるようになったわけではない。両者の一体化は、今後の課題と言えそうだ。

米国のキュレーション型ECサイト「AHAlife」

 単にブランドを拡充するだけではなく、新しい魅力作りにも取り組む。その施策の1つが、今年4月に出資した米国で人気を集める、アパレル通販サイト「AHAlife」のコンテンツの日本展開だ。

 AHAlifeは同サイトと契約するキュレーターが選定した商品を、AHAlifeを通じて販売するというモデルが特徴。キュレーション型とも言えるECサイトだ。キュレーターには、スタイリストなどファッション関係者にとどまらず、俳優、編集者、写真家、企業の社長などが名を連ねている。著名人自身のブランドと、彼らが選んだというバックストーリーが付加価値となって、商品が売れているという。

 国内では、父の日のプロモーションで試験的に米国のファッション学校「パーソンズ大学」の学部長などが選んだ商品を販売してみた。国内での知名度は高くないが、「楽天市場の購入平均単価よりかなり上のものが動く成果も見られた」(和島氏)という。今後、国内からも楽天がキュレーターを募ることも視野に入っている。

 楽天ブランドアベニューはサイトのデザイン自体も、ファッション性を強く意識して作られている。例えば、サイトのデザインやロゴには、楽天のコーポレートカラーである赤を使っていない。黒と金を基調にして高級感を演出する。

また、100に及ぶ取り扱いブランドのうち、ブランディングを強く意識するブランド向けには、「オフィシャルブランドショップ」を用意する。楽天市場のショップページとは異なり、楽天のロゴを一切表示しないなど、より出店ブランドの色を打ち出したページを作成する。こうしたページを、32ブランドが開設している。

高島屋はサイト買収で店舗連携

 全国に広がるリアルの店舗網を使いながら、ネットとの相乗効果で売り上げ拡大を図るのが高島屋だ。来年度にはEC全体で売り上げ100億円を目指している。「(ファッションは)伸びしろが非常に大きい」(青木和宏クロスメディア事業部長)と捉えており力が入っている。

 6月には約30万人の会員を持つファッション専業ECサイトのセレクトスクエア(東京都江東区)を子会社化しており、ファッション分野の売り上げ増加を目指す。

セレクトスクエアのサイト

 リアル店舗との連携にも取り組んでいく。ネットで予約して店舗で受け取るといった機能の活用や、ポイントの共通化などが視野に入っているようだ。既存の高島屋の会員組織と、セレクトスクエアの顧客情報の統合については、「可能な範囲で、今後やっていこうと思っている」(青木氏)。

 ネット上ではセレクトスクエアとの連携を強めることで、「百貨店を核とした、ショッピングセンターをネット上にも築く」と青木氏は言う。

 リアルの世界で好調なのが、二子玉川のショッピングセンター「玉川高島屋S・C」。このショッピングセンターにおけるファッション分野の売り上げは、百貨店ブランドと専門店ブランドを行き来する中で購入が促進される環境づくりに腐心した。このようなショッピングセンターを、ネット上にも築くというわけだ。

 まずは、サイト同士にバナー広告を張り合ったり、メールマガジンからそれぞれのサイトに誘導したりといった、相互送客から連携を始めている。今後は、IDの統合なども検討する。

 課題も残る。在庫管理や物流などのシステムが統合されていないため、高島屋のサイトとセレクトスクエアで相互集客しあっても、同時に決済して、同梱して届けるといったことはできない。今後、本格的な連携を図るなら、バックエンドの仕組みの統合も必須になるだろう。

 衣料・アクセサリー市場の仮に1割がEC化されるだけでも、現在の10倍以上のEC市場が広がる。知恵の勝負はこれから始まる。

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