0.88%。この数字を聞いてピンと来る読者の方はどれほどいるだろう。実はこれ、2010年の衣料・アクセサリー市場全体におけるEC(電子商取引)化率の数字である。経済産業省のデータで、2011年分の公表はまだなので、これが最新のものである。

衣料・アクセサリーのネット通販市場とEC化率の推移(経済産業省)

 試着できないことなどを理由に、ファッションECは成功しないと言われたが、「ZOZOTOWN」を手がけるスタートトゥデイなど先駆者らが、かつての“常識”を覆した。

 ここへきて、ファッション専業EC会社ばかりでなく、ネットの世界から大手総合ECモール会社、リアルの世界から百貨店などが、事業拡張に本腰を入れるのもうなずける。成長期待は高まるのに、まだ0.88%しか開拓されていないのだから。

 果たして、勝敗を決するポイントはどこにあるのだろうか。ファッション専業ECサイトのマガシークの井上直也社長によれば、「消費者はもはや、商品ブランドより、ECサイトの善しあしで選ぶようになってきている」。

初のリアルイベント開催の狙い

ファッション通販を巡る各社の動向

 もっともな指摘だ。いくら人気ブランドであっても、扱うECサイトが増えていけば、各ECサイトのウリはその人気ブランドではなくなる。「このサイトで買いたい」。そう消費者に思ってもらえるかどうかがカギとなる。まずは、ネットの会社がリアルに進出する動きから紹介しよう。

 追われる立場となるスタートトゥデイは、初のリアルイベント「ZOZOCOLLE」を、9月15日、16日に千葉県の幕張メッセで開く。ファッション専業サイトとして地位を築いた同社がリアルイベントに進出する狙いは、予約販売市場のさらなる拡大にある。

 急成長を遂げてきた同社だが、成長に陰りも見え始めた。2012年4~6月期、経常利益が前年同期比で4.9%減となり、株式上場後で初めての経常減益となった。

 打開策として力を入れているのが予約販売だ。「予約販売は当社、当社サイトへの出店ブランド、消費者それぞれにメリットがある」と、スタートトゥデイイベント実行委員会の中川龍ディレクターは言う。

 現在、ZOZOTOWNの売り上げの約1割が予約販売となっている。同社では予約販売は定価が基本のため、利用が広がれば、それだけ収益の拡大につながる。

 一方、出店ブランドにとっては、発売前に人気のサイズや色といった顧客のニーズを把握でき、生産数の調整に活用できる可能性がある。「需要と供給のバランスを適正にしたい」。同社の前澤友作社長のそんな思いも予約販売の拡大を目指す背景にある。また、消費者にとっては、欲しい色、サイズを確実に購入できるメリットがある。

 もっとも、ただでさえ試着できないアパレルの通販で、発売すらしていない商品を予約購入してもらうのは、ややハードルが高い。ネットの力だけで越えるのには限界もある。そこでリアルのイベントの開催というわけだ。

スタートトゥデイは初のリアルイベントを開催する

 イベントは商品の発売に先駆けた展示会のようなもので、約70のショップが出店する予定だ。来場者は2000点以上ある商品を、会場で試着したり、予約購入したりできる。ZOZOTOWN限定商品も500点以上取りそろえる。リアルのイベントを開催することで、これまで予約購入を利用したことがない人にも、予約購入の便利さや楽しさを伝える。

 このイベントへの参加者は1000円の入場チケットを事前にZOZOTOWN上で購入する必要がある。無料だと来場者数が多すぎて、せっかく試着できることを売りにしたのに、待ち時間30分といった状況も起こりかねない。これではむしろ、ZOZOTOWNの評判を落としてしまうかもしれない。また、申し込みはしたけれど来場しないという人を減らす効果も期待できる。

 「服を買うためのイベントで参加料をとることに対して批判も覚悟したが、多くの人に関心を持ってもらえている」と中川氏が言うように、チケットの売れ行きは順調だという。好評を受けて、追加チケットも販売。2日間の合計で2万~3万人の来場者となる見込みだ。

 前澤社長は、「ポイント制度やサイトデザインなどは、他社が簡単にまねできるため、そういった面での差異化は難しい」と周囲に語ったことがある。今回のような、ネットを軸にしながらリアルイベントを開催するなど、ZOZOTOWN独自の企画の展開で、先行者利益を最大化していく考えだ。

セレクトショップ化するマガシーク

 マガシークも同じくファッションEC専業だが、こちらは顧客志向を突き詰めることで差異化を図る。今年の9月にはサイトのコンセプトから実際のサイト構成まで全面的に刷新する計画だ。

 同社はこれまで、ファッション誌に載っている商品がそのまま買えるというビジネスモデルで売り上げを拡大してきた。しかし、「事業開始から10年以上が経ち、やや読者が飽き始めている」と井上社長は感じている。人気モデルが着て誌面に載るだけで、商品が300着くらい飛ぶように売れるような時期もあったが、最近はそんなこともない。

 そこで、「雑誌連動ファッションEC」という以前のコンセプトを一新し、9月からは「自分のためのセレクトショップ」を目指す。

 例えば、サイトのトップページは利用者ごとのお薦め商品を中心に構成する予定だ。マガシークのサイトを使えばそれだけ、その人の使い方に馴染んでくる。ブランド横断型で、趣味のあった商品を勧める。その利用者の嗜好(しこう)に沿いながら新しい発見もしてもらえるようにレコメンドを強化する。8月にはサイトの刷新に先駆けて、スタイリストが選んだ商品を紹介する提案型のコンテンツも始めた。

 また、商品の幅を広げることで、ファッションECサイトからライフスタイル提案サイトへと方向性を変えていく。「インテリア、雑貨、あるいは食品を扱うこともある」(井上氏)。

 試験的に、人気菓子店の商品を母の日にあわせて販売したことがある。最初はファッションECで食品を販売することに違和感もあり、反応が悪かったが、徐々に売れるようになってきているという。

 ブランディング施策も強化し始めている。以前、サイトについての認知度調査を実施したところ、ZOZOTOWNは半数以上が知っていると答えたが、マガシークはわずか8.6%にとどまっていた。

 「ZOZOTOWNがテレビCMを始める前は、当社と認知度に大差はなかったのに、ここまで差がついてしまった」と井上氏。この6月に、初めて全国を対象にテレビCMを打っており、知名度の点でも巻き返しを図る。

※後編(8月24日掲載予定)へ続きます。