第1回 メーカーCRMサイト続々登場の舞台裏
第2回 利用するほど高まる価値、顧客の意見でコンテンツ拡充――価値共創型のオムロンヘルスケアと味の素
第3回 店舗との連携強化で会員拡大、エンタメコンテンツも有効――接点拡大型のジョンソン・エンド・ジョンソン

 顧客が利用すればそれだけ、製品の付加価値になっていく。そんな価値共創型CRMサイト「ウェルネスリンク」を運営するのが、オムロンヘルスケアだ。会員数は22万人とさほど多くはない。それでも効果を上げている。

 「体重計、血圧計を使って測ってもらっても、その数値にどういう意味があるのか分からないと継続して利用してもらえなくなる」

 国内営業本部健康サービス事業企画の花岡大樹主事は、ウェルネスリンク誕生の背景にある課題をこう語る。

 オムロンヘルスケアは家電量販店を中心に製品を販売している。計測結果の有効的な活用法を伝えたくても、同社には顧客との直接的なつながりがなかった。

 顧客と関係を持って、計測の意味を伝えていく。そんな狙いから開設したのが、血圧、体重、歩数などを毎日記録するサービスであるウェルネスリンクだ。「メタボ予防・改善」「高血圧の改善」「ダイエット」といったテーマを決めてデータを記録していけば、数値を基に自動診断してくれたアドバイスが届く。それを参考に、食生活の改善やダイエットの持続に生かせる。こうして機器で測定できる数値の読み解き方を提供するのだ。

サービスも含めて製品の価値を高めるオムロンヘルスケア

 会員が利用するほどデータがたまっていき、その価値は高まっていく。とはいえダイエットなどは一人で地道に続けるのはなかなか根気がいる。そこで、会員同士で成果の順位を競い合うイベント機能を用意した。

 ほかの参加者のデータと比較でき、掲示板にコメントを投稿して、会員同士で励ましあったり、アドバイスしたりしながら目標達成を目指す。こうした、会員同士の交流機能を用意することも、製品の付加価値となる。

熱心な顧客は有料メニューも利用

 より分かりやすいポイントは、新機種の販促につなげることもできることだろう。

 測った数値を自分で記録することもできるが、ウェルネスリンクの対応機器なら、パソコンとつなぐかFeliCa対応のスマートフォンをかざせば、自動的にデータを記録できる。非対応機種の利用者が同サイトを使い続けるうちに、きっと手軽にデータを記録したいと思う人も出てこよう。その時が、最新の対応機種を購入してもらうチャンスだ。

 実際、「手入力のユーザーを非対応機器の所有者とみなした場合、体重計や血圧計など、どの機器の所有者も前月比で数%程度が対応機器の所有者になっている」(花岡氏)という成果につながっている。

 別の商品を買うきっかけも作ることができる。ウェルネスリンクでは体重と血圧、血圧と睡眠時間といった、複数のデータの相関を解析することも可能だ。歩数計の利用者は、恐らく体重も一緒に測定したいはず。そこで、歩数計の利用者に対して、体重計の購入を促すといったマーケティングにも活用している。

 昨年からは、ヘビーユーザー向けに有料メニューを始めた。月額315円でデータの保存期間を通常の半年から、無期限に拡張できる。このほか、イベントのランキング機能を拡張して、同年代や同じ性別の人に絞って、競い合うことも可能になる。

 有料メニュー利用者の99%はウェルネスリンク対応機種の所有者で、さらに複数機種を利用する人が多いという。ウェルネスリンクを通じて健康管理の意識が高まって有料サービスに加入し、さらに複数の機器を購入した。もしくは、もともと複数所有する優良顧客ほど有料メニューを利用するという仮説も立てられる。

 いずれにせよ、月額利用料、機器購入によって顧客生涯価値が高まる成果に結びついていることは疑いない。サービスを継続利用してもらえれば、次に製品を買い替える時にオムロンヘルスケアの製品を選んでくれることも期待できる。

 最近では、新しい価値としてウェルネスリンクと連携したスマートフォンのアプリの提供にも力を注ぐ。

 この1年の間に、朝と夜の2回体重を記録する「朝晩ダイエット」、持ち歩くだけでカロリー消費量などが分かる活動量計と連携した「Jog style アプリ」、睡眠時間や眠りの深度を分析できる「ねむり体内時計」といったアプリを矢継ぎ早にリリースしてきた。自分が利用する機器にあわせて、スマホアプリとパソコンでデータを管理できるようにすることで、継続的な利用を促している。

 製品と連携したサービスを顧客が利用するほど製品の価値が高まり、手放しがたくなる。価値共創型CRMの理想型ともいえる。

味の素、レシピを軸にCRM

 味の素は7月に同社製品を使った料理レシピのサイト「レシピ大百科」にコミュニティ機能などを新たに加えて、AJINOMOTO PARKに刷新した。狙いは、CRM機能の強化だ。既存のサイト会員を引き継いだため、スタート当初から約50万人の会員を持つ。

 「商品ブランドには自信があるが、企業としてのブランドが弱い」

 食品事業本部家庭用事業部の津布久孝子品質・広報グループ長は、味の素が抱える経営課題をこう語る。

 調味料の「味の素」のほか、「ほんだし」「クノール」「Cook Do」など様々な商品ブランドを同社は展開している。が、「各ブランドと味の素が完全にイコールで結びつく人は残念ながら少ない」(津布久氏)。

 AJINOMOTO PARKでは、商品ブランドごとのファンを同サイトに集約することで、味の素のほかのブランドにも関心を持ってもらうことを狙う。食やレシピをテーマに会員同士で交流する掲示板や、好みのレシピの投票企画、味の素主催イベントの参加者レポートなどを用意している。

味の素は、会員参加型コンテンツをレシピ開発などに役立てる

 掲示板では現在、「教えてっ!夏バテ対策メニュー」というテーマで会員からメニューを募っている。8月1日の募集開始から約1週間で投稿数は100件を超えた。投稿を見ていくと、ゴーヤを使ったメニューを投稿している人が多く見られた。単純な分析だが、ゴーヤのメニューへのニーズが高いことが分かり、味の素にとっては新たなレシピ開発のヒントになる。

 各レシピのページにはコメント投稿機能や、レシピを評価する「グッド!」ボタンを用意している。こうしたサイトの利用促進に活用するのが、ポイントシステムだ。

 レシピにコメントしたり、ほかの会員のコメントを評価したりすることでポイントがたまる。こうして得たポイントは、会員限定のプレゼントキャンペーンなどに使えるようにする。

 会員に様々な行動をしてもらうことで個別の興味を把握でき、レコメンド機能が洗練され、それぞれの会員好みのレシピを推薦できる確率が高まる。よく利用する会員ならば、今日の夕食に迷った時、AJINOMOTO PARKのお薦めレシピを見れば、恐らく自分が好きな料理ができ上がる。

 味の素にとっては、レシピには味の素の様々な商品名が記載されているため、会員にいつもは使わない商品を知ってもらえる機会となる。こうしてブランド横断型の商品提案ができるというわけだ。

 味の素は、向こう5年で300万人の会員数を目指している。接点拡大につれて、販促に直結する効果も生まれるだろう。連載第3回では、「接点拡大型」のメーカーCRMをご紹介する。

第1回 メーカーCRMサイト続々登場の舞台裏
第2回 利用するほど高まる価値、顧客の意見でコンテンツ拡充――価値共創型のオムロンヘルスケアと味の素
第3回 店舗との連携強化で会員拡大、エンタメコンテンツも有効――接点拡大型のジョンソン・エンド・ジョンソン