CRM(顧客関係管理)サイトを開設するメーカーが、最近増えていることにお気づきだろうか。よく知られた「CLUB Panasonic」や「コカ・コーラ パーク」ほど大規模な会員組織でなくとも、実利を手にできる。自社の製品、それ単体の良さだけで売れる時代は過ぎ去った。その良さに、顧客との関係性を重ね合わせることで、新たな価値が生まれ始めている。
最近の例では7月に味の素が「AJINOMOTO PARK」を開設し、サントリーホールディングスは6月に「サントリータウン」をスマートフォンに対応させて本格オープン。4月には、資生堂が「watashi+(ワタシプラス)」を開設――。
これらに共通するのは、大手メーカーによるCRM(顧客関係管理)サイトであることだ。このサイトは、企業が様々なコンテンツやサービスを提供するメディア的な自社サイトを運営し、顧客を中心に会員を集めて、メールなどを通じてコミュニケーションをする場となる。顧客との長期的な関係を構築しながら、自社製品の売り上げにつなげていくのが狙いだ。
コモディティー化の波に打ち勝つ秘策
薄型テレビなどの不振を要因とした、今年3月期の電機メーカーの赤字決算を見るまでもなく、日本メーカーにしか作れない製品群は急速に減り、コモディティー(汎用品)化の波が各分野の国内メーカーを直撃している。
お客さま第一。それはかつてメーカーの呪文だった。現在はCRMによる具体的な付加価値を製品につければ、それが売り上げに直結することに多くのメーカーが気づき始めている。その証左が、“CRMサイト開設ブーム”だ。
まずはパナソニックのCRMサイト「CLUB Panasonic」を紹介したい。会員数は非公開だが、数百万人規模で国内最大級だ。同サイト発の隠れたヒット商品も生まれている。同社のEC(電子商取引)サイト限定で販売するタブレット端末はその1つだ。
録画機器「DIGA」と連携させることで、録画した番組を、タブレット端末で再生して自分の部屋でも楽しめる。この商品をDIGA所有者に絞って提案したところ、「かなりの台数が売れたんです」と、AVCマーケティングジャパン本部CRM推進室プランニングチームの中村愼一リーダーは言う。

CLUB Panasonicを活用することで、こうしたマーケティングを実現した。このサイトでは会員に対し、所有しているパナソニック製品の型番や製造番号などを登録することを促している。
だから、誰がどの商品を所有しているかが分かる。そのため、DIGAの所有者限定で商品を訴求できるのだ。
会員にはポイントを付与することで所有製品の型番登録を促す。ポイントは製品レビューの投稿などでも付与し、懸賞応募などに使ってもらう。さらに、DIGAを購入してCLUB Panasonicに型番を登録したら映画のDVDが当たるといった、製品プロモーションと連携した登録促進策も実施して、顧客データベースの充実を図っている。
ただ、会員登録してもらっても販促時にメッセージを送るだけでは継続利用は望めない。そこでゲームなどのコンテンツも多数用意しながら、顧客との接点拡大や接触頻度を高めている。
さらに、顧客とともに製品の価値を高める施策も展開する。企業のCRMコンサルティングを手がけるエンパスリンク(東京都中央区)の高見俊介社長は、「製品の価値をメーカーがすべて作る時代は終わり、顧客とともに作る時代になった」と指摘する。
コモディティー化が進み「モノ」の機能では差異化が難しい。例えば、友達とランニングの距離を競う米ナイキの「Nike+」の価値は、顧客のランニング活動で生み出され、その体験が顧客を通じて広がる。顧客とともに価値を作る好例と言える。
CLUB Panasonicでも形は違えど、顧客を巻き込んだ製品開発、プロモーションに取り組む。例えば、「みんなのレビュー」は様々な製品のレビューが集まるコーナーだ。購入者アンケートや新製品の発売前に会員向けに割引販売する「モニター販売」などで会員からレビューを集める。
レビューは、検索サイトで製品情報を探してCLUB Panasonicを訪れた人への訴求につながる。「パナソニックの製品サイトへの流入口として、CLUB Panasonicは検索サイトに次ぐ規模になっている」(中村氏)。顧客の生の声が効果的なプロモーション手段となっているわけだ。
とはいえ、「数百万人規模の会員なんて、そう簡単には集められない…」という企業も多かろう。しかし、目的に応じた会員数が集まれば、CRMは有効に機能する。
比較的高価でコアなファン持つ企業が取るべき施策は?
前出の高見氏によれば、「メーカーCRMでも目的によって大きく2つに大別できる」。CRMを新たな顧客接点の場と捉え、多数の会員を獲得して直接的に販促に結びつける「接点拡大型」と、顧客とともに製品の付加価値を生む「価値共創型」と名付けられよう。

接点拡大型は多くの会員を集めて、メールなどで一斉に情報を届け、商品購入を喚起することを目指す。比較的廉価な商品を扱い、高い市場シェアを持つ企業に向く。
価値共創型は顧客とともに製品の付加価値を生むことを目指す。比較的、高価格帯の商品でコアなファンを持つメーカーに向きそうだ。少人数の優良顧客とともに始められるため、CRMサイトを始める企業は、まず価値共創型を目指すのが得策だろう。価値共創型で実績を出しつつある事例を連載第2回で紹介しよう。