Facebookをきっかけに物件を購入したのは14人――。

 野村不動産の営業チームと関係者は自身の目を疑い、そして一気に沸き立ったことであろう。

 同社は、神奈川県川崎市の新築マンション「プラウドシティ元住吉」販促のため今年3月、この物件のFacebookページを立ち上げて、6月末に迎えた第1期販売分の200戸を即日完売させた。成約者アンケートで成約のきっかけを聞いたところ、実に14人がFacebookと答えたのだ(複数回答可)。

 同社としてもほぼ初めての取り組みで半信半疑な中、「Facebookでマンションが売れる」というのは驚きだったに違いない。カギとなったのは地元商店街とのタッグだった。

 プラウドシティ元住吉は全296戸で、東急東横線の元住吉駅から徒歩9分の立地にある。野村不動産は200戸以上でタワー型以外の物件には「シティ」と名付けており、元住吉は東横線で初のプラウドシティとなるという。同マンションギャラリーの永田雄一郎副所長は、「社を挙げての旗艦物件として販売に臨んでいる」と力が入る。

各駅停車しか止まらない元住吉

 元住吉駅は交通の便がいいとは言い切れない。JR線も乗り入れる武蔵小杉駅と慶応大学キャンパスで知られる日吉駅の間にあり、各駅停車しか止まらない。武蔵小杉駅の前にはタワーマンションが続々と建設中だ。一見地味な「元住吉の物件」をどう訴求していくかは大きな課題となった。

 同社が注目したのが、駅から物件までの道のりにある、活気ある商店街「モトスミ・ブレーメン通り商店街」だ。駅から数百メートルにわたって約320の店舗が軒を連ねる。休日にはおよそ2万3000人、平日でも約1万5000人が訪れ、その盛況さに全国各地の商店街関係者も見学にも訪れるほどだ。

「プラウドシティ元住吉」は、最寄り駅と物件の間にある商店街が大きな魅力

 この物件の価値は交通の便や間取りなどだけでなく、帰りに活気ある商店街に立ち寄れることにもある。それを伝えることが、近隣の物件との差異化につながると同社は判断した。

 そこで野村不動産は物件広告を担当するリクルートと組んで販促期間中に商店街との連携企画を仕掛け、デジタルマーケティング支援のエヌプラス(東京都港区)にFacebookページの企画・運営を委託することにした。

 商店街にとっても296戸の住人は見込み客として魅力的だ。モトスミ・ブレーメン通り商店街振興組合の小林規一郎販促副部長は「人の集合体であるマンションからのタイアップ提案は面白いと興味を持った」と話す。物件広告が始まる昨年12月と同じ時期に商店街がFacebookページを開設し、今年3月にプラウドシティもFacebookページをオープンさせた。

 かねて不動産会社は物件概要や地域情報を伝える媒体としてブログも活用してきた。しかし更新が途絶えることも少なくなかったという。ブログに載せる長い文章は書くのが大変で、反応が見えにくいためコンテンツが独りよがりになりがち。Facebookなら写真1点に短い文章をタイムリーに投稿できる。「いいね!」で反応が直接分かるため投稿方針の修正もしやすい。

 ファンの属性も細かく分かる。年代や既婚・未婚、地域など住宅購入に深く関係する属性でターゲティングしたファンの獲得も可能だ。ソーシャルメディアの特性のうち、長期的な関係構築に向くという点ではなく、情報発信や販促に使い勝手がいいプラットフォームであるという点が、Facebook活用の決め手となった。

商店街情報を日々投稿

 ページ開設当初は、Facebook広告を幅広く配信してファン数を増やすことに注力した。そのほか、野村不動産のメールマガジンや、「SUUMO」などに掲載した物件広告を通じてファンを獲得していった。開設から4カ月強となる7月下旬時点で、ファン数は約2200人となっている。

Facebookページでは、商店街の店舗情報を投稿していった

 コンテンツは必然的に、商店街の店舗情報やイベント情報が大半を占める。商店街振興組合の協力を得て、エヌプラスが取材、執筆する。時には沿線他駅の情報も含めながら、“プラウドシティ元住吉ライフ”が思い浮かぶような情報を提供する。

 マンション購入を検討する人でも、毎日物件のことを考えるとは限らない。しかし、Facebookページのファンになった人は毎日のように元住吉の情報を得ることで、マンションの購買意向が高まる可能性がある。そんな効果も期待した。

 商店街の情報提供だけでなく、連携イベントも実施した。マンションギャラリー来場者数の増加と商店街への来訪を促すために6月16日から24日に実施した「モトスミブレーメンウォーク」は、来場予約者に商店街に関するクイズを送付。まず、商店街を回ってクイズの答えを集めて、マンションギャラリーでアンケートに答えると商店街オリジナルグッズがもらえる企画だった。Facebookではイベント告知をして、クイズと連携した性格診断アプリも提供した。

 プラウドシティ元住吉には5500件以上の資料請求が寄せられ、6月30日の第1期登録受付分の200戸は即日完売。「社内的な評価は(即日完売など)『当然』ではあるが、業界的にはインパクトを残せたと思う」(住宅事業本部の横山英大営業企画部長)と辛口ながら評価は高い。当初の懸念がうそのような反響となった。

 成約者アンケートの結果が出る前、永田氏は「Facebookが販促の主体ではないので、新聞広告やSUUMOの反響と比べて少ないのは当たり前。ただ、このコミュニティーにいる人に商店街の情報を伝えるのは有意義だと思うので続けている。投稿へのコメントも入り始め、いい感触を持てている」と評価していた。「売らんかな」の姿勢とは一線を画すこうした活用方針が、功を奏したのかもしれない。

 マンション販売では第2期以降の集客で苦戦するのが一般的な傾向だ。継続的な販促効果の点で、Facebookにはさらなる期待がかかる。

 プラウドシティ元住吉は、活気あふれる商店街を物件の価値の一部に据え、その魅力を最も表現しやすい媒体であるFacebookを通じて購買検討層に伝えた。マンション以外の商品でも、機能や公式サイトでは伝わりにくい魅力がきっとある。商品のそんな隠れた魅力を伝えるためにFacebookを活用した野村不動産の取り組みは、様々な業界でも応用できそうだ。

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