ロンドン五輪に沸くスポーツ用品業界。しかし、ここで浮かれていてはいけない。そのことを、ミズノの公式通販サイト「MIZUNO SHOP」を担当するeマーケティング室の石井洋専任次長はよく知っている。

 4年前の北京五輪、翌年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)後、盛り上がりの反動で同社の通販サイトは減収になってしまったからだ。それを機に、メーカー直販サイトの役割はどうあるべきかを冷静に見直し、昨年度は15%増収と復活を遂げた。今年度も10%成長の見込みだ。その過程でミズノが取り組んだ改善活動には、すべてのメーカー直販サイト担当者が学ぶべき点が多い。

「定価で買う」顧客像を描く

 メーカー直販サイトは、既存流通網との兼ね合いで、ほぼ定価販売となることが多い。それはミズノでも同様だ。そして、当然だが自社商品しか扱っていない。そんな“不便なサイト”で買ってくれる人は、どんな人か。

 この顧客像について、石井氏はこう語る。

 「単に靴が欲しい人、ゴルフクラブが欲しい人なら別のサイトへ行く。学生時代に野球をやっていた、などミズノに何らかの縁があり、ミズノに好意を持つ人、ミズノの商品を欲しい人だ」

 様々な改善活動のベースはここにある。北京五輪後、そしてWBC後に、いくつかの改善策を実施してきた。

 1つは商品名データの改善だ。サイト内の商品紹介ページでは、単に「ウエーブライダー15(ランニング)」のように商品名を表示するが、グーグルのショッピング検索エンジンなど外部サイトに商品情報を提供する場合は、商品名の頭に「ミズノ」を加えるようにした。

 メーカー直販サイトで買う確率が高いのはミズノのファンである。そうした人の目につきやすくすることで、検索エンジンでのクリック率は20~30%も高くなったという。EC(電子商取引)関連サービスのコマースリンク(東京都大田区)の商品データ作成サービス「DFO」を使って自動変換している。

サイト内の商品情報と異なり、検索結果に表示する広告には「ミズノ」とメーカー名が入る

 改善の2点目は集客方法だ。売り上げ拡大に向けて同社は集客数、購入単価、購入率(サイト訪問者のうち何パーセントが購入まで至るか)を注視する。ただ、購入単価を上げるのは難易度が高い。それよりは、どこから集客すれば購入率が高まるかを把握し、改善した方がよいと考えている。

 費用対効果が最も良い集客元は自社の公式サイトだ。購入率は検索エンジン経由の訪問者の3~4倍になるという。当然、公式サイトの各商品の詳細ページから、直販サイトの商品の販売ページへリンクを張っている。

 一方、売り上げのボリュームを稼ぐのは、検索連動型広告とリターゲティング広告となる。

 検索連動型広告は出稿キーワードに工夫を凝らす。北京五輪、WBC効果が一巡した2009年度後半からは広告予算を減らして収益性の改善に取り組んだ。集客数は減らしても購入率を高めることに注力した。具体的には単に「ランニングシューズ」と検索する人への広告表示はやめ、「ミズノ ランニングシューズ」とミズノと掛け合わせて検索する人だけに表示するようにした。ミズノが気になる人の目につくようになるため、クリック後の購入率は高くなる。

 最近、注力しているリターゲティング広告ではクリテオ(東京都渋谷区)のほか、サイジニア(東京都品川区)の「デクワス.AD」、マイクロアド(東京都渋谷区)の「MicroAd BLADE」を活用。いったんMIZUNO SHOPサイトを訪れた人に、見た商品やそれに関連した商品の広告を外部サイトで表示して、再来訪を促す。売り上げへの費用対効果では、検索連動型広告全体の目標値を上回るほどだという。

全商品の返品無料を実験中

 3つ目の改善が顧客サービス面だ。シューズはサイズが合わない場合の交換・返品送料を無料にした。さらに現在は、全商品のサイズ交換・返品送料無料キャンペーンを実験的に実施中だ。「若干返品は増えているが悪意ある返品はない。定価販売ということもあり、こうしたサービス面の充実は欠かせない」と石井氏は語る。これによって顧客満足度を高め、リピーター作りにつなげたい考えだ。

 メーカー直販サイトの存在意義として、品ぞろえは「ミズノの商品全品が理想」(石井氏)とする。扱う商品の型番数は約7000と、東京と大阪で展開する直営店舗の約6000をも上回る。

 ネットならではの“陳列”にも工夫を凝らす。ミズノといえば野球やゴルフという印象が強いが、直販サイトでは暖かいインナーウエア「ブレスサーモ」や、ウォーキングシューズ、ウォーキングサンダルなどが売れ筋となっている。

 機能が明確で、スポーツというよりファッションに近く、安価で他サイトとの価格差が小さい商品群だ。そこで、トップページ中央の目立つ部分にウエアやシューズなどの商品のバナー画像を配置して誘導を強化している。野球やゴルフといった競技カテゴリーは左のメニューに収めた。

MIZUNO SHOPのトップページ。本来の事業の柱である野球用品などの競技カテゴリーは左のメニューに収め、ファッション性が高い商品などを中央で訴求

 また、同社は春と秋に一斉に新商品を発売するため、その直前の2月と8月は在庫切れの商品が多くなり、直販サイトの売り上げが落ちていた。そこで2010年後半からは、チーム名などをTシャツにプリントする別注サービスを利用して、通販サイト独自の商品を小ロットで作って常に販売できるようにした。Tシャツ、ポロシャツ、ウインドブレーカーなど100~150品ほどで、型番数では全体の2%程度だが、売り上げに占める比率は8%にも上る結果が出ている。

 こうした数々の改善策が、MIZUNO SHOPを再度成長路線に乗せた。

 今後の課題はリピーターの拡大だ。ミズノは通販サイト、商品カタログを掲載する公式サイトだけなく、ゴルフクラブのフィッティングやオリジナルクラブのオーダーなど様々なサイトを運営している。昨年までにそうしたサイトのシステムや会員組織を統一した。今後はその利用動向を横断的に分析して、最適な情報をメールなどで届けていきたい考えだ。直販サイトだけで考えるのではなく、ミズノが持つ資産全体を生かして収益を上げていく。