「SNSで潜在層をファンにする」
そんな狙いを語ったのは、資生堂のメーキャップブランド「マジョリカマジョルカ」のマーケティングを担当する同社の清水英孝氏だ。日経BP社主催のイベント「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」の講演における発言である。清水氏の講演では、マジョリカマジョルカを巡る「ソーシャルメディア活用のブランディング」についての説明があった。

このブランドでは、ブランドサイトとSNSの役割を明確に分けている。ブランドサイトは、「ブランド独特の世界観を深く堪能してもらう」、そして「ファンのロイヤルティを高める」ために利用する。SNSは、「ブランドについて、身近で旬な情報を提供して、興味を持ってもらう」、そして「潜在層をファン化」するため活用している。
「身近な情報をブランドサイトで提供してしまうと、ブランドの世界観が壊れてしまう」。そんな課題を、SNSを利用することで解決しているのだ。
実際、マジョリカマジョルカはSNSの活用に積極的だ。「Facebook」「Twitter」「Pinterest」「mixi」「Ustream」と、国内の主だったSNSを既にマーケティングの場として利用している。特にPinterestの利用開始は他社に先駆けたものとなり、その活用は多くのメディアで取り上げられもした。
なぜ、ここまでPinterestに早くに取り組むことができたのだろうか。その理由を清水氏は、このブランドの「SNSに対する基本スタンス」を基に説明した。
SNSに対する6つの基本スタンス
同ブランドでは、SNSに対する方針を大きく6つ決めている。例えば、SNSはツールに過ぎない、Small Startでも良いからSpeed Start、自社ローコストオペレーションで費用対効果を追求、といったものだ。2つ目に掲げた「Speed Start」という方針があるため、まだ成長性が未知数だったPinterestに、社内リソースを投下し始められたという。
PinterestはEC(電子商取引)との親和性に優れ、同ブランドでもアップする画像にあわせて、資生堂オンラインショップへ誘導したり、「Amazon.co.jp」へ誘導したりしているとのことだった。
研究から実践フェーズへ移るアトリビューション
一方、広告効果の最大化を図る「アトリビューション分析」に関するセッションも設けられた。最近の注目キーワードになっているアトリビューションについて、第一線で取り組む面々から、「アトリビューションの基礎」「実際に実践している中で出てくる課題」についての討論が繰り広げられた。

登壇者は、アタラ(横浜市)の取締役COO(最高執行責任者)の有園雄一氏をモデレーターに、デジタルインテリジェンス(東京都渋谷区)代表取締役の横山隆治氏、博報堂デジタル・ダイレクトビジネス局パフォーマンスマーケティング部ディレクターの宮腰卓志氏、リクルートのウェブアナリスト兼エバンジェリストの小川卓氏がパネリストとなった。
アトリビューション分析とは、「複数の広告キャンペーンや流入チャネルを経由してコンバージョンに至った場合に、どの流入元が、どの程度コンバージョンに貢献しているのかを分析し、それぞれの流入元の貢献度を導き出すこと」と説明された。特に「複数のキャンペーンや流入チャネル」というのがポイントだ。
例えばリスティングなど、最終的なコンバージョンが得られやすい手法もある。ただ、リスティング経由でコンバージョンに至るユーザーも、実はその前にいくつかバナー広告をクリックして、商品へのニーズが高まっていたりする場合もある。
こうした直接的にはつながらないが、コンバージョンへのアシストとなる施策の効果を把握するのがアトリビューション分析だ。この分析をしなければ適正な予算配分ができず、「リスティングだけ出稿していれば良い」という誤った方向に流れてしまいかねない。
分析だけでは意味が無い
アトリビューション分析の具体的なものとして、有園氏からは「計量経済的手法」を用いた手法、小川氏からは実際に利用している「分析プラットフォーム」、宮腰氏からは「PathFinder」という具体的なツールを用いた手法などの紹介があった。パネリストからは、「現在、アトリビューションの手法やツールはそろいつつあるが、それらを用いて分析できる人材が不足している」との課題も浮上した。
また、アトリビューション分析にとどまらず、具体的な施策へと導いていけるスキルや行動が必要とされている、との指摘もあった。分析を手がけること自体はコスト増になるためだ。そのコスト以上の成果を引き出せるように、Webサイトの改修やキャンペーン展開など、実際のビジネスに生かしていく必要があるだろう。