ロンドン五輪のサッカー男子日本代表が、優勝候補のスペインを1対0で破る快挙を成し遂げた直後の7月27日0時50分ごろのこと。NHKはTwitterと連動するニュース番組で、ちょっとしたトラブルに見舞われていた。Twitterが世界的にアクセスできない状況が1時間にわたって続いたのだ。

 日本ではスペイン戦が放映されていたこともあり、投稿の集中が招いたアクセス遅延かと疑われたが、実際にはサーバー側のトラブルだった。Twitter Japanはすぐさまブログを通じ、謝罪を発信。「Twitterを使いながら日本対スペインのサッカーの試合を楽しまれていた方々は、喜びの瞬間にツイートができず残念な思いをされたことと存じます」と謝罪を述べた。

 Twitterとテレビ。両者の関係は日を増すほどに親密になっている。テレビを視聴しながらTwitterでつぶやき、あたかもお茶の間でテレビを見ながら会話をしているかのような、新しい楽しみ方が次々と生まれている。日経BP社が7月24日~26日に開催した「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」でも、「Twitterとテレビ」は重要なテーマとして複数の講演の中で触れられた。

Twitterの80%がモバイルからのアクセス

Twitter Japanのデレクターである牧野友衛氏

 Twitterは何故、テレビとの相性がいいのか。その理由を解説したのが「TVとTwitter」との講演タイトルで登壇したTwitter Japanビジネスデベロップメントの牧野友衛ディレクターだ。ちなみに、前述のトラブルが起こるより前の登壇である。

 「世界中のTwitterユーザーの55%が、モバイルからTwitterを利用している。日本ではさらに顕著で80%がモバイルからの利用だ」と牧野氏は言う。こうしたモバイル利用の増加がテレビとの相性を高めている要因のようだ。

 テレビ番組の制作者側は徐々にTwitterとの連動を深めようとしている。この方法には大きく4つあると牧野氏は解説した。1つ目は番組中にハッシュタグ(関連発言をまとめる機能)を紹介するというもの。これは最も日本で使われているケースで、番組についての意見を視聴者がツイートすると、それをテロップやディスプレイに取り込んで表示する。

 2つ目は生放送ではない収録型の番組を放映する際に、出演者が舞台裏をつぶやく「ライブツイート」だ。3つ目はニュース番組によく見られるケースで、キャスターのTwitterアカウントをそのまま表示してフォロワーを増やすというもの。

 4つ目はつぶやきの中身ではなく数に着目して投票に使うケース。過去には音楽番組「MTV」で実施されており、アーティストごとにハッシュタグを紹介してツイート数で競わせる。

 牧野氏は国内事例として今年4月14日にフジテレビが放映した「爆笑レッドカーペット」、NHKの大河ドラマ「平清盛」の2つの事例を挙げた。爆笑レッドカーペットはハッシュタグを表示して視聴者の感想や意見を求めたところ、放送時間の2時間の内に約22万9000ツイートが集まったという。

 Twitterには、注目が集まっているハッシュタグを基にランキングで話題を表示する「トレンド」機能がある。このトレンドを見て番組に流動する効果があると牧野氏は主張した。

 一方、NHKの大河ドラマ「平清盛」では6月23日にライブツイートを実施。プロデューサーが番組の放映中に舞台裏や解説をするという取り組みだった。

 通常は放送時間内に1万5000程度のツイート数だったが、ライブツイートを実施したときには2万3000までその数が伸びたという。そしてすべてがTwitterの影響とは言えないと前置きした上で、ライブツイートを実施した回の視聴率は前回の11.6%から0.5ポイント増えて12.1%に達したと紹介した。牧野氏は米調査会社ニールセンが2011年10月に発表したソーシャルメディアとテレビの視聴率に関する調査結果を提示し、「ソーシャルメディア上での話題が9%増えると視聴率が1%上がる」と主張した。

 こうしたテレビとTwitterの相性の良さに着目し、新しい視聴スタイルを作り出そうとしているのが、「ソーシャルメディア時代のテレビ視聴~スマホアプリ『サッカー日本代表STADIUM』が実現したこと~」と題して講演を行ったアディダスジャパン、およびバスキュールだ。

自社のビジネスに直接結びつける

 アディダスジャパンはサッカー日本代表のオフィシャルサプライヤーである。同社が、バスキュールおよびミクシィとバスキュールの合弁会社であるバスキュール号と組んで作成したのがスマートフォン向けアプリ「サッカー日本代表STADIUM」だ。

スマートフォン向けアプリ「サッカー日本代表STADIUM」

 このアプリは、「mixi」「Facebook」「Twitter」などのソーシャルメディアと連動して日本代表戦を応援するためのもの。文字を入力するほか、あらかじめ用意された選手名、スタンプなどを用いて自分の感情を手軽に表現できる。

アディダスジャパン、シニアマネージャーの津毛一仁氏

 試合経過時間に合わせてリアルタイムで「日本代表がいつゴールをするか」といったアンケートを実施したり、ハーフタイムの時間にみんなで参加するイベントを催したりする。アディダスジャパンのブランドマーケティングデジタルマーケティング、シニアマネージャーである津毛一仁氏は。開発に着手した背景として「サポーターの分散化」を挙げた。

 かつてはスタジアム観戦が唯一ともいえる応援手段だった。それが、街頭テレビでみんなで観戦するスタイルに代わり、その後に家庭用テレビの普及で自宅で見るようになった。さらには、スタジアムの大画面で試合を中継して集まったサポーターみんなで応援する「パブリックビューイング」が普及。毎試合欠かさず見るロイヤルティの高いファンは「視聴率ベースで15%程度」(津毛氏)。それ以外のサポーターはチームの戦況や個々の選手の人気によって変動する。

 この分散化した視聴者をいかに集め、変動するファン層を「強い熱意」を持つコアサポーターにつなげていくか。その解として提供を始めたのが今回のアプリだったという。

 目標は「新たな観戦スタイルを作り、テレビ観戦の楽しさをアップグレードする」こと。そのためには欠かせないソーシャルメディアとの連携だが、「人によってはTwitter、人によってはFacebookとコミュニケーションの多様化が発生している」(津毛氏)という課題があった。スタジアム観戦、テレビ観戦を問わず、各種ソーシャルメディアもつなぐ新たなサッカー観戦専用ツールを作れば、必ず日本中の人が注目するコンテンツの結束が起きると考えた。

 このアプリは今年2月27日にリリースした後、2月29日の対ウズベキスタン戦、6月3日の対オマーン戦、6月8日の対ヨルダン戦と各試合で知見をため、バージョンアップも繰り返してきた。回を重ねるごとに参加者は増え、コミュニケーションの深度も高まっているという。しかし、津毛氏はこのアプリを「単なる遊びに終わらせない」とも語る。

 アプリの使い勝手を阻害しない範囲でブランドメッセージを表示するほか、アディダスが販売する公式ジャージ購入者へデジタルアイテムのインセンティブを付与。また注目選手が得点して試合に勝利した直後、つまりファンの気持ちが高ぶっているタイミングでEC(電子商取引)サイトへ特典をつけて誘導するなど、自社のビジネスへも貢献させている。

 「今後は店舗への誘導といったO2O(オンライン to オフライン)施策などに広げ、今年11月にはテレビ局と連携し、試合中継と連動して日本中の人の感情がテレビ上に表示されるようにしていく」(津毛氏)とのロードマップを掲げた。

バスキュール社長の朴正義氏

 一方、バスキュール社長兼バスキュール号社長の朴正義氏は、「(米国の)スーパーボウルを超える広告体験を目指すというのが我々のチャレンジだ」と主張。

 「日本代表戦は日本最高峰の視聴率をたたき出すコンテンツで、3000万~4000万人が視聴する。30秒のCMに1%の視聴者が同時参加すると、1秒間で3万リクエスト以上に耐えうる環境を用意しなければならない。個別にこの環境を用意するのは難しいが、同時に数百万人がアクセスしても大丈夫なシステムを作っておけば、ユーザー参加型の新しい広告の姿を作れるのではないか」として、講演を締めくくった。