日経BP社は7月25日、「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」の2日目を開催した。基調講演では、グーグル代表取締役の有馬誠氏が「グーグルが考えるマーケティング近未来図~スマホ、ソーシャル過半時代は間近に~」と題して、現在のトレンドを示すソーシャルメディア、ローカル(地域情報)、モバイルの3つの頭文字を取った造語「SoLoMo(ソロモ)」の変化と、それに対応するグーグルのソーシャルメディア「Google+」への取り組みを語った。

グーグル代表取締役の有馬誠氏

 講演途中には、マーケティング本部長の岩村水樹執行役員も登壇し、有馬氏との掛け合いでGoogle+を紹介していった。

 岩村氏はまず、Google+は昨年6月にベータ版を公開し、9月に一般公開した後、今年6月には世界のアクティブユーザーは1億5000万人に達したと明かした。パソコン以上にモバイルユーザーが非常に多く、「これはうれしい状況である」と現状を評価した。

 急速に広がる理由として、「実際の生活に便利に使える」点、そして「グーグルのサービスをより便利に使える」点の2つがあると説明。実際の生活上で使いやすい機能としては、友達や同僚などの人間関係に応じて情報共有の内容を変えられる「サークル」機能を紹介した。

 また、グーグルのサービスをより便利にする機能としては、地域情報の「Google+ローカル」を使うことで、友達の薦める飲食店を簡単に探せることを例に示していた。

 こうした岩村氏のプレゼンを、“身内”ながら敢えて遮るように、有馬氏は1つの疑問を投げかけた。

 「ほかのソーシャルサービスを使っていたとしても、さらにGoogle+を使う価値があるんですか?」

 日本では以前から「mixi」が多くの利用者を抱えており、最近では「Facebook」の利用者が急増している。周囲に利用する人が多いほど便利になるネットワーク効果が働き、多くの時間を割くソーシャルメディアでは、利用するサービスは1つに集約するユーザーも多いだろう。

 有馬氏の疑問に対して岩村氏は、「Google+は、グーグルの単独のソーシャルサービスとは考えていません。グーグルのあらゆるサービスにシェア、情報共有の仕組みを載せて、グーグルのサービスをより使いやすくするものです」と回答。グーグルのサービスを使いやすくすることから「Google 2.0と言ってもいい」と位置づけを示した。それ故、グーグル社内では、Google+を1つの「サービス」ではなく、全社横断的な「プロジェクト」として捉えているという。

 有馬氏も、既存のSNSは「友達が増えるのはうれしいが100人以上に増えるといろいろな方と友達になり、共通の話題を投稿するのが難しく、一般的なことしか言えなくなる」のが問題点と語り、自身がGoogle+のサークル機能を使って高校時代の友人など交流していると、Google+の優位性を個人的な利用法から説明した。

 また、岩村氏は「日本のソーシャルネットワークを活用する人口は一定のしきい値を超えられなかったのは、ソーシャルとして活用するニーズがない人もいるから。実際のいろいろな生活上のコミュニケーションをサポートするのがサークル機能」として、Google+が既存のSNS以上の利用者を獲得していくことを示唆した。

 その後、Google+のビデオチャット機能「ハングアウト」のデモを実施。佐賀県在住の料理研究家、「筋肉料理人」さんと、会場のPC、有馬氏のスマートフォンの3カ所を結んだビデオチャットを実施した。筋肉料理人さんは、ラー油を使った卵かけご飯など様々なレシピをGoogle+で公開して、フォロワーは約3万人に達する。「従来のブログより親密につながりやすくなった。今後はハングアウトを使った料理紹介や料理教室をやってみたい」と語っていた。

「スマートフォン時代は大きな変革期」

 有馬氏は、「スマートフォン時代は大きな変革期で大きなチャンスである。ユーザーのメディア接触時間が大きく変わり、スマートテレビ、テレビとタブレットの併用なども増えた。その中で企業がどうマーケティングをしていくか、エキサイティングな時代になった」として、聴講者の広告主企業や代理店、メディアなどにチャレンジを呼びかけて講演を締めくくった。

 もう1つの注目プラットフォームであるFacebookについて、フェイスブックでマーケティングマネージャーを務める須田伸氏が登壇し、「知識ゼロからのFacebookマーケティング」と題した講演を行った。会場は立ち見が出るほどの盛況ぶり。マーケティング関係者のFacebookに対する注目度の高さを改めて印象づける講演となった。

Facebookマーケティングの鉄則は「BCEI」

フェイスブックのマーケティングマネージャー、須田伸氏

 冒頭で会場に集まった受講者のほとんどがFacebookのアカウントを持ち、半数以上がFacebookページの運用を手がけていることを確認した須田氏。既に人口の5割以上、インターネット人口の7割がFacebookを使っている米国ではFacebookマーケティングの知見が日本よりも蓄積されていると説明した後、全世界でフェイスブックが推奨するマーケティングモデルを紹介した。

 それは「BCEI」と呼ばれるもの。「Build(作成する)」「Connect(作成したページとファンをつなげる)」「Engagement(質の高いコミュニケーション)」「Influence(交流をファンの先の友達まで広げる)」の頭文字を取っている。

 企業がFacebookを使ったマーケティングを始めるためには、まずFacebookページの作成からとなるが、現在、このページにはブランドメッセージを伝えるカバーフォトを設置できる。須田氏はこのカバーフォトを有効活用している清涼飲料水の「レッドブル」や「コカ・コーラ」などの事例を挙げながら重要性を説明。また、雲の写真をユーザーから募りその画像でカバーフォトを構成するという米通信大手のAT&Tのユニークな事例も紹介した。

 ページを作成した後は運用フェーズに入るが、須田氏が特に何度も強調したのは「定期的運用」だ。しかも、「頻度は高く、決して重くないコミュニケーション」が成功の鍵を握るという。スパムのように何度も投稿するのは避けつつ、時にはファンに問いかけるようなライトな投稿も効果的。まずは週に1~2回の定期的な投稿から始めるべきとした。

 こうした取り組みは従来のマーケティングとは一線を画す。「これまで企業はキャンペーンの盛り上がりに予算の大半を投下し、谷間には何もアクションを起こさないというケースが多かった」と須田氏。しかし、Facebookマーケティングは「軽くて定期的なコミュニケーション、つまり“Always-On”であるべき」(須田氏)だという。

 交流をファンの先まで広げるために効果的と須田氏が主張したのが「スポンサー記事」だ。自分の知人がアクションを起こした情報を付加されて届く広告は、とてもROI(投資対効果)が高いという。さらに、「Facebookは非常にモバイル利用が伸びているのに、広告スペースがないと言われるのは完全なる誤解。モバイルのニュースフィードにもスポンサー記事は表示される」(須田氏)と解説した。

 こうしたBCEIモデルを忠実に実現して成功を収めた事例として、須田氏が紹介したのは米ホテルチェーンの「BestWestern(ベストウェスタン)」だ。

 2012年春に実施した極めて新しい事例で、出張するビジネスパーソンの「家族の大切な瞬間に側にいてあげられないという罪悪感」というインサイトをつかんだ同社は、「出張しているあなたは家族にとってヒーローである」という意味を込めた「Be a Travel Hero」というキャンペーンメッセージを設定。

 2011年から展開していた出張時に3回、ベストウェスタンに宿泊すれば次の休暇旅行で1泊プレゼントをするというキャンペーンと連動させ、夢の休暇プランを作って家族や友達を招待するというアプリを作成してコンテストを開催。このアプリを使って作成したバーチャル旅行プランへの招待を受ける人が増えるほど、プランを作成した人の当選確率が上がるという仕組みを取り入れた。

Facebookマーケティングに5つの誤解

 結果は前年比20%の売り上げ増に加え、ベストウェスタンの会員プログラムへの参加者が大幅に増加した。Facebookページ上でのエンゲージメント率はキャンペーン期間中、通常時の12倍まで拡大したという。

 須田氏は、Facebookマーケティングに関するありがちな5つの誤解も紹介した。それは、「キラーコンテンツを作れば人はやってくる」「エッジの効いたテクノロジーが必須」「ソーシャル要素は後から味付けすれば十分」「広告だから人々の会話に割り込まなければならない」「従来のWebサイトの代替物として扱う」だ。こうした企業が陥りやすい典型的な失敗例を学び、クリアすることでFacebookマーケティングを成功に導けると主張した。

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