「良品計画がハウスメーカーでナンバーワンになりました」

 日経BP社主催のイベント「モバイル&ソーシャルWEEK 2012」の2日目に登壇した良品計画の奥谷孝司WEB事業部長がこう話すと、会場は笑いに包まれた。

良品計画のWEB事業部長、奥谷孝司氏

 良品計画がハウスメーカー。そう聞けば、違和感を覚える人も多いだろう。実のところ同社は、グループ会社を通じて無印良品ブランドで住宅事業を展開しており、これまでに700棟以上の家を建てた実績がある。その売り上げは「ここ数年は黒字続き」と奥谷氏は明かす。

 とはいえ、無印良品の家の認知はまだまだ低いと感じている。そこで認知向上を目指して、6月から「Facebook」や「Twitter」と連動したキャンペーンを展開した。

2年間タダで住める無印良品の住宅

 キャンペーンは東京都三鷹市に建設中の無印良品の家に、2年間無料で住める権利が当たるという内容だ。家具や食器、洋服など生活に必要なものもすべて良品計画が用意する。キャンペーンページから、FacebookかTwitterに投稿することが応募条件となる。また住んでいる期間中に、住み心地などを良品計画から、Facebookなどへの投稿用に質問されることを受諾する程度の“義務”が発生する。

 「家という無印良品ブランドの中で最高額の商品が、宝くじ感覚で当たる企画で、話題を呼ぶことを狙った」(奥谷氏)。

 この狙いは的中した。2年間無料で家に住めるというインパクトに加え、無印良品の家という意外感も相まって、ソーシャルメディア上に話題が広がった。応募開始前に、無印良品のFacebookページでキャンペーンを告知したところ、即座に7000を超える「いいね!」がついたという。

 キャンペーン中には建築中の家の設計図なども、Facebookページで披露した。その設計図には8000を超えるいいね!がついた。ここ数週間、無印良品のページでの投稿は、多くてもいいね!の数は3000程度。それを考えれば、キャンペーンがいかに話題を呼んだかがうかがい知れる。

 応募者数は5万7000人を超えた。その中にはわざわざ電話をかけてきて、当選した場合に子供が通う学区がどこになるかを尋ねてくるような人もいた、というエピソードも披露した。「それほどまでに無印良品の家を“自分ごと化”してくれた」と奥谷氏は満足気だ。

 キャンペーンのコストは住宅費などを含めて約7000万円。これを応募人数で割ると、1人当たりの獲得単価は1600円と、無印良品のキャンペーンとしては少々割高だという。ただ奥谷氏は、「(住んでもらうことで家の良さが伝わり)当選者は2年後にきっと家を購入してもらえるはず」と自社の商品に自信を見せる。

 「通常、キャンペーンコストが戻ってくることはないが、購入してもらえれば、一部が戻ってくる」(奥谷氏)という、キャンペーン設計における妙手を明かした。キャンペーンを実施した結果、わずか700人程度だった「無印良品の家」のFacebookページのファン数は、キャンペーン後に約3万3000人まで急増した。

 「10日で住宅メーカーでファン数ナンバーワンになった」(奥谷氏)。これが、冒頭のコメントの種明かしである。例えば、タマホームで約2万3900人、大和ハウス工業で約1万9600人といった感じだ。

 今回のキャンペーンで初めて無印良品ブランドで住宅事業を展開していることを知った人も多いだろう。ただ、家はすぐに購入するものではなく、新たに無印良品の家を知った人たちの興味を引き続けた上で、いずれ家を買ってもらうという長い道のりが待っている。これまで自社コミュニティやソーシャルメディアで培ってきた、対話のノウハウを生かして、この大事な道のりを歩んでいく考えだ。

「接客するならFacebookよりTwitter」、東急ハンズ流“SNS接客”

 一方、TwitterやFacebookで顧客との交流を深めながら、来店につなげる方法を探り続けているのが東急ハンズだ。同社ITコマース部EC企画課ディレクターの緒方恵氏が、SNSに対する時の心構えや、TwitterとFacebookの違いなどについて語った。

東急ハンズITコマース部EC企画課ディレクターの緒方恵氏

 東急ハンズは2009年にTwitterに参入するなどソーシャルメディアを早くから活用しているが、「まったくお金を使っていない」のが特徴。本社管理のTwitterアカウントを3つ、各店舗のアカウントを8つ、合計11のアカウントを運営しているが、専任のスタッフはおらず、緒方氏をはじめとした担当者が1日1時間程度を割いて運用している。

 Twitterの狙いは、顧客からの問い合わせのハードルを下げること。商品情報などを気軽に質問してもらい、回答をすぐ提示することで顧客のロイヤルティを高め、ファン作りや来店につなげたいという思いがある。エゴサーチも行い、面白いツイートやネガティブツイートに積極的に返信。「1ツイートは1人の顧客。放置せず、相手が何を伝えたいか見極めてコミュニケーションするのが大事」だと緒方氏は説く。

 「店頭での接客=SNSでの接客」。緒方氏はこの意識が肝要だと繰り返す。SNS上のユーザーは、店頭の顧客と同じ1人の人と意識し、店頭と同じように丁寧に応対。投稿の内容が偏らないよう気をつけたり、ツイートに対する反応が多い時こそ反応していないフォロワーを意識するなど、Twitterでも公平な接客を心がける。

 Facebookも運営しているが、「接客するならTwitter」だと緒方氏。Facebookは友達の輪に話題を届けるイメージという。話のネタになるような商品や写真を紹介すると、たくさん「シェア」「いいね!」されるが、友人同士のシェアの輪の中に企業のFacebookページは参加できない。一方、Twitterは企業も個人もフラットな関係で、実店舗の店員と顧客に近い対話ができるとする。

通販ページのPVは上がるが…

 課題も多い。SNSで商品を紹介すると、同社の通販ページのページビュー(PV)は上がるが、「売り上げに大きく影響するほどの力はない」のが現状。SNSの発信を来店につなげるのも簡単ではなく、今は、「ひたすら愚直に向きあって、信頼度を高めるフェーズ」と緒方氏は割り切る。来店促進は難しくても、すでに来店してくれた顧客――来店時に「#ハンズなう」とハッシュタグ付きでツイートしてくれた人――に対してTwitterでお礼を言うなど、コアファンとの絆をより深いものにする努力を続けている。

 「東急ハンズにとってソーシャルメディアは、お客様とより深く関わるための窓口が、Web上にも存在しているということ」。ソーシャルメディアを特別視したり過剰に期待するのではなく、店舗の接客と同じ意識を持ちながら運営することで、東急ハンズは着実に、顧客との関係を深めていっている。