投稿内容を改善したいなら、定番の「顔出し写真」が有効なはず。まさに“顔”が見える投稿となるからだ。そんな落とし穴に一度はハマり、後に本質的な投稿改善に腐心したのがヤマハ。
【ヤマハ】社内行事紹介でファンが減少、音楽ファンに響く内容で反響増
「ヤマハ社内で餅を食べるイベントの写真を投稿したみたら、ファンが減ってしまいました…」
ヤマハのFacebookページ「ヤマハ音楽部」担当チームの1人である、国内営業本部営業企画部WEB・CRM推進室主任の前田武敏氏は、今でもこの出来事が心に残っている。ヤマハ音楽部では、ファンに楽器の楽しさを知ってもらうために、例えば前田主任は「タケ」というニックネームで、音楽に関する情報提供や、メンバーの音楽関連の活動を紹介している。このほか、「けん」「ハル」というメンバーがいる。
3人は昨年9月からメンバーの「顔」を出そうと、朝のあいさつや週末の活動など幅広く投稿をしていた。しかし、ヤマハのFacebookページのファンとなる人は、音楽部メンバーのファンではなく音楽のファンである。それを痛感したのが、“餅イベント事件”だった。
ヤマハ音楽部の開設は、昨年11月の国内最大の楽器イベント「楽器フェア2011」などへの集客が目的だった。開設後、Facebook広告も使ってファン数を一気に3000人まで増やした。全国各地のヤマハ関連イベントもきめ細かに紹介していった。しかし、増えたファンに様々なイベントを案内しても集客にはあまりつながらないことが徐々に分かってきた。
そこで、楽器フェア終了後、運営目的と投稿内容の見直しを始めた。ヤマハが抱える本質的な事業課題は、楽器人口の減少だ。Facebookで楽器の楽しさを伝え、かつて楽器を楽しんだ世代に再び楽しんでもらおうとなった。
投稿内容は音楽。本数は1日5本から3本程度へと減らし、エンゲージメント率が高まるように厳選している。
最近は写真を中心とした音楽関連のレポート記事を増やして、いいね!を押してもらいやすくしている。「特に夜8時以降の電車でスマホという利用を想定すると写真で軽い記事の方が反応がいい」(WEB・CRM推進室の岡田賢氏)ことも分かってきた。同じ写真を使うにしても、無意味な顔出しでなく、音楽の楽しさを伝える写真である。
例えば、楽器演奏から離れて十数年というハルが、プロとともに吹奏楽の大演奏大会をするヤマハの「ブラス・ジャンボリー」に挑戦するという企画を2月に実施。けんが練習の様子をレポートしたり、一緒に練習するファンを募ったりした。音楽ファンの共感を呼ぶための顔出しと言えよう。

ヤマハではこうした改善成果を測るために、独自の指標である「打率」を毎月算出している。ファン数1000~4999人のFacebookページの平均エンゲージメント率0.97%(Facebook情報サイトのfacenavi調査)を基準値として、それを超える投稿を「ヒット」と定義。全記事数に対する比率を「打率」として算出する。1月には0.237だった打率は5月には0.348まで向上しており、“4割バッター”も夢ではない。
投資情報一筋のコンテンツ、虹への大反響で方針転換
ヤマハと同じく、目的は硬派、ノリは軟派の路線で投稿内容を見直す企業は証券業界にもある。ファン数1万人強と、業界有数のファン数を誇るマネックス証券だ。投資情報など自社サイトの豊富なコンテンツを生かしてFacebook上のファンを拡大してきた。この5月から投稿方針を変えたのは、些細なことがきっかけだった。
「本日オフィスから薄っすらとですが虹が見えました!」
5月28日、Facebookページの編集長役を務めるマーケティング部の西條玄香氏の写真付き投稿は、100件以上のいいね!を集めた。普段は10~20件程度が一般的な同社においては異例のヒットとなった。
マーケティング部マネジャーの田平公伸氏はそれまで、「投資に関係しない投稿はしてはいけない」と考えていたが、それを見直した。目的は、企業文化を伝えることによるブランド強化に据えながら、ノリは、海外拠点の社員が日本へ集まったときの写真を紹介するという感じだ。グローバルなブランドを想起させる素材である。「ブランドへの共感を差異化にして、顧客をつなぎ止める役割」(田平氏)に期待をかける。
硬軟織り交ぜた投稿のバランスは各社ともに迷うところ。ソーシャルメディア活用コンサルティングのトライバルメディアハウス(東京都港区)の池田紀行社長は「4:4:2の法則が重要」と説明する。最初の4割は「お疲れさま」など一般的な話、次の4割は企業やブランドの周辺情報、2割は新製品など企業情報となる。ただ実際は「日本では0:8:2が多い」と池田氏。以前のマネックスはまさにその典型だった。
【小学館集英社プロダクション】ファン拡大期と成果追求期で、コンテンツ戦略を切り替え
まずはファンを増やす。5万人に達したら、ファンの質、濃さを高めるためにコンテンツを見直す──。
試行錯誤しながら投稿内容を見直す各社と異なり、通信教育事業「ドラゼミ」の小学館集英社プロダクション(東京都千代田区)の路線変更はあらかじめ予定されていたものだった。
同社は昨年12月、Facebookページ「子育て“間接的”応援サイト オトナのドラゼミ」を立ち上げた後、クチコミ波及力の強い2つのアプリの提供や他社との共同企画を次々と展開。4月にはFacebook上の診断アプリ「お悩み解決アプリ“ざっくりタイムカプセル”」と、ニチレイフーズと貝印との共同企画「お弁当コンテスト」が広告とクチコミで広がり、ファン数は1カ月で1万2000人から26万人を超えるまでに急増した。
そこで6月からは、予定通りドラゼミの教育理念の理解を促し、商品をもっと知りたいと思うファンが増えるように投稿内容を変えていった。従来は、診断アプリや「上司の持ち物をチョコで作って入れ替えたらどんな反応をするのか実験」の投稿など、ファンに楽しんでもらい、話題を広げてもらうことを最優先にしていた。

それを学習、道徳的な側面を含む内容に変えた。核となるのは「オトナのオケイコ」シリーズだ。例えば、「社会科~七夕~」では、ファンから「世の中の子どものために願うこと」を募り、最も多かった「いつも笑顔が溢れる」をビル3階分の長さはあろうかという巨大短冊に書き、ビルに飾って写真で報告した。
オトナのオケイコは既に120のコンテンツを用意しているという。面白さだけに頼らず、堅すぎずというバランスを取りながら、ドラゼミへの関心を高めていく。
両親が子供に諭して聞かせる道徳的な内容の投稿も大きな反響を呼んでいる。「おはよう」「おやすみ」「いってきます」など日常のあいさつを「“8秒”で毎日を明るくする魔法の言葉」と題してまとめて投稿したところ、1万6000以上のいいね!、140件近いシェアを集めた。エデュケーション事業局通信教育事業部PR推進課兼デジタルメディア戦略室主任の島田雅弘氏は、「簡単に人に共有してもらえるように、誰が見てもいいと思ってもらえる視点で作った」と、Facebookのバイラル効果も強く意識したと明かす。
アプリや投稿を通じて集まったファンの4割は18~24歳と、ドラゼミ本来の顧客層より若い。方針転換はファンの離脱を招く恐れもあるがFacebook活用の目的は顧客の獲得だ。ここからが“本番”である。