その異変に気づいている企業は、まだほんの一握りなのかもしれない。企業のFacebookページのファン数は、程度の差こそあれ、ほぼ右肩上がりの状況が続いている。一般にはそう信じられている。しかし、それは幻想だ。

 ここに1つのデータがある。Facebook情報サイトの「facenavi」によると、6月末時点でファン数が1万人以上の国内企業のFacebookページ127件のうち約12%、15のページは4月3日比でファン数を減らした。

4月から6月にかけてファン数が減った主な企業Facebookページ
4月から6月にかけてファン数が減った主な企業Facebookページ

Facebookのアクティブユーザー数の推移(トーチライト調べ)

 同じ6月、Facebookのアクティブ利用者は前月比で128万2010人増え、1004万5660人と急伸中にもかかわらずだ(トーチライト調べ)。調査方法が異なるため、3月に1000万人突破と公表したフェイスブックの公開データとややずれはあるが、増勢トレンドは疑いない中における出来事だった。

 ファンの減少幅が大きい企業の多くは、今年2月までFacebookの会員登録時に、お薦め企業として紹介され、すぐ登録できるようになっていた。その20社以上の推薦枠が6社に激減し、そこから外れた企業の多くはファン数の低迷に悩まされている。

 ただこれは、推薦枠という先行者利益を享受した大手企業だけの問題ではない。Facebook利用の浸透は、友人間のコミュニケーションの活性化を意味し、企業ページなど見なくても十分楽しめる状況を作り出す。

 他社の成功事例を上っ面で理解し、キーワード先行でFacebookページの改良を繰り返せば、もうファンはついて来ない。そうならないためのFacebookページ再生プラン。再生を果たした7社は、いったい何を目的に、何を評価指標としながら、何を変えたのだろうか。次ページから紹介する。

「ロイヤルユーザーの育成」を目標に…達成への道は暗中模索

【Z会】運営目的を見直したら、何をすればいいか鮮明に

 まずは、Facebookページ運営の目的そのものを見直した事例から紹介しよう。運営目的として一般に、「ロイヤルユーザーの育成」を掲げる企業は多い。ファンとのコミュニケーションを通じて、自社や自社商品への理解を深めてもらい、共感度を高め、購買に結びつける。ストーリーとしては美しいが、ソーシャルメディアが商品選択に貢献したのか、その効果を直接把握しにくい分、成果の追求が曖昧なまま運営を続けてしまうことがある。

 そんな状況に疑念を持ち新たな運営目的を定めたのが通信教育のZ会だ。

 「Facebook単体でのブランディングを目標としていたときは、様々な指標が取れるものの、それを基に何をすべきかという判断ができていなかった」

 広告宣伝課Web・宣伝統括担当主任である溝呂木聰氏はこう振り返る。同社は2010年12月にFacebookページを開設して、「ロイヤルカスタマーの醸成」を目的に運営を続けてきたが、今年5月末に新たな目的を加えた。

 従来の目的でも成功といえる事例が生まれていた。主に受験生の保護者層への訴求を想定し、今年1~2月、社員に「受験生応援メッセージ」を手書きしてもらい、その写真をFacebookとTwitterに投稿する企画を実施した。東京大学の合格発表時に29人のZ会会員による喜びのメッセージも集め投稿すると、ファン増加数は通常1日1.6人のペースから9.5人まで跳ね上がった。

 ただ、ロイヤルカスタマー醸成にはファン数が何人になれば十分なのかなどが曖昧なまま運営をしてきたのも事実。そこで5月末Facebookを通じた「自社サイト来訪者の増加」を新たな目的に加えた。デジタルマーケティングの施策をトータルに考えた結果だ。

 年初に顧客獲得キャンペーンを実施した際、リターゲティング広告を本格活用した。広告のインプレッション数は前年比2倍に達し、それも影響したとみられる社名検索が3倍近く増え、サイト来訪者が約40%増となった(2011年12月~2012年4月の集計)。

 このリターゲティング広告を強化するなら、次なる課題は自社サイト訪問者の増加だ。それが増えれば、リターゲティング広告の配信ユーザーとインプレッション数が増える可能性が高い。そこで、ソーシャルメディア活用の目標に自社サイトへの誘引を加えたのだ。

 「Facebookを使っているときに子供の勉強のことを考えているとは想像しにくい。その場で申し込んでもらうのではなく、後日、リターゲティング広告を見ることで思い出してもらえればいい」と溝呂木氏は語る。

Z会はリターゲティング広告のために、ソーシャルメディアを自社サイトへの集客エンジンと位置づけた

 増えたサイト訪問者が、どのコンテンツを見たかによってグループ分けし、外部サイトでのリターゲティング広告のクリエーティブや誘導先を切り替える。そして、最終的な申し込み数を増やせばいい。Facebook活用の目的が明確になったことで、溝呂木氏は「Facebook上で展開する企画を考えやすくなった」と感じている。

 誘導数を増やすには広告費をかけてでもファン数を増やすのがよいのか、クチコミで広がる記事ネタを探し出すのがいいのか、様々な施策の成否をサイト誘導数で測っていく。目的に伴いKPI(重要業績評価指標)も明確になれば、Facebookへの投資もしやすくなる。

第1回 ファン減少の企業もあるってホント? これがFacebookページの立て直し方
第2回 「エンゲージメント率向上」は中間目標…、分かっちゃいるが最終目標
第3回 「顔出し写真」でファンと親近感…、そう思ってたら、ファンが減った
第4回 ついやってしまう「ソーシャルメディア専門家」の登用
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