ロンドン五輪は、ソーシャルメディアが世界的に普及した時代における初めての開催となる。いわば、「ソーシャル五輪」との位置づけもできよう。開催に向けて、五輪スポンサー企業各社は、五輪を活用したプロモーションを展開している。アクエリアスのテレビCMのほかにも、Twitterや「Facebook」といったソーシャルメディアと連携するキャンペーンが続々登場する。
まずはFacebookとイベントスペースを連携したO2O(オンライン to オフライン)施策に取り組む事例から紹介しよう。
「オリンピック」だけでは響かない

7月20日、東京・渋谷の一角に、「ロンドンオリンピック応援グラソーラウンジ」が期間限定でオープンする。日本コカ・コーラの清涼飲料水「グラソー ビタミンウォーター」の商品写真が外壁一面に描かれており、内装は開催地ロンドンのパブやスポーツバーをイメージしてデザインされている。五輪期間中は、この施設内に設置されたテレビで競技を観戦しながら、グラソーや、それを使ったオリジナルカクテルを楽しめる。
ラウンジ開設の狙いについて、日本コカ・コーラグラソー事業本部の馬場健二グループマネジャーはこう語る。「ターゲットとする若い人の中には、オリンピックというキーワードをいくら届けても響かない人も多い。開催地の英国を感じてもらう中で、グラソーを浸透させたい」
このラウンジ、オープン直前まで全面が白い壁に覆われており、全容は外からは見えない作りとなっている。ところどころに穴があいており、そこから覗けば、わずかに中の様子をうかがうことができる。こうして、行き交う若者の好奇心を刺激する。取材中にも、多くの若者が立ち止まり中の様子を覗いていた。
外壁には、英国の人気イラストレーターが手がけたキャンペーンのイメージキャラクターが、ロンドンからドイツ、ロシアなどを経由して渋谷を目指す地図が描かれる。実はこの外壁が、グラソーのFacebookページで展開しているアプリ「進め!グラソー衛兵!」と連携する。
Facebookアプリは、渋谷に向かうグラソー衛兵を応援するもので、応援した人数次第で、キャラクターが次の地域へと移動。そうすると、ラウンジの外壁に描かれたキャラクターも次の地域へと移動する。こんな風に連携している。キャラクターが渋谷に到達すると、ラウンジを覆う外壁が外されて、全容が明らかになるという仕掛けだ。

外壁に表示したデジタルサイネージで流す動画では、「今すぐ(Facebook内で)グラソー衛兵で検索!」「旅の様子は、ココの壁とfacebookでチェックしてクダサイ。」といった画面を織り交ぜて、ラウンジが気になって立ち止まった人に、Facebookページの閲覧を促す。
このような凝った仕掛けを施したのは、馬場氏によれば「インフルエンサーマーケティング」を標榜したからだという。
日本市場でグラソーは2009年7月に東京の一部エリア限定で発売された。テレビCMなどのマス広告は使わず、感度の高い若者に話題にしてもらいながら、クチコミでじっくり顧客を広げるマーケティング手法をとってきた。
クチコミだけで広げる戦略
「マス広告で広く浅いリーチをとるのではなく、限定感を出すことで、心理的にソーシャルメディアに広めたくなるようなマーケティング施策に注力してきた」(iマーケティング&システムイノベーションの竹嶋朋子マネジャー)
主なマーケティング手法はサンプリング。若者が集まる場所でイベントを開いて、参加者だけに商品を配る。その限定感から、ついつい普段から使っているソーシャルメディアに、その情報を投稿してしまう。それを見た友人にとっても、グラソーが気になる存在になってくることを狙った。
今年3月には沖縄を除くすべての地域でグラソーの販売を始めた。ただし、売るのは繁華街や、地方ならショッピングモールなど、若者が集まる場所に限定している。
五輪企画も、グラソーのマーケティング戦略に基づいている。若者が集まる商業ビル「パルコ」の目の前という渋谷の一等地に突如、中身が見えない謎の建物を設置して注目を集める。そしてFacebookページを通じて、情報を小出しにすることで「オリンピックが始まるまでの盛り上がりを作っていく」(馬場氏)。
ラウンジの内装は、5色あるグラソーをイメージしたカラフルなデザインとなっている。また、タブレット端末を操作するような感覚で商品を選べる、全面タッチパネルの自動販売機を用意した。来場者には限定でグラソー衛兵のステッカーを配布する。
Facebookでは写真の投稿が友人からの反応を呼びやすい。だから、来場者だけが楽しめる、もらえるといった限定感を打ち出すことで、写真をソーシャルメディアに投稿したくなるような行動を想定している。
グラソーのブランド認知度は首都圏では7~8割に達するが、発売したばかりの地域では2割程度にとどまっている。ラウンジの開設期間である7月20日~8月12日は学生の夏休みでもある。観光などで渋谷を訪れた首都圏以外の人にもラウンジに遊びに来てもらい、ソーシャルメディア上に話題を広めてもらえれば、地方でのブランド認知度の底上げも期待できそうだ。
ソーシャルメディアと連携したオリンピック企画をバネに、どこまで認知度を高められるのか。グラソーの取り組みはデジタルマーケティングの可能性を推し量る上で、興味深い事例だ。
中南米を狙うパナソニック
また、グローバルブランディングを強化するパナソニックでは、五輪キャンペーンで初めて、1つのコンテンツをグローバルに展開するデジタルマーケティングを実施している。それが、キャンペーンサイト「RUN@LONDON」だ。FacebookやTwitterのアカウントと連携して利用できる。

これは、マラソンコースをランナー目線で楽しみながら気に入った風景を“集めていく”サイトである。コースは全部で6エリアに分かれており、すべてのコースを完走すると、プレゼントキャンペーンの応募資格を得られる。
また、各エリアを完走するごとに、「ビッグベン」や「タワーブリッジ」といった英国を象徴する建物の周辺で“記念撮影”をして、サイトと連携しているFacebookやTwitterなどに投稿できる。
RUN@LONDONには国内からだけではなく、海外の現地法人が運営するサイトからも誘導する。五輪を通じて、世界にパナソニックブランドを広める役割の一端を担うことになる。
サイトが対応する言語は5つ。現時点では、国内だけでプロモーションをしているが、五輪開催にあわせて欧州やアジアなどの地域にある現地法人のサイトにもバナー広告を張るなどして、RUN@LONDONに誘導する。
中でも、中南米でのブランド認知向上に期待を寄せる。というのも、「当社のグローバル戦略において中南米は重要な地域の1つ」(AVCマーケティングジャパン本部コミュニケーショングループWEBチームの米森健太氏)だからだ。中南米にはアルゼンチン、メキシコ、ジャマイカなど有力選手が出場する国が多い。とりわけブラジルのリオデジャネイロは、2016年の五輪開催地でもあり、五輪への関心が高いと予想される。
これら各国では、Facebookの利用者も多い。
ソーシャルメディアに関する様々なデータを公開しているサイト「Socialbakers」によれば、ブラジルは米国に次いで世界で2番目にFacebookの利用者が多い。メキシコは5番目、アルゼンチンは12番目だ。ソーシャルメディアと五輪を連動させたグローバルキャンペーンを実施することで、注力している中南米でのパナソニックブランドの浸透を目指す。
サイトではキャンペーンを通じて訴求する商品も各地域に合わせる。RUN@LONDONでは、コースを閲覧中に録画機器「DIGA」やカメラ「LUMIX」などの広告が描かれたトラックやバルーンが現れる仕組みになっている。
当然、各地域によって戦略的に販売する商品は異なる。例えば、欧州やアジアではデジタルミラーレス一眼を戦略的に販売しているが、中南米ではまだ販売していない。その場合、中南米からアクセスして来た人にはコンパクトカメラの広告を表示する。
前例がない企画だけに、どの数値をもって成功とするかは難しいが、パナソニックではまずは120万人に利用してもらうことを目標に据える。現時点での参加者は約3万7000人。グローバルでの告知の開始でどこまで伸ばせるかに注目だ。