「ネット広告代理店はCPA(顧客獲得単価)偏重で、興味を持っている人をいかに刈り取るかばかり考える。広告は本来、サービスや商材を知って、興味を持ってもらい、購買につなげるもの。本当はネットでも、こうした手前を考えるべきだとずっと思っているんです」

 こう語るのは、大和ハウス工業の総合宣伝部デジタルメディア室大島茂室長だ。同社は今年1月から、第三者配信サービスを利用したネット広告出稿を始めた。それに関する取材の冒頭で、開始の背景を尋ねたときのことだった。

 第三者配信は、広告主側が広告配信サーバーを運用して様々なアドネットワークやサイトへ広告配信をする仕組み。通常の広告配信では、広告をクリックして自社サイトに来た人の動向しか分からないが、第三者配信を使えば広告を「見た」段階から分析できる。

 広告のクリック率は1%未満と言われる。つまり、第三者配信によって従来の100倍もの数のユーザーの行動が把握できる。広告を見ることによる認知、態度変容の効果も推測できるとして、このところ注目を集めている。

大量データに現場で反対の声も

 大和ハウスが第三者配を利用する準備が整ったのが今年1月。3月期決算の同社にとって下期の半ばに当たり、そもそも予算化されていなかった。

 大島室長が取った策は大胆なものだった。確実な効果が見込めるはずのヤフーの行動ターゲティング広告費用の半分を第三者配信に充てることにした。「Yahoo! JAPAN」は第三者配信を受け入れていないのだ。

 「言うだけでは何も始まらない。リスクを取ってもやるべきだ」

 大島氏はそう決断した。短期的にはCPAが悪化するリスクはある。でも、ネット広告の本当の効果を究明したいと考えた。Yahoo! JAPANなどのディスプレイ広告は認知効果が高いはず。逆説的ではあるが、ディスプレイ広告の認知効果を実証するためにその代表格であるヤフーの広告費を削減した。

 第三者配信の開始には、現場から反対の声もあった。詳細な分析のためには膨大な作業が必要になるからだ。MediaMind Technologies(東京都江東区)の第三者配信サービスからは、確かに広告配信の生データを入手できる。しかし、その分析には膨大なコンピューター処理や人的リソースがかかる。数百万、数千万単位の件数のデータ処理は容易ではない。

 大和ハウスグループの伸和エージェンシー(大阪市西区)情報企画部デジタルマーケティンググループの佐藤由紀氏は当初、「生データですか、いりません」と断ったという。

 そこで第三者配信開始とほぼ時期を同じくして、このグループ会社が利用するアクセス解析ツール「ac cruiser」の開発元であるアクティブコア(東京都港区)に第三者配信と連携した分析機能の追加を依頼。この5月からは同ツール内での分析が始まった。

 半年ほど運用して分かってきたことがある。例えば従来、アドネットワークで「小さな子供がいる」「結婚・出産を控えている」「ペットを飼っている、または飼いたい」など、住宅に興味がありそうな層を選んで広告を配信しても、資料請求などのコンバージョンに結びつかないと評価が低かった。しかし、「広告接触も含めて評価するとコンバージョンにつながることが分かった」(佐藤氏)という。今後は、さらに細かくターゲティングをして効果向上を狙う。

 また、コンバージョンに至った人を広告接触とサイト流入の回数でグループ分けすると、今までは見えなかったユーザーの行動が見えるようになった。

初回接触がバナー広告だった6月のコンバージョンを大和ハウスのサイトへの流入履歴数(点の種類)と広告接触数(横軸)で分類し、その比率(縦軸)に基づきプロットして分析した

 広告主の企業は一般に、広告を見てサイトを訪問した人がすぐ資料請求することを期待しがち。だが、コンバージョンした人の8割は2回以上広告に接触していた。佐藤氏は、「ユーザーは検討するなかで何回も広告に接触し、様々なサイトを閲覧し情報収集しながら、認知、興味喚起、行動と態度変容していることが分かった」と語る。

「見える化」でマーケティング改善

 今後はこうしたデータを基にユーザー像を描き、広告と自社サイトのクリエーティブを連携して改善していく。現状でも、検討フェーズが浅く幅広い関心を持つ層には住宅の外観、デザインなどを訴求する広告を配信してインデックスページへ誘導し、興味を持った情報を見てもらう。一方、「スマートハウス」など特定分野の広告なら専用のランディングページへ誘導している。

 こうした広告と自社サイトの連携を進化させていく考えだ。住宅検討といっても、一戸建てを買うのかマンションを買うのかは定まっていない顧客もいる。広告費は事業部別に予算を確保しているので、一戸建てのページを見たユーザーには一戸建てのリターゲティング広告を配信するが、検討段階が浅いと判断されれば、マンションの広告も配信した方が効果が高まる可能性がある。そうした最適化策に取り組んでいく。

 「いろいろな課題を持つお客さまに対し、事業部単位では対応できなくても、会社全体なら対応可能かもしれない」と大島室長。第三者配信を通じたユーザーの「見える化」が、マーケティング全体を見直す材料になる。