「私が想像していた以上に、スマホでの購入が広がっている」

 若年層の女性向けファッション通販サイト「夢展望」を運営する、夢展望(大阪府池田市)の岡隆宏社長は驚きを隠さない。

 同社の顧客の中心は女性で、その平均年齢は22歳、いわゆる“ギャル”。売り上げの約9割はモバイル経由だ。この6月には1日単位で計測した数値ではあるが、モバイル経由の売り上げの過半が初めてスマホ経由となった。

夢展望の売り上げ全体に占めるスマホの割り合いの推移

 これまで岡社長は、今年の年末にはスマホ経由の売り上げが過半に達すると見込んでいた。彼の予想よりも半年近く早く、従来型ケータイ経由の売り上げをスマホが抜いた、というわけだ。「この7月か8月には月単位でみても、スマホが逆転する感触を得ている」と岡氏は言う。

スマホ専用チーム作り経営資源を集中

 もちろん、スマホ経由の売り上げが自然に増えたわけではない。「必死で取り組んだ結果」と岡氏は振り返る。

 「着メロ」や「待ち受け画像」など、従来型ケータイ向けのコンテンツ市場で優位に立った企業が、そうした状況に安穏として、スマホへの対応が遅れ、市場の“敗者”となる例は少なくない。岡氏は、それへの危機感を強く抱いてきた。

 夢展望にとって「モバイル経由の売り上げ」は、経営の根幹。それだけに、従来型ケータイとパソコンへの投資は最低限に抑えて、スマホ専用チームを作り、社内のヒトとカネを集中的に投下した。今年4月には、よりスマホを重視して社員に働いてもらうために、スマホの利用率や売り上げの増加率などを人事評価制度にも取り入れたほどだ。

 同社ではスマホ専用サイトからの購入がスマホ経由の売り上げの大半を占める。これまで従来型ケータイで買い物をしてくれていた既存会員が、順調にスマホに移行していると岡氏は分析する。

 スマホ専用サイトの利用促進を狙って、スマホ利用者限定の施策も展開する。その1つが、会員ページに用意した「ガチャガチャ」でレバーを回すと5%割り引きや送料無料といったクーポンがランダムに当たるキャンペーンだ。「会員ページを閲覧するユーザーは年間購入金額や客単価が高くなる傾向にある」(村上高史販売促進部長)。会員ページの充実は、自社の売り上げ増に結びつく。

 その会員ページを積極的に使うのが、実はスマホ利用者だという。会員同士で自分のコーディネートを紹介しあって、互いに評価する。マイページではこんな機能が人気を集めている。

 こうしたコーディネートを作る際、スマホならタッチパネルを指で操作して、簡単に着せ替えられる。スマホ利用者の方がよく利用するのもうなずける。だから、スマホ利用者によりマイページを使ってもらえるように、クーポンが当たる企画などで、お得感を打ち出している。

夢展望のスマホ専用サイト

 アクセス解析を通じた、サイトの改善にも積極的に取り組む。以前は自社のお薦め商品などをサイトの上部に配置していた。ところが、カテゴリー検索やキーワード検索といった機能の方が利用頻度が高いため、それらの機能を上部に据えるようにサイトを刷新した。

 一方、広告施策では、誘導先となるランディングページを一気にスマホ向けに衣替えするより、従来型ケータイ向けのものを踏襲した方が効果が高い傾向にある、という意外な結果も見え始めている。

 例えば、同社では従来型ケータイ向け広告のランディングページにおいて、単純にお薦め商品を並べたページを用意していた。一方、スマホ向けの広告のランディングページでは、スマホでの利用を意識して、タップしてもらいたいボタンを大きくしたり、動画を掲載したりした。ところが、かえって成約率が落ちてしまった。

 そこで、従来型ケータイ向けのランディングページと同様の作りで、スマホ向けランディングページを構成してみたところ、こちらの方が成約率が高まったという。

 利用者がスマホに移行しつつあるからといって、自社サイトの様々な機能を単純にリッチにしていけばいいとは限らない。従来型ケータイでの強みをいかしつつ、スマホ対応を進める夢展望が見つけた、1つの教訓でもある。