うちの業態ではソーシャルメディアの活用は難しい――。
そう考える企業は意外に多いのではなかろうか。クチコミが発生しにくく商品が高価なBtoB(企業間)系企業、ソーシャルメディアの浸透率が低いシニア層がターゲットの企業などそれぞれに事情があるが、歯磨きやシャンプー、洗剤などを扱う日用品メーカーもその1つといえる。
日用品の多くは、消費者が商品に対する十分な知識を得ながら関心を持って選択するというより、店頭での印象や価格で選ぶ傾向が強いとされる。こうした商品関与度が低い製品は、ソーシャルメディア上での対話も盛り上がりにくい。
それでも、日用品メーカー大手のライオンはこれまで、Twitterを中心にいくつかのソーシャルメディアの公式アカウントを商品担当事業部が主体となって開設してきた。例えば、中性液体洗剤「アクロン」では2010年3月から6月まで、商品キャラクター「洗濯ヨシ子」さんのTwitterアカウントを開設したことでブランドサイトへの誘導に一定の成果を上げた。
それでも期間が終わればアカウントを閉鎖、運営は外部委託。宣伝部の中村大亮氏は、こうした短期的なコミュニケーション活用に限界も感じていた。ライバル企業の活用も進む中、「ソーシャルメディアは顧客との中長期的なコミュニケーションを継続するため、社内の担当者が直接運用に携わってお客様とコミュニケーションをとる体制にしたい」と、徐々に意を強めていった。
そこで、「まずは宣伝部主導で経験を積むべき」と考え、社内運用によるソーシャルメディア活用プロジェクトがスタートした。2011年半ばのことである。
対象商品として最初に選んだのが、入浴後の肌の乾燥を防ぐボディーシャンプーと、入浴液の「バストロジー」だ。美容分野はソーシャルメディアで比較的話題になりやすく、低関与な同社の商品群の中では比較的相性が良いと考えた。
活用の狙いは、入浴後ではなく入浴中からスキンケアすべきという認識の醸成だ。顔と同じように体も“手洗い”でやさしく洗うことの浸透である。バストロジーは手洗いを推奨しているが、それは雑誌などでのメディアでは伝えきれず、ソーシャルメディア活用こそ適切と中村氏は考えた。今年1月18日には「Facebook」「mixi」「Twitter」上にライオン初の社内運用となるバストロジーの公式アカウントをオープンした。
モノ軸でなくコト軸の展開
商品関与度が低い日用品でどうソーシャルメディアを活用し、コミュニケーションを活性化させるか。中村氏はここに2つの解を用意した。

1つは、「モノ軸」でなく「コト軸」での展開だ。「バストロジー」という商品名ではなく「バスタイム キレイ プロジェクト」という名称でアカウントを開設した。
バストロジーに興味関心を持つ人より、お風呂で過ごす時間でキレイになりたい人の方が圧倒的に多い。そうして集まった人に、バストロジーが提案する体の手洗いや入浴中のボディーケアを勧めるのだ。
開設当初は、「私の入浴スタイル」についてソーシャルメディア経由の投稿を募り、優秀作は女性誌「AneCan」で紹介するコンテストを実施して、ファン集めを加速させた。Facebookページにはキャンペーンを手軽に実施できるアプリを導入しており、今後も新商品の先行モニター企画などをこまめに実施して、ファン獲得と同時に商品への理解を深めてもらう。
もう1つのコミュニケーション活性化策が、商品に対するエンゲージメントの深さからファンをレベル分けして、それぞれに適した投稿内容をAからDまで4段階に分類したことだ。

まず、Aは関係が浅い層に向けた内容で、日々のあいさつや今日の乾燥指数といった広く軽く好感を集める情報。Bはやや関係が深まった層に向けた入浴中のボディーケアに関する情報で、Cはより商品情報に近づきマッサージや洗い方などのバステクニックについての情報である。そしてDは、バストロジーの商品開発のこだわりやイベント、広告の紹介といった商品そのものの情報となっている。
A~Dの分類を基に、商品情報に偏りすぎず、その一方で一般的な情報に終始しないようにする。情報過多といわれる昨今、「コミュニケーションの量を増やしても嫌がられるだけ。それなりの質の情報をコンスタントに出すことが大切」(中村氏)との戦術の下、コミュケーションを活性化させていく。
こうした取り組みで、ファン数はmixiページのフォロワー約5600人を筆頭に合計で約8500人を集めた(6月24日時点)。目をひくのはその属性で、FacebookはF1層(20~34歳の女性)が約43%、F2層(35~49歳女性)が約39%、mixiはF1層が約68%となり、20代後半から40代の美容に敏感な女性というバストロジーのターゲット層とピタリ一致する結果となった。
今後、ブランド価値を測定する調査を実施して、ソーシャルメディアでバスタイム キレイ プロジェクトに接触した人とそうでない人で、ブランド認知や親密度、購入意向などに差があるかを分析し、その効果を測る考えだ。
関与度が低い商品ほどソーシャル活用
もっとも、ソーシャルメディアは短期間で成果が出るものではない。当面は、キャンペーンへの参加数、そしてキャンペーン参加者の投稿などを通じて増える露出数などの中間指標から活性化度を判断して、活用を進める。
少しずつ実績も出てきたことで、社内の雰囲気は確実に変わってきた。部署横断のプロジェクトチームは当初、メンバーそれぞれが何ができるか手探りの状態だった。変化を促したのは、ファンやフォロワーからの声だった。
プレゼント当選者からTwitterを通じて賞品到着と同時に感謝の声が寄せられるといった「コミュニケーションのライブ感」(中村氏)は、お客さま相談センターしか顧客との接点がないメーカーでは希有な体験である。また、コンテストに寄せられたターゲット層の入浴体験は、商品開発部門にとって貴重なネタとなる。
ライオンの事例を通して見えるのは、商品関与度が低く、顧客の声が集まりにくい日用品を扱う企業こそ、ソーシャルメディア公式アカウントを開設すべきということ。消費者の生の声を掘り起こすことには、何にも代え難い価値がある。