アトリビューションマネジメントにおいては、自社に効果的な広告メニューを見つけ出す作業が極めて重要になってくる。効果という点で、今注目すべきはリターゲティング広告だろう。サイト訪問者をターゲットに広告配信するため、効果の高さは折り紙付き。ゴルフのポータルサイトを運営するゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)は、リターゲティング広告で顧客生涯価値(LTV)の向上を目指す。
【リターゲティング広告】顧客生涯価値の最大化へ、GDOの囲い込まない顧客戦略
GDOは、メールやポイントといった会員向け販促手法の効果低下を感じていた。「顧客を囲い込むのではなく、そこに寄り添う感じが効果的」(マーケティング部の中澤伸也部長)というマーケティング方針を掲げる。GDO以外の様々なサイトを利用する会員が、ゴルフ場を予約しよう、ゴルフ用品を買おうと思った瞬間にGDOの存在を思い出してもらうため、リターゲティング広告を配信する。
リターゲティング広告の効果を高めるには、自社の実情に即した様々な条件設定が肝要となる。例えば、「GDOでゴルフ場予約は経験があるけど、ゴルフ用品の購入はしたことがない会員」などの条件に応じてクリエーティブを出し分ける。既にクレジットカード情報をGDOに登録していれば、ゴルフ用品購入までのハードルは低い。会員登録しただけの人とは広告クリエーティブは分けるべき、となる。
GDOはグーグルの「リマーケティング」広告、博報堂系のプラットフォーム・ワン(東京都渋谷区)のDSP「Market One」を使ったリターゲティング広告に加えて、この6月からは仏クリテオのサービスも活用し始めた。自社サイト上で閲覧した商品情報から、再来訪の促進に効果的と推測される商品を自動的に表示する。ネット広告は新規顧客の獲得に使うもの。GDOはそんな常識にとらわれずにリターゲティング広告の活用を進めている。
自社サイト内の行動履歴を基に広告を出すリターゲティング広告をさらに進化させ、外部サイトの行動履歴まで広告出し分けの判断材料にするオーディエンスターゲティング広告<●用語解説>への取り組みを進めるのが、住宅情報サイト「HOME'S」を運営するネクストだ。
【オーディエンスターゲティング広告】CPAは3割削減、個別提案を目指すネクスト
ネクストは、利用者の興味関心を細かく把握し、個々のニーズや背景に沿った「コンシェルジュ」のような提案をディスプレイ広告上でも実現したい考え。まずは、リターゲティング広告活用の強化を進めている。従来はグーグルのリマーケティング広告を使ってきたが、サイト訪問経験の有無を見て、広告を出すか否かを決めるシンプルな活用だった。

昨年10月以降、複数のDSPを導入して出稿を始めたリターゲティング広告では、HOME'Sの訪問経験だけでなく、どの物件を見たのかなどを基に、広告上で物件情報を推薦している。
その結果、今年1~3月のインターネット広告によるCPAは、前年の同時期より3割以上も削減できたという。上図のような改善策に取り組んできたほか、今年1月に出稿したテレビCMが自然検索を誘発する効果を生み、インターネット広告の費用対効果改善に影響した可能性もある。が、「ネットでのコミュニケーションを検索中心からリターゲティングに広げたことが功を奏した」(HOME'S事業本部サービス推進部プロモーションユニット長の渡邉雄三氏)ことは恐らく間違いない。
今後はオーディエンスターゲティング広告に本格的に取り組む構えだ。単純に様々なサイトの利用履歴から「新築分譲マンションに興味がある人」とひと括りにして広告を見せるのでなく、利用者の興味関心、ライフスタイル、さらにはマンション購入に向けた段階、フリークエンシー<●用語解説>といった状況をより深く捉え、それらの状況を反映した広告クリエーティブにしていく戦略だ。
例えば、「両親から資金援助を得て、新築マンションの購入を検討しようとする人に向けた広告」といったところまで絞り込む。これに従い、ディスプレイ広告上で物件などの提案をすることを目指す。それを実現するのが、オーディエンスターゲティング広告だ。
同社はグループ戦略の1つに「コンシェルジュサービス」を掲げる。1人のユーザーに最適な情報を取捨選択し、 潜在的なニーズまでも抽出して提案するサービスだ。オーディエンスターゲティング広告の活用は、こうした戦略に沿ったものとなっている。
第三者配信、DSP、アドエクスチェンジ<●用語解説>といったサービスの普及は、インターネット全体を1つの媒体と見立ててディスプレイの広告出稿、効果分析が可能なエコシステムを生み出した。その結果、広告の費用対効果を大きく改善するアトリビューションマネジメントに向けた取り組みが広がってきた。
ただ一方で、緻密すぎるターゲティングの実現によって、ネット利用者に「つきまとわれている」という印象を持たれては、企業イメージに悪影響を及ぼす。連載の次回では、新たなアドテクノロジーが抱える課題をまとめ、その解決策を探る。