ネット広告の効果をクリック数だけで測ってよいものか──。

 デジタルマーケティングの費用対効果の改善に真摯(しんし)に取り組んできた企業ほど、こうした疑問に突き当たる。その答えが、新たな広告技術の登場やその普及によって見え始めた。注目したいのが、通販サイトでの商品購入や企業サイトでの資料請求といった最終成果に対する各広告の貢献度をスコア化する「アトリビューション分析」、そしてそのスコアを基に広告戦略を構築する「アトリビューションマネジメント」だ。その完遂に向けた道程を探ってみたい。

【第三者配信】本当は10倍あった広告効果、真価を見極めた大京

大京はマンション分譲にネットを積極活用(画像は「ライオンズ調布つつじヶ丘」のCGパース)

 アトリビューションマネジメントの実施には、まず現状の広告効果を正確に把握することが出発点となる。マンション分譲大手の大京は、新たなシステムを導入して広告効果の検証に取り組んだ。見えてきたその実態は、従来の常識を覆すものだった。

 同社のプロモーション予算は、折り込みチラシ、住宅情報誌などの紙媒体や屋外広告が中心だ。配布エリアを限定できる紙媒体などで個別物件への関心を喚起して、ネットで情報検索。こうした需要が顕在化した人を自社サイトへ誘導して、資料請求やモデルルームへの来場予約を促すのが基本だ。

 ここ数年、「Yahoo! JAPAN」の利用履歴から住宅に関心がある層を特定して出稿するヤフーの「行動ターゲティング広告」など、ネット広告を利用する比重も高まっている。ただ、業界各社がこぞってこの行動ターゲティング広告に出稿するため、住宅関心層の奪い合いに陥っている。

 そこで、大京が昨秋から検証を続けているのが、ディスプレイ広告の購入・配信システムであるDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)<●用語解説>の活用だ。ディスプレイ広告は通常、広告を掲載したいサイトそれぞれに広告を入稿して、各サイト別に効果を把握する。ところがDSPが備える第三者配信アドサーバー<●用語解説>機能を使えば、様々なサイトへの広告配信、効果測定を一括管理できる。これら、DSPや第三者配信アドサーバーの詳しい内容は、●用語解説をクリックして別ページでご覧いただきたい。

 話を前に進めよう。大京はこの機能を活用して、ライオンズマンションの広告を見た人のブラウザーにクッキー<●用語解説>を保存し、その後の広告クリックの有無にかかわらず、最終的に資料請求などをした人の動きを分析した。

 すると、広告をクリックして大京のサイトに行き、すぐに資料請求した人は、資料請求全体の1割にとどまった。つまり、こうした精緻な分析をしてみた結果、資料請求という「成果」に対する実際の広告効果は10倍あることが、DSPなどを活用することで浮かび上がったことになる。

 ちなみに、残り9割のうち1割は、1度は広告をクリックしたが、そのときは資料請求に至らず、お気に入りに入れたり、後日自然検索したりしてサイトを再訪問。8割は、広告を見たが一度もクリックせず、後に自然検索などでサイトを再訪問して資料請求していた。これはビュースルー効果と呼ばれるもので、ディスプレイ広告を見たことによる認知、興味関心の向上に効果が働いたものと推測される。この効果を決定づける要素の1つがクリエーティブ<●用語解説>である。

 そうした結果について、同社のグループ営業推進部インターネット企画課長の山部崇氏はこう分析する。

 「ディスプレイ広告にはクリック以外の見えづらい効果もあると感じていたが、測る方法論が確立しておらず、数値として顕在化できなかった。最近では、広告クリックが発生しないユーザーのビュースルー効果も、ある程度数値化できるようになってきた」

 ここで、アトリビューション分析で、実際に効果を上げた企業を紹介しておこう。ディスプレイ広告の真の効果を可視化し、予算を最適配分して顧客獲得単価(CPA)を大きく削減したのが、ドメイン取得サービス「お名前.com」のGMOインターネットだ。

【アトリビューションの分析】効果見極め、予算を最適配分、CPAを1割超削減したGMO

 同社はこのサービスで2009年に低価格路線に転じリターゲティング広告、検索連動型広告、アフィリエイトなど効率性の高い広告に軸足を置き、30万件だった年間契約数を100万件規模に伸ばした。実績は出しつつも、マーケティング担当の事業本部ドメイン事業部営業戦略チームの桐原悠氏は、「広告はクリックされたか否かだけで評価してよいものか」と問題意識を持っていた。ただ検証する術が無かった。

 昨夏、GMO NIKKO(東京都渋谷区)が提供するDSP「GMO DSP」を導入、そして第三者配信の対応サイトが広がった昨年10月からはFringe81(東京都渋谷区)の第三者配信アドサーバー「digitalice(デジタリス)」を本格活用し始めている。これらのツールを使い、広告閲覧から契約への流れを把握し、予算配分を最適化するアトリビューションマネジメントに取り組んでいる。

 その結果、「クリックしたかどうかの評価だけでは出稿の増額に躊躇してきた広告メニューに、まだ伸びしろがあることが分かり、2~3倍に増やしたメニューもあった」(桐原氏)という。

 また既存のサイト訪問者と似たネット行動履歴を持つ人に広告を配信するDSPの「オーディエンス拡張」機能を利用した顧客獲得も進めた。こうした予算配分の最適化で今春のCPAは昨年同時期より1割以上削減している。

第2回 顧客に寄り添い、個別提案を実現するターゲティング広告
第3回 必須となるプライバシー懸念の払拭、利用者に支持されてこその広告
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